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カフェ・ルミエール  作者: 舞夢
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カフェ・ルミエール楽団演奏会(12)

カフェ・ルミエール楽団演奏会の二曲目は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第五番「皇帝」である。


指揮者の榊原が指揮棒を振り下ろすと、曲の冒頭部分から、史のピアノの独奏となる。


「ふう!すごい!キラキラ!」内田

「いや、キラキラなんてもんじゃない、いきなりすごい煌めきだ!」岡村

「うわーーーーすっごいなあ・・・」山岡

「練習より光っている!ここまですごい才能とは・・・」尾高

「大きなベートーヴェンだなあ、雄大で美しくて、心に響く」斎藤

音大の超有名な先生方は、いきなり史のベートーヴェンに巻き込まれてしまった。

その反応の強さは女子音大生たちにも同じだった。

「一楽章も感動したけれど二楽章の美しく高貴なところ」

「あの繊細な指の動かし方、音楽というものが、よくわかっている」

「いや、聞き逃せない!黙って」

三楽章に入ると、そんなつぶやきも無くなった。

とにかく聴衆全員が、史の思いっきりの演奏に心を奪われてしまったのである。


そんな聴衆を前に史は三楽章も圧倒的な華やかさと大きさで弾き終えた。

そして演奏終了と同時に、聴衆全体と楽団員から、万雷の拍手である。


「さあ!史君!」

指揮者の榊原は、泣いてしまっている。

あまりの演奏に指揮者も感動してしまったようだ。

そして、史の肩に手を当て、立ち上がらせる。

史は、顔を赤らめ、

「ありがとうございます」と小声で榊原にお礼、聴衆へ顔を見せ、いつものように「キチンとお辞儀」をする。

そしてまた、万雷の拍手に包まれる。


「史君!素晴らしかった!」

その史には、クラスの生徒やインタヴューした部活や学園長、音大生から、夥しいほどの花束が届けられる。

史も、うれしそうに一つ一つ顔を赤らめながら受け取っている。


「ふぅー・・・寿命が縮んだ」

母美智子は、やっと胸をなでおろす。

「だから言ったでしょ?史君は本番には強いって」

奥様はそう言いながら涙を拭いている。

「うん、いい子に育てたね、美智子さん、ありがとう」

御大も相当満足している。

御大の言葉で、美智子は泣き出してしまった。

ただ、姉の由紀は何も言わなかった。

というより、由紀自身が感動してしまって大泣きなのである。


舞台袖口に控えるカフェ・ルミエールの集団もホッとしたようす。

「ああ、これでゆっくり眠れる」マスター

「はぁーーまだドキドキしている」涼子

「私も、なんか涙が止まらない」洋子

「いつもお話している史君が、こんなにすごいなんて」奈津美

「この才能は捨てがたいねえ、プロにならないのかな」美幸

「うーん・・・そんなことより史君を見たい」結衣

「どんな顔して戻ってくるのかな」彩


そんなことを言っていると史が袖口に戻ってきた。

何故か、ちょっと難しい顔をしている。

腕をしきりに気にしている。


その史に里奈がさっと歩み寄る。

「どうしたの?腕が変?」

里奈は、少し心配そうな顔。

史が「思いっきり弾きすぎて」腕を痛めたのだと思っている。


しかし史は恥ずかしそうに笑った。

「あのね、思いっきり弾きすぎて、シャツの脇のところ、破けちゃった」

その史への里奈の反応も早い。

「うん、私が縫う!縫わせて!」


ということで、史と里奈を見守る全員が「何も言えません」状態である。

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