史の悩み(6)
翌日、心配された史は、案外素直にカフェ・ルミエールの地下ホールにやって来た。
もちろん、榊原先生も一緒である。
少し遅れて史の担任と学園長も地下ホールに来た。
まず、学園長がマスター、涼子、榊原に頭を下げた後、話を始めた。
「本当に我が学園の音楽部顧問の不適切な指導に端を発したことで、申し訳ありません、この件につきましては、学園を預かる者として、謝罪をいたします」
「しかしながら、マスターや涼子さん、榊原先生のご厚意によりまして、地域オーケストラとしての活動に、当学園の音楽部いや退部しましたので、元音楽部ですが、参加させていただくことになりました」
「この件につきましても、心より感謝申し上げます」
学園長としては、本当に申し訳なく思っているらしい。
頭の下げ方も本当に深い。
榊原が口を開いた。
「ああ、そんなに心配はないさ、こっちはさ、地元オーケストラで学園の生徒さんを主体に、音大生とか、地元の音楽愛好者、俺みたいな元プロを入れてやればいいしさ」
「学園は学園で、その音楽部顧問の問題が片付けば、生徒さんは音楽部として・・・まあ、二重になるけれど、そんなのはスケジュール調整でなんとかなるしさ」
「このオーケストラの目的は、音楽を楽しむってだけさ、それ以外にはない」
本当におおらかな話しぶりである。
何より、その話を聞いている生徒たちの目が輝いている。
史の担任が、史を見た。
「ところで、史君、どうするの?」
本当に直接的な質問である。
それだけに、全員の注目が集まる。
史は、どうやら、こういう場面は苦手らしい。
それでも、顔を真っ赤にしながら
「えーっと・・・学園内では、新聞部します」
「それ以外の時間は、このオーケストラに入ろうかなって・・・」
ようやくの返事である。
榊原が学園長に声をかけた。
「その音楽部顧問の契約を更新しなければいいだろう」
学園長は、少し困った顔。
「いや、理事会でもそういう話が出ています、何より生徒の評判が悪いですし、しかし後任を探すのには時間が・・・」
榊原はそこで笑った。
「そんなの俺がやってもいいし、仲間を紹介してもいいぞ、心配するな」
これで、音楽部顧問の契約更新は無くなった。
史は「新聞部の時間が許す限り」音楽部の練習に付き合うことになった。
史は、高校生としての勉強、新聞部員としての活動、学園の音楽部とカフェ・ルミエール楽団のメンバーも加わり、ますます忙しくなった。
しかし、これで、悩みの一つは消えたのである。




