新しい客層
午前中、貸し切りで行われた史の快気祝いパーティーも無事に楽しく終わり、午後7時のカフェ・ルミエールはいつもの静けさが漂っている。
「さて、新しい客層だけど、楽しみだ」
マスターが涼子の顔を見ると、涼子はうれしそうな顔になる。
「そうだね、あの人たち、そろそろだね」
そんなことを言っていると、店の扉が開いた。
「よお!マスター!初めてだよ!」
「ちょっと上品過ぎて入らなかったけどさ!」
「いやーーいい店だあ!」
「値段が高かったら、すぐ帰るぜ!」
涼子が話をした「あの人たち」らしい、今までのカフェ・ルミエールのどちらかと言えば上品な客層とは異なる、4人の壮年の男たちが入って来た。
「いやいや、そんなに高くはないですよ」
「日本酒、焼酎、ビールも何でもありです」
「元気に騒いでもらってけっこうです」
マスターは、本当にうれしそうである。
涼子も声をかけた。
「本当に、産直市の皆さまには、美味しい野菜と卵、牛乳で・・・」
「新鮮ですし、安心できるし」
「私たちも、これほど味が変わるのかって、毎日楽しみでたまりません」
どうやら4人組は、地域の農家、産直市のメンバーで、カフェ・ルミエールの材料をを提供しているらしい。
「いやいや、あの名シェフになあ、俺たちの作ったものを料理してもらえるなんて、名誉だよなあ」
「いつものガチャガチャした居酒屋もいいけれど、実はこういう店も好きさ」
「いや、驚いたなあ、メニューの値段も変わらないねえ・・・種類も多いなあ」
「これじゃあ、帰れないよ、閉店まで飲んじゃうなあ」
4人組もうれしそうな反応を見せる。
「では、まずはビールを」
マスターが全員の前に生ビールを置く。
「ほーーーさすが、泡とビールの配分が完璧だ」
「あの居酒屋のいい加減な注ぎ方とは違うなあ」
「ビールの温度もさ、飲みやすいよねえ」
「これでけっこう味覚は厳しいよ、農家ってね」
本当に美味しくビールを飲んでいると
「はい、枝豆とバターピーナッツ、お通しです」
涼子が4人の前に置いた。
「う・・・甘い枝豆・・・まさかうちの?」
「ピーナッツも?」
「塩加減もいいなあ・・・お通しじゃもったいない」
「こういう使い方をしてくれると励みになるねえ」
結局、他のメニューも産直市の素材を使ったものが中心だった。
焼き鳥、串カツ、野菜炒め、鳥雑炊、サラダ、お漬物・・・
日本酒も焼酎も口にあったらしい。
農家4人組は、本当に喜んで食べ、飲んだ。
「ああ、ありがとう、今度はもっとたくさん連れて来るよ」
「貸し切りでもいいなあ」
「女房も連れて来るかな、料理を教えてもらおう」
「あーーーそうなると、女房たちも喜ぶかなあ」
最後は、本当にゴキゲンで帰っていった。
マスターが一言
「素材は、信頼のできる相手からが、当たり前さ」
「でも、喜んでくれてよかったねえ」
涼子もうれしそうな顔をする。
「そうだなあ、私も畑で何か作りたい」
「汗水たらして畑か・・・それもいいな」
マスターは、何か心に決めたようである。




