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アオがこれだけ頑張ってくれたのだから、私も何か言った方がいいのか…。

でも下手な事を言って、せっかく優勢っぽい雰囲気になっているのに、邪魔をしてしまうかも。

どうするべきかとアオを窺えば、にっこりと微笑まれたので黙っている事にする。

うん。

触らぬ神に…というやつだ。

「アーガスタ・オクス司教」

ゆっくりと、恐怖を煽る様にフルネームで呼びかける。

「僕は難しい事を聞いているつもりはありません。

あなたが順を追って説明をするというので最後まで聞きました。

けれどあなたは自分の要求を突きつけてくるばかりで最初に僕たちがした質問に答えてすらいない。

それは不誠実ではないでしょうか?

僕たちがこの世界に来て関わった人物はとても限られていて、その限られた人物の中でもあなたは立場と責任をお持ちのはずだ。

そのあなたが僕たちにした行いは決して誠実とはいえるものではなく、信頼に値しない事ばかり。

世界が危機に晒されていると言われても、僕が実感するにはいたらない。

現時点ではただの情報の1つでしかないし、日々を過ごすにあたって直ぐに埋もれてしまう程度のものです。

そんな人達のために僕は自分の命をかける事も、誰かの命を奪う行為もしたくない。

僕にしか出来ない事だと言われても、一考の価値すら見出せないのはあなたの責任です。アーガスタ・オクス司教」

実際の責任の所在は不明だが、勇者が断じてしまえば責任を言及するものは当然出てくる。自分の身に飛び火しないように追及は過酷なものになるかもしれない。

そうなった場合、教会内での地位も、この国での権威も全て失ってしまう。

今までの対応を見ても世のため人のため神のため…などという人物ではなさそうだし、この脅しは有効だ。

顔色を青くさせた司教は震える声で答える。

「勇者様たちを元の世界へお返しする方法は私たちには伝わっておりません」

ようやく質問の答えが聞けたが、求めるものではなかった。

予想はしていたがハッキリすると、それはそれで辛い。…まぁ、嘘を吐いている可能性は残っているが。

「それはおかしいのでは?

今までの勇者は役目を終えた後に全員がこちらに残ったんですか?」

「もちろん元の世界に帰られた勇者様たちもおります。

しかし勇者様を帰還させたのはウィクリア神であり、我々人間の力では…」

「おかしくないですか?

僕たちを呼び寄せたのは神ではなく、あなた達でしょう?」

「それは…」

「呼び出す方法はあるのに、帰す方法がないとは思えません。

過去に僕たちの様に帰還を望むものが皆無だったとも思えません」

「いいえ、今までに断られた事など…!」

「記録の改竄なんて容易に行えるでしょう?」

歴史なんて権力者の都合の良いように改竄される。

3世代も経てば“本当の事”は埋もれてしまうし、そもそも勇者の召喚に立ち会えるものなんて少ないはずで。

その何人かの口を塞ぐのも簡単に行える。

「そんな…そんな事は…」

「ない、と言い切れますか?」

「………」

アオの問いに否定するのは簡単でも、それを証明する手立ては司教にはない。

彼ではなく、過去の誰かがしたかもしれない事だからだ。

「僕はあなたを信用できません。

だから、あなたの言う事も信じられません」

ハッキリと、信頼関係が出来ていないと告げ、

「分かりますか?」

その後に敢えて問いかける。

「本当の事を言ったとしても信じてもらえない。その程度の関係しか築けてないんですよ、僕たちとあなた方とは」

今まで表面上だけだが、ずっとにこやかに話していたアオが声も、表情も冷たくして言い放つ。

「他に方法がないからと、魔王退治に向かったとしてもその道中、あるいは魔王本人に元の世界に帰してやると言われれば、僕たちは逆らわずそれを受け入れます。

なぜか?

あなた方に好意の一欠けらさえ持ってないからだ。

大体どうして僕が勇者だと思ったんですか?

同時に呼び出されたのだから彼女が“勇者”かもしれないのに。その可能性すら思い浮かばず彼女に対して行った失礼な言動の数々を僕は決して許さない。

僕が勇者であると、なんらかの確信を抱いていたとしても、急に違う世界に連れてこられた彼女に対しての敬意は感じられなかった。

その態度がどれだけ僕たちに不安と不快感を与えるのかも考えもしない、あなた方はその程度の人だと印象付けるには充分でしょう?」

内心でどれだけ歯がゆく思おうとも、この場で弁解する術はない。そうした場合、こちらの心象が更に悪くなるぐらいはわかるだろうから。

「…だから取引をしましょう?」

一転して優しい口調になったアオに縋るかの様な視線を司教が向ける。

「僕はあなたに、あなた方に誠意を見せてもらいたい」

部屋に居る全員の注目が集まる中でアオはゆっくりと口を開く。

「僕たちが帰る方法を探して、見つけてください。

あなたが使える権力と人脈と知恵、もちろんあなた自身も部下任せにしたりせず、寝食を惜しんで尽力してください。そして、例え世界を救う前であっても方法が見つかったなら直ぐに知らせて下さい」

「勇者様は我らを見捨てると…」

「そうならないように努力をしろと言ってるんですよ、アーガスタ・オクス司教。

帰る方法が見つかるまで、僕の方でも前向きに検討はします。

その間に僕が“世界を救う努力をしてもいい”と思わせてください」

終始アオのペースで話が進んでいく。

「わ、わたしの一存では…」

「逃げるんですか?

僕は他の誰でもないあなたと話しているんですよ、アーガスタ・オクス司教。

王が反対しようが、教会の誰が異を唱えようと、あなたがする努力とは関係がないでしょう?」

司教に反論を許さず、ドンドン追い詰めていき最後には頷かせてしまう。

「…わかりました、全て勇者様の言うとおりにいたします」

「ありがとうございます。

…では、今度は僕の条件の希望を聞いてもらいましょうか」

「…え?勇者様が出した条件は今のでは?」

「やだなぁ、今のは最低条件に過ぎませんよ、前向きに検討するための。

ここからは“魔王退治”を円滑に進める為の意見と要望です」


第二ラウンドの開始である。



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