玉鬘講義(3)
晃は話を続ける。
「その夕顔にとりついた霊については、源氏も見ています」
「しかし、その源氏が六条御息所とは見ていません」
「かなりな関係にあった六条御息所の霊であれば、顔も知ってるわけであるし、すぐにわかるはずなのです」
客たちは、ここでまた、ふむふむと頷く。
晃は、その反応を確かめながら話を続ける。
「六条御息所の生霊が祟ったのは、まず葵の上、紫の上、女三の宮」
「そして、ここが重要なポイントです」
「つまり、葵の上は光源氏の正妻、しかも賀茂祭で赤恥をかかされた相手」
「母は桐壺帝の妹宮にして、左大臣の娘という高い生まれも重要です」
「紫の上はご存知、桐壺帝の弟宮の娘、これも本来は、身分が高い」
「女三の宮にしては、朱雀帝の娘です、内親王です、こうなると葵の上や紫の上よりも、格上です」
「六条御息所は、前の亡き東宮の后で、彼女も本来ならば、かなり位が高い、そのうえ知性、教養、プライドがすこぶる高い」
晃は一呼吸、置く。
「つまり祟ったのは、自分の身分と同等か、それ以上の身分の、源氏の正妻に祟っています」
「それに対して、夕顔の身分は格別に低い」
「女として格上の六条御息所の生霊としては、祟るほどの身分の女ではなく」
「ましてや、源氏の正妻でもなんでもない、単なる情事の相手です」
晃の話に客がひきつけられていく。
キッチンでマスターがポツリ。
「あの当時は身分が大きくものを言った」
「紫の上とて、女三の宮が降嫁されれば、即座に正妻の座を奪われる」
美智子は
「そうなると可哀想だけど、夕顔の身分では、祟るほどの相手ではない」
「自分より格下の女に祟るなんて、自分が恥ずかしいことになる」
「それでなくても、プライドが高い六条御息所か・・・」
「夕顔などが、どうなろうと・・・どうでもいいんだ・・・それも怖いなあ」
マスターは
「さて、そろそろ出しますか」
美智子も
「うん、軽食ですね」
さすがホテルの元同僚、仕事の呼吸は、ピッタリのようである。




