史と里奈の御茶ノ水と神保町デート(完)
美味あふれるランチを食べた史と里奈は、本来の目的となる本屋街へ入った。
里奈の求める源氏関係の本は、三省堂で現代語訳で注釈がついた大塚ひかりさんの本を全冊買った。
原文については、ネットの電子書籍で読むことにした。
史
「PCの電子書籍ですごく安くて原文があるよ、それと見比べて読んだほうがいいかな、長い物語だからじっくりと」
里奈
「うん、じっくりと・・・まず自分で読んでみます」
「そして、わからなくなったら史君に聞く」
と、落ち着いた様子。
史
「まあ、父さんもマスターも、大旦那も詳しいから、源氏にはね」
里奈
「そんな・・・恐れ多い、史君のお父さんとか、大旦那なんて・・・」
ちょっと尻込みをする。
史は
「そんな心配ないさ、絵巻とか写本とか、見せてくれるかもしれない」
「古い家柄だし、いろいろあるかも」
そんなことを言うものだから、里奈はますますドキドキしてしまう。
その後は、岩波ホールで映画を見る。
ほとんど他の映画館では見られなような珍しい映画。
北米の小さな町アマストで、白いドレスを着て、美しい自然につつまれた屋敷から出ることなく無名のうちに亡くなったエミリ・ディキンスンが主人公。
死後、部屋から1800篇ほどの詩が発見されて、世界の多くの芸術家が感銘を受けたと言われている、そんな映画。
史
「感動した、さすが岩波ホールだ、中身が深い」
「アメリカの文学も読んでみるかなあ」
里奈
「私は何より泣いちゃった」
「なんか、ジンとした」
「あんな人生もあるんだ・・・」
それでも、家に戻る頃には再び里奈は、超笑顔。
何しろ、史に家まで送り届けてもらったから。
夕焼けの中、里奈は史が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
でも、途中から泣いていたけれど。




