史の快気祝い準備
カフェ・ルミエールの明日の日曜日午前中は、史の交通事故怪我の快気祝いパーティーで貸し切りとなる。
そのため、今日土曜日の店内では、「史君には内緒にしたい」ということで、史のクラスの生徒や担任、「史君の警護団」を自称する格闘女子たちや、野球部の良夫まで含めて、様々な相談が行われている。
「ケーキは洋子さんに全てお任せ」
「珈琲と紅茶は、姉としてこの由紀が淹れるよ」
「フレッシュバターのバターピーナッツも捨てがたい」
「サンドイッチも入れたい」
「もう少し肉類も欲しいなあ」
「唐揚げは匂っちゃうなあ、ケーキと紅茶とか珈琲の味わいを消すし」
途中からマスターと涼子が加わった。
「お祝い事だからねえ・・・お赤飯とか」涼子
「ちらし寿司もいいなあ、華やいだ感じになる」マスター
それでまた議論が変わる。
「うん、お赤飯は時々食べたくなる」
「ちらし寿司に合う飲み物は、どうしても緑茶かほうじ茶かなあ」
・・・様々、楽しい話が続いていると、店の扉が開き、一人の女性が入って来た。
その女性を見て、史の姉、由紀が立ち上がった。
「母の美智子です」
由紀は、すぐに母の横に立ち、学生たちに母美智子を紹介する。
「本当に何から何まで、マスターや涼子さん、洋子さん、そして学園の皆さまにはお世話になって」
母美智子は、本当に丁寧に頭を下げる。
泣いてしまっているようである。
「・・・そんなね・・・美智子さん・・・頭を上げてくださいよ」
マスターは美智子をよく知っているらしい。
涼子も美智子に声をかけ、その肩を抱く。
「元は、三人とも同じホテルで修行した仲間だもの、助け合うのは当たり前だよ」
驚く学園の生徒たちに洋子がそっと教えた。
「全員、横浜ニューグランド出身」
「マスターはこの店に入る前は、歴史に残るレストラン料理長」
「涼子さんは、フロント係で何度もホテル協会№1賞を受賞」
「美智子さんは、実はパテシィエで・・・私の大先輩で先生なの」
「私がこの店に入れたのも、実は美智子さんから、マスターに・・・」
洋子も涙ぐんでいる。
マスターが泣いてしまっている美智子に声をかけた。
「ねえ、美智子さん、あれ、作れるかなあ」
涼子と洋子も「あれ」でわかったらしい。
「お願い!作って!」涼子
「もう一度、教えてください!」洋子
洋子は美智子の手を握って「お願い」までしている。
美智子は、また泣き出してしまった。
「そんな・・・うれしいよ・・・」
由紀が泣き出した母美智子の隣に立った。
少し笑っている。
「実はね、全く同じ材料は、準備済みなんです」
「明日は・・・史君が泣いちゃうなあ」
少し間があった。
「史君、あのケーキ大好きだしね」
由紀も結局、涙顔になった。




