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入浴が出来るのは嬉しい。

だが問題がいくつか。

まず、当たり前だがお風呂は全裸になる必要があり、よってアオと引き離されるのが決定する。

いくら幼馴染でも小さな頃も含め一緒のお風呂に入った事はない。それだけ男女の差は大きい。

のちに黒歴史になる事をどちらの両親もわかっていた。…ありがとうございます!

最も、アオはともかく私の方は記憶が戻っていたので促されても拒否はしたけれど。

次に風呂場に精密機器の持ち込みは遠慮したい。防水加工にも限界はあると思うし。

そもそも、されてないモデルだった気がする。

多少、水で濡れるくらいなら許容範囲だろうけど。

ただ…人が入浴している間に荷物を漁られるのは困る。

実物を見せた事のあるボイスレコーダー以外の使い道なんて想像できないとしても。

さっきの話し合いでボイスレコーダーが一切話題に出てこなかったのも怪しいといえば怪しい。

あれほど強烈な印象を与え、かつ脅威になると分かっている物を放置するとは思えない。

あの場での録音も当然、視野に入れてるはずだ。

と、なると考えられる事は2つ。

自分達の都合の良い様に事を進め、反対にそれを証拠として使うため。

もう1つは後で回収して壊せばいいじゃん!という解決方法だ。

最も、こちらはそれを見越しての3重録音体制だったのですが。


準備が出来たと報告にきた兵士は先ほど部屋の中にいた兵士で、いつの間にか伝令に出されていたらしい。

所在なさげに立っている神官の横を通り部屋をでる。

浴場は同じ建物内にあるらしいが、けっこう長い廊下を歩かされる。東と西とかで分けているのかもしれない。

最初に案内された部屋のちょうど反対方向だと思われる。

行き止まりが見えたところで兵士の足が止まる。

「手前が勇者様に使っていただく浴場になり…お連れ様は奥を使ってください」

予想通り、別々にされるらしい。

男女別なのだろう、脱衣所と浴室はパッと見である程度の距離がある。大声で叫んでも駆けつけるまで多少の時間はいる距離だ。

不安はあるが、仕方ないので文句は言わないでおく。

大勢で一度に使う…というものではなく、1人ずつ順番に使っていくものなので遠慮なく寛いでくださいと説明される。…今の状況では難しいのでは?と思わなくもない。

手前――アオが使う方で兵士が見張りに立つそうで…1人で奥へと向かう。

一度、角を曲がった先に木で出来た扉があり、そこを開けると脱衣所になっていた。

入って右には大きめの籠がいくつか置いてあり、空のものとタオルが中に入っているものの2種類があった。

これを使えという事だろう。

1人になったところでまずはスマホの録画を止める。

ボイスレコーダーの方は部屋を出た時に切ってある。

スマホの方は中身を取り出さなければ操作できなかった為、今まで撮りっぱなしだ。容量の残りと電池の残量が心配だ。

ドアを入った正面には浴室へと続いていると思われるドアがあり、こちらの材質も木だ。

湿気対策なのか、足元と頭の部分はなく、これなら誰かが入って来た時すぐに分かりそうだと思ったのだが、中も調べてみると少し入った先で曲がっている。…これだと人が来ても直ぐに気付けないかな?

脱衣所は木で出来ていたのだが、浴室の方は湿気対策なのか石造りになっている。

奥まで見に行ってもそれは変わらず、1人用と思われるバスタブが置いてあった。

湯はたっぷりとはられているし、それとは別に追加用なのかお湯が入ったバケツも3つ置いてある。

他は小さな桶が1つと石鹸が1つ。

…そっか~、シャンプーとかリンスとかないよね?

むしろ石鹸がある事に感謝するべきか?

当然ドライヤーなんかもないよね。

文明レベルが違うのだから当たり前だし、前世ではこれが普通…というより高待遇の部類に入る。

責めるべきではないが、愚痴はでてくる。

人間は贅沢には直ぐに慣れるというのは本当だと実感させられる。

蛇口を捻れば飲める水やお湯がいくらでも出てくる生活など、こちらでは夢物語だし、想像もしない。

向こうでの生活をこちらでも維持しようとしたら人も金も足りなさ過ぎる。

一国の1年分の予算であっても、あっという間に使い切ってしまうレベルだ。

王宮にいてもコレなのだから、旅とかちょっと考えたくない。

前途多難だと、改めて理解する。色々な意味で。


脱衣所に戻り、さて…と鞄を漁る。

万一を考えて盗られたり見られたりすると困るものを風呂に持ち込むことにする。

いっそ鞄ごと持ち込みたいが防水加工がされてないし、あまり警戒しているところを見られたくない。

こちらが警戒している事をしられると相手も慎重になるだろう。油断してもらっている方が何かと動きやすい。…すでに手遅れの気はするが。

確かあったはず…と鞄の内ポケットを探せばエコバッグがでてくる。

エコに厳しい母親の厳命の元に持たされているものだが、使用頻度は低い。

買い物命令がでた時のスーパーくらいでしか使わないからだ。

コンビニなどだとつい忘れてしまう。

断る前に袋に入れてくれるので、そこから断るのはなんとなく面倒だという理由で。バレルと母親には怒られる。

MサイズとLサイズの中間くらいの大きさのエコバッグはパン1つお菓子1つで使うには大きすぎるというのも理由の1つだ。

ただ、今はその大きさが助かる。

水筒とお弁当、あと名前が書いてあるノートや教科書。鞄に入れっぱなしの生徒手帳を移し、筆箱も入れる。

鞄が空になってしまったが仕方ない。

万が一突っ込まれたら、どうして知っているのかと逆に問い詰めればいい。当初の計画と間逆になるが。

これでようやく入浴の準備に取り掛かれる。

ダミーのボールペンだけポケットに残して脱いだ制服を畳んで空いている籠の1つに入れる。

タオルは大きめのバスタオルサイズと小さいフェイスタオルサイズがあったので、小さいほうを浴室へと持ち込む。エコバッグに入れた他の物も含め。

木戸を通った後で、ふと思い立ちスマホの録画を再起動させ、脱衣所が見える位置で壁に立てかけておく。

位置的に何か置いてある事に気付いても、私から見える位置でもあるので取りにきたら止める事が出来る。

さ、これで安心して入れる!


エコバッグは脱衣所からは見えない位置に置く事にした。バスタブまで距離があるので濡れないと思う。

少しワクワクしながら入ったお風呂はぬるかった。

追い炊きはもちろん出来ないし、冷たくはないので風呂に入れるだけ贅沢というもの。

石鹸も使わせてもらったが、泡立ちは良いとはいえず、洗った後に肌がつっぱる感じがあった。

他に選択肢がなかったので髪もコレで洗ったが絶対に傷む。リンスもないし!

転生小説などもいくつか読んだ事があるが、その主人公たちは前世の知識を活かし自分で石鹸やシャンプーリンス、化粧品などを現地の材料と技術で開発してしまうものも多かった。それらを参考に出来ないかと思い出そうとするが…無理だ。

材料はハッキリと出ていたものもあったが、詳しいレシピが載っているものは少なくとも私が読んでいるものにはなかった。

あえて調べようとも思わなかったため、記憶にはおぼろげなものしかない。

かろうじて思い出せたのは某忍者アニメで得た知識で、大豆の煮汁がリンス代わりになるというくらいか。インパクトが強かったので覚えている。

匂いとか、保存方法、日持ちする日数などは気になるが試す価値はある。

前世ではくせの強い髪質だったため、伸ばしたら邪魔だとしか思えず短く切っていた。

現在も良いとはいえない髪質だが、それでもキチンと手入れをすれば伸ばせる髪質だったため伸ばしてきた。

けどこっちでは切った方が楽かも。

動き回るなら長い髪は邪魔になると思うし。

前世ほど短くする気はないが、背中の中ほどまである髪を肩の辺りまで切ってしまうのはアリな気がした。

…アオはサラサラなんだよねぇ、ろくな手入れをしている様子もないので羨ましい限りである。


ぐるぐると考え事をしていると、すっかりお湯が冷めてしまいだいぶ長湯になってしまった。

アオも待っているだろうし、そろそろあがるか。

ずっと見張っていたためスマホは無事。中に入ってきた者もいなかった。

回収して録画を止めてから脱衣所に戻る。


「やられた」


籠には入れておいた制服はなく、代わりに簡素な生成りの服が置いてあるだけだった。


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