召喚勇者、フラフラと
四話も書いてまだヒロインのヒの字もないなろう小説なんて需要あるの?
魔王を斬ってはや三日。勇者は未だフラフラと街道を彷徨っていた。
◇
すでにいくつも山谷を超え、終末の魔王の居城からは大分離れた場所である。
人間の利用する街道と魔王の居城が三日で行き来できるかという疑問はあるだろう。これは昼夜問わず動き続けることができる勇者故の速度であり、常人なら二週間以上かかる。
大軍ならばなおしかりである。
さて、肝心の勇者であるが、なるべく早く魔王の居城から離れるために三日間飲まず食わず休まずの強行軍で進んでおり、もっと言うなら魔王軍に仮参入してから一食も摂っていないため、ほぼ十日近く絶食状態である。
こんな状態でもまだその気になれば全力で動けるというのは、他の勇者と比べると絶大と言える加護であった。
とは言え、さすがの勇者も長期間の絶食、および不眠不休状態になったことはない。騎士団長の元ですら、三日三晩戦い続けたことはあれど、十日も休息をとらないなどということはなかった。当然身体は違和感を感じており、使い古した衣服と鎧も相まって、側から見れば行き倒れ寸前の幽鬼の如き姿であった。
◇
この近辺は治安が悪い。と、言うよりは誰も彼もが魔王軍にかかりきりで、盗賊野盗の類の取り締まりまで手が回っていないのだ。
最前線の魔物たちは、勇者や凄腕の騎士、冒険者達でしか対処ができない程強力だ。それがうようよと潜んでいる山林を根城にしているのだから、賊というのも実に強かだ。
自然と、のさばっている野盗は厄介な連中が多い。騎士団が手出しできないよう態と魔物の巣窟を根城にしたり、魔物を避けつつ効率的に人を襲う連中もいたり、単純に騎士団並みに腕が立つ連中もいる。
運悪く、勇者はその賊に鉢合わせてしまった。どっちの運が悪いかはお察しだろう。
十万相手に犠牲を出さずに戦える男である。たかだか数十人の賊など三分とかからず地に伏せることとなった。
賊の側から言わせれば、フラフラと覚束ない足取りで、しかし携える得物は上等に見えるのだから、そりゃ誰だって狙うだろう、とのこと。
勇者は勇者でそんなこと言われても…と一瞬呆れていたが、すぐに『また人間を相手にしてしまった』と気分が滅入っている。
しかしそこは速攻で魔王に見切りをつけた勇者。賊だし、街で引き渡せば人の役に立ったと言えるだろうと、とりあえず全員の両手を縛り紐でつないで歩き出した。
段々とその奇妙な大名行列とすれ違う人が多くなってきた。
これは街も近いかなと思いながら、勇者は通行人を人質にとろうとしていた山賊Eくらいの奴をしばき倒す。これもかれこれ五回目くらいである。
もはや賊達もこいつ相手に人質が取れるとは考えられず、しかし一回くらい見落とすのではないか、と賭けるものももうすぐなくなるのにそんなトトカルチョに興じていた。
もうそろそろ丸一日。不休で歩かせ続けられ、休息もないのだからと、せめてもの娯楽を生み出していた。
街の門は、もうすぐである。
人物紹介
山賊頭領
運悪く勇者と出逢ってしまった山賊。総勢五十二名、一人一人が騎士団の幹部ほどの腕前を持っている。が、そこは勇者、あっさり片付けてお縄に。趣味は追い剥ぎコレクション。
山賊E
道行く人を人質にとろうとしたコンパチ。とはいえ両手が縛られている上に一瞬で勇者が反応して目の前にくるのだから内心ビビり倒している。
山賊たち
ちなみに何人か脱走を試みたが、五十二人の列から同時多発的に何人も散り散りに離れようとしたにも関わらず次の瞬間には何事もなかったかのように元の位置に戻っている。縄も解いたはずのものがまた己の腕を縛っている。ポルポル。