カフェ・ルミエール楽団演奏会(7)
泣き出してしまった里奈の涙はなかなか止まらない。
「史君、ごめん、史君、ごめん・・・」
泣き声で同じことを何度も繰り返す。
「うん、いいよ、里奈ちゃん」
史は、里奈の涙の本当の原因はわからない。
それでも、いつもよりしっかりと里奈の手を握る。
「ありがとう・・・史君、こんな私に・・・」
里奈の涙は、また多くなる。
史は、里奈の涙を自分のハンカチでそっと拭く。
「今日はお家まで送っていく」
里奈の耳元でそっとささやく。
「え?いいよ、そんなの史君、悪いって」
里奈はちょっと抵抗。
泣き顔がますます真っ赤になる。
「いいの、僕が送りたいの」
「じゃあ、とにかく帰ろう」
史は里奈の背中に手を添えた。
「うん。ありがとう・・・」
里奈は真っ赤な顔のまま、立ち上がった。
そして史と里奈は、一緒にカフェ・ルミエールの地下ホールから出て、喫茶にも寄らず、そのまま出ていった。
どうしようもなくて見送るしかなかった先生方は様々。
「うーん・・・なかなか・・・やさしい史君だ」山岡
「いいなあ、若いって、いいカップルだ」尾高
「感受性が鋭い時期だし、そういう時期が懐かしいね」斎藤
内田先生はまた別の感想。
「女の子は複雑なのさ、彼氏が輝きすぎるとね、不安も大きくなる」
里奈と史のことをよく知る榊原先生と岡村先生はまた別のことをいう。
榊原
「持ちつ持たれつでね、史君は怪我した時に、さんざん支えてもらったんだから、支えてあげないと、大事なことさ」
岡村
「里奈ちゃんにも、コンサートで役をつければ、少しは気が紛れるかな、史君との共同作業になるからね」
そんな先生方の反応はともかく、女子音大生には里奈がイマイチ気に入らないようだ。
「何?涙作戦?そんなのズルイ!」
「里奈って女の子、可愛いけれど重たくない?」
「そもそもコンサート前に、ソリストに不安と負担?そんなの恋人失格!」
「好きになったら、支え切らないとさ、甘いなあ・・・」
「・・・ということは、付け入る隙間があるってことか」
また新しい火種が発生してしまったようだ。




