カフェ・ルミエール楽団演奏会(3)
里奈は史の不機嫌な顔が気になった。
「ねえ、いろんな人がついてきちゃったのが気に入らないの?」
史に尋ねると、史は不機嫌な顔のまま、頷く。
「音大とか、音大の先生とか、音楽家とか興味がないんだ」
「不特定多数の人の前で弾いて、たくさんの拍手をもらう」
「そういうことが好きな人はその道に進めばいい」
奈津美も、史の珍しく強い口調が気になった。
「史君のその考えは、間違いではないよ、でもね」
奈津美は史の目を強く見つめた。
「演奏はそういう気分でやってはいけない、音楽に対して失礼になるから」
奈津美の言葉に史は頷く。
「うん、ありがとう、僕も音楽とか演奏そのものには、手抜きをする気はない」
「そんなことをしたら、ベートーヴェンとか皇帝という曲に申し訳ない」
史は、少し笑う。
里奈もそれでちょっと安心。
「じゃあ、思いっきり弾いてくれる?」
さっと史の手を握ってしまう。
「え・・・うん・・・ありがとう、里奈ちゃんも」
史は、ちょっと赤い顔。
そして奈津美にキチンと頭を下げ、階下のホールへと降りていく。
それを見送る奈津美
「うーん・・・史君も大変だ」
「演奏は手抜きはしないとは思ったけれど、少し動揺していたから、言っちゃった」
「でも、里奈ちゃんがうらやましい・・・私としては」
奈津美は、ジェラシーを感じている。




