召喚勇者、出奔後。魔王軍にて
この形式需要あるんですかね。
魔王軍の台頭とその壊滅により、手柄を横取りされる勇者が増えてきた昨今。さして関係はないが大混乱となっている魔王軍の一つがあった。
何故か魔王軍についた勇者の強さは尋常なものではなかった。邪神信仰が最も盛んで、優先的な警戒対象にされていたある魔王軍の四天王の一人は語った。
◇
ーーええ、奴ははっきり言って異常でした。勇者のくせに何故だかうちにやってきて、仕事が欲しいと宣ったのです。まあ時々いるんですよ、人間に絶望して復讐してやろうって輩が。隈が濃くて目付きも悪くって、てっきりそんな輩だと思ったんです。ここまでたどり着ける人間はそうはいないのですけど、珍しいなぁくらいにしか思わなくって。まあ、今思えば勇者の作戦だったのかも知れませんねぇ。
『作戦、とは?』
ーーいえね。まず、うちって人間に一番警戒されてたらしいんですよ。まあそうですよね。うちの魔王様、絶対人類滅ぼしてやるんだって張り切ってましたから。今時珍しいですよね、そこまで過激なの。他所の魔王はだいたい支配目的なのに。
ああ、話がそれましたね。
それでです。まあ勇者を自称する人間が寝返りにきたのは流石に初めてだったのでね、四天王の私にまず取り次ぎがきたんですよ。
丁度聖騎士供との決戦の前でしたからね。こちらとしても、総力戦の前にそんな厄介なネタ抱え込みたくはなかったんですね。だから言ってやったんですよ。
『そこまで言うなら忠誠を示せ。聖騎士供と戦ってこい』ってね。
少し悩んで、『分かった』って言って出て行ったんですね。忙しいし、逃げたんならいいかと思って、一応尾行の部下を一体つけてたんですね。そしたら、本当に倒してくるじゃないですか。十万を一人で。それも聖騎士を。これは後で知ったんですけど、全員気絶させてたんですってね。さすがに吃驚のレベル通り越して腰抜かしかけましたよ、あの時は。
それでですね、自分では処理しきれないと思いまして、普段は警戒して引きこもってる魔王様に報告に行ったんですね。尾行させてた奴の記録魔晶見て魔王様、直接会うって言われましてね。私も止めはしたんですけどね。それでもぱっと見聖騎士供は死屍累々だったもので、これ魔族だったら褒賞モノですからね。まあでも相手が人間だったんで、ボロクソですよ。魔王様人間嫌いなので。
そしたら、魔王様私の目の前で真っ二つですよ。普通、何でどうしてとか困惑する場面なんですけど、何となく『あ、これが目的か』って納得しちゃって。要は引きこもってる魔王様を引きずり出して倒すって作戦だったんでしょう。
で、トップを失い混乱した我々は、復活した聖騎士供によって壊滅させられ、生き残りは散り散りに、という具合です。
『なるほど』
ーー最初は本当に悔しかったですよ。まんまと騙されたのは勿論、あんなにあっさりと魔王様がやられるのを目の前で見せられたんですから。
ただまあ、時間を置いてみるとあれですね。
私、よくあの時死ななかったな、と。
で、あそこまで綺麗にやられると段々と怒りが萎んでいくというか、元々魔王様も苛烈な人で、時々ついていけないなぁと思うこともあって、今では辞めるいいきっかけだったと思ってますよ。
『このお仕事を始められたのは、それからですか?』
ーーそうですね。元々趣味だったのもありますし、何よりあの時の勇者の一閃は、憎くもあり、しかし美しかった。あの光景を形にしたいと思い、今こうして試行錯誤しているわけです。まあ我らも力の信奉者、魔族ですから。強さに惹かれるというのは分かってもらえるんじゃないかと。
『そうですね。かの“終末の魔王”を一撃ですからね。私はその気持ち理解できる気がします』
ーーそう言ってもらえると私も嬉しいですね。
一部では勇者に降った臆病者などと揶揄されることもありますが、応援してくれる方は多いですから。日々励みになっています。
『私も応援しています。頑張って下さい』
ーーありがとうございます。
◇
『今をきらめく魔族の抽象画家、元終末の魔王四天王、その過去に迫る』より抜粋
人物紹介
終末の魔王
数いる魔王のうち、人類滅亡を掲げる過激派。邪神の信奉者であり、魔族上位主義筆頭。倒れ臥す十万もの聖騎士を見て内心この人間使えると思って顔を見せたらバッサリいかれた。勇者の元上司が元上司だったし仕方ないね。
終末の魔王の元四天王
現抽象画家。四天王の中では口調や趣味に反して脳筋な方だったりする。普通の勇者では束になっても相手をするのが難しい終末の魔王を一撃でバッサリいった姿が心に焼き付いており、あの光景を形にしたいと日々絵を描き続けている。