カフェ・ルミエール楽団演奏会(9)
大旦那と奥様は、ゆっくりと歩いて、史と由紀、美智子の前に来た。
「わざわざ、ありがとうございます」
史が例によって、キチンと頭を下げると、由紀と美智子もそれにならう。
どうやら一家の教えのようだ。
「ああ、史君、由紀ちゃん、美智子さん、お顔をあげて」
奥様から声がかかり、三人はようやく大旦那と奥様に向き合う。
「史君、立派になった、本当に」
大旦那は史を見て目を細める。
史も恥ずかしそうな顔になるけれど
「はい、いつもお世話になって」
しっかりと返す。
そんな大旦那と史一家の姿を見つけたのか、音大の先生方が寄ってきた。
「あ・・・これはこれは・・・御大自ら」榊原
「ご高名はかねがね」岡村
「史君とこんなに親しい間柄とは」内田
他の指揮科の大先生の山岡、尾高、斎藤も、大旦那の顔くらいは知っているようだ。
完全に恐縮してしまっている。
「ああ、いや、今日は私が主役じゃないんだ」
「あくまでも、ここの楽団が主役」
大旦那は、あくまでもゆったりと構えている。
少しして、学園長も大旦那に御挨拶にきた。
「本当に、その節は・・・」
おそらく史の交通事故巻き込まれの時の、大旦那の尽力に感謝しているようだ。
大旦那は
「ああ、何とか対応が出来てよかった」
「まあ、前の学園長にしろ、警察にしろ、ヤクザ者を恐れて生徒に泣き寝入りさせるなんて、とんでもないことだからな」
ここでも、ゆったりな反応ではあるけれど、その目は厳しい。
さて、学園長の到着とほぼ同時に、学園の生徒たちも入ってきていたらしい。
そして史を見つけると大騒ぎ。
「史くーん!」
「わ!スーツ姿が可愛い!」
「後でお話しようね!」
「花束あるよ!」
「ねえ!写真撮っていい?」
・・・・・・
女子高校生たちが騒ぎ始めると、女子音大生たちも騒ぎ始める。
「明日音大においで!」
「学園までお迎えする!」
「その後はお食事しようよ!」
・・・・多すぎるから省略。
真っ赤になる史。
ムッとする由紀。
少しオロオロの母美智子。
それ以上に不安な里奈。
奥様は苦笑、大旦那は大笑いになっている。




