源氏物語談義(4)
「それでなんですが、今宵は」
晃が、高橋先生と雛田先生に目配せをする。
そして、客席にも、少し頭を下げる。
「若菜上の話は、まだまだ続きますが、今宵はここまでの話を、深く読みたいと思うのですが・・・」
そう話された客たちも、何も反論もない。
その反応を見て、まず高橋先生が話し始めた。
「まず、若菜には上と下のお話があります」
「その中で若菜上は、光源氏の四十の賀、若菜下は朱雀院の五十の賀の話」
「若菜という名前は、長寿を願って献上される若菜にちなみます」
「まあ、それでも、その名前とは異なって、栄光の裏で苦悩する人々が描かれるわけですが」
高橋先生が基本的な話をすると、晃がその続きを受け持つ。
「まず、朱雀院の悩みの一つが、女三の宮」
「彼女の母は、なんと藤壺の女御、しかも源氏が密通をしてしまった藤壺中宮の腹違いの妹です、本来であるならば朱雀院の東宮時代には入内していたのだから、皇后となってもおかしくはない」
「しかし、例の源氏を須磨に追いやった弘徽殿大后、直接の原因となった朧月夜が朱雀院の心をトリコにしてしまった」
「藤壺の女御は、結局世の中を悲観、そのまま亡くなり、女三の宮だけが残った」
雛田先生が、ここで少し間を置く。
「つまりねえ・・・源氏が一番興味を持ったのは、『藤壺』という名前ではないかとね、考えてみると、まず藤壺中宮への密通があって、その藤壺の腹違いの妹の娘と言えば、ピクンと心が動いてしまったのではないかとね」
「確かに准太上天皇となり、その位につりあう身分の高い姫を迎えるというのは、わからなくもない、一夫多妻制の時代ではね」
「しかし、自分の息子の夕霧より、年が若い女三の宮を嫁として迎えようなどは、いかに源氏が好き心があっても・・・」
「これこそ、魔がさしたんだろうねえ、魔をささせたのか・・・紫式部の意図は、こういうことがあるから面白い」
「まあ、源氏にとっては、紫の上にしても、未だ想い続ける藤壺の血縁、女三の宮も同じ、紫の上も女三の宮も、従妹と言えば従妹」
「そうなると、紫の上も藤壺の人形として育て、女三の宮も同じ」
晃の声が、低くなってきた。
「・・・うーーー深くなるかなあ」
マスターは腕組みを解くことが出来ない。
「うん、ねえ、お客さん、身動きしていない」
涼子も、固まっている。
「いや・・・千年も前の話なのに、取り込まれる」
洋子は、話に入り込んでしまったようだ。
奈津美や、結衣、彩も、まったく仕事がない。
何しろ、客全員が、ステージ上の三人の学者の話に夢中。
誰も、何も飲まず、食べずなのである。




