史の悩み(4)
洋子の電話の後、学園内及びカフェ・ルミエールにおいて、すぐに変化があった。
まず学園内では、音楽部全員が揃って職員室にいた音楽部顧問に退部届を提出した。
あっけにとられて怒声を発した音楽部顧問であるが、生徒たちはそれに付き合わなかった。
すぐに音楽部顧問に背を向け、職員室から退室してしまったのである。
音楽部顧問は、怒りに任せて生徒たちを追いかけようとしたが、その前に史の担任に動きを封じられた。
「先生、部活動の加入脱退は原則自由です」
「それに、その手に持たれた竹刀は何に使うのですか?」
その不穏な雰囲気を感じた他の教師も音楽部顧問の周りに集まって来た。
結局音楽部顧問は、退部した生徒たちを追いかけることはできなかった。
一方、カフェ・ルミエールの入っているビル駐車場では、建築関係の業者の車が停まっていた。
そして、音楽部を退部した生徒たちが、作業着を着て、そのビル内に入っていく。
どうやら工事の手伝いでもするのだろうか。
生徒たちを追いかけてみると、全員が階段を地下に降りていく。
少し古めの扉を開けると、生徒たちの、いろんな声が飛び交っている。
「おーい、椅子はこんな配置?」
「ピアノはここ?」
「指揮台はセンターに」
「ねえ、けっこう響くねえ!」
「まさかここに使っていないホールがあるなんて!」
「エアコンと床材と壁材変えるだけなんだって、後は掃除は手伝わないとねえ!」
「当たり前だよ。自分たちがメインで使うんだもの!」
「でも、マスターが追加メンバーがあるっていっていたよ」
そんな話をしているとマスターが扉をあけて入って来た。
「ああ、ご苦労さん、昔キャバレーで使っていたホールだけど、今は空きホールなんだ」
「それから、君たちをメインにしてさ、地域の人とか。音大生も使うよ」
「一緒にやってくれ、それも勉強になる」
「それから、知り合いだけど、新しい先生は交渉中だよ」
涼子も入って来た。
マスターにクールサインをしている。
「ねえ、交渉成立した。来てくれるよ」
「連れてきちゃったし」
マスターは、ここで珍しく驚いた顔になる。
「マジ?冗談でしょ?」
涼子は笑っている。
するとすぐに、扉が開いた。
「おーい!マスター!」
大きくうららかな声が聞こえてきた。
「え?マジ?」
今度は生徒たちが、全員驚いている。




