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部屋に放り込まれてはや数時間。

一応の対策も立てた後では正直言ってヒマ。

いつもであれば暇潰しの方法などたくさんあるが、今は話をする以外には思い浮かばない。

なので今の議題は先ほど飛ばした“いかにバレズに盗撮をするか?”という普段であればヤバイものとなる。

「見せたとしても何かは分からないと思うんだけど」

「それは言えてる。ただ“それは何?”と聞かれた場合、なんと答えても怪しいんだよね」

「確かに。例えば“鏡”です。と答えたとしてもなんで今必要なのか?と聞かれたら困るね」

「オフにしてる時は真っ暗だから鏡って言い張れば納得しそうだけど、録画してるとこ見られたら言い訳も難しくなるし」

「話し合いの時には鏡を横に置く風習があるんです!って言い張るとかは?」

「う~ん…」

大胆な提案に思わず呻ってしまう。おそらくアオが言い張れば怪しんだとしても納得はするだろう。

相手側からすればアオ=勇者の機嫌を損ねるのも避けたいだろうから。ただ…。

「出来れば実物も見せたくないんだけど…」

本当の機能なんて説明しなければ分からないだろうが、既にボイスレコーダーは見せているので何か察する可能性はあるし、得たいのしれない物に対しての警戒はするはずだ。

「ちょっと遠くにセットしておくとか?」

「この部屋以外で話し合いが行われた場合は?」

ここで話すなら確実にテーブルが置いてある部屋でするだろうけど、特に隠してセットできる場所はなかった。

それにあまり離れると画像として意味のあるものが撮れるか…ズームにすると画質が荒くなるし。

「あ、袋に入れるとかは?」

やっぱり無理だろうかと諦めかけていた私と違いアオは名案を思いついたと声をあげ実演してくれる。

お弁当箱を入れていた巾着袋にスマホを入れる。

「ほら、こうして入れた後に固定して、カメラの場所に穴を開ければ撮れると思う。

怪しまれるだろうけど実物は見られないから…この後は大きさが同じくらいの何かをいれておけば誤魔化せるんじゃないかな?」

ふむ、今までの中では一番現実的かな。

多少のサイズの違いは実際に手に持たれさえしなければ気付かれにくいだろうし。

代わりとしては…生徒手帳でも放り込んでおくか。氏名の欄はマジックかなんかで塗りつぶしておこう。

「よし、じゃあそれでいこう!」

決めてしまえば行動は早く、さっそく試作してみる。

ソーイングセット等があれば楽だったのだが、常備してないので他の代用品を探す。

柄が可愛いと完全にノリで買った大きいサイズのダブりクリップがあったのでそれを採用する。

とりあえず固定が出来ればいいと紐でぐるぐると縛ってみる。…う~ん、先に左右を固定してから縛った方が安定するかな?

色々と試した結果、まず左右どちらかにスマホを寄せて固定。余った上の部分を後ろに折り曲げ、前の部分に布がかからない様にして布を後ろで折りたたみ紐でぐるぐると結んで固定。

ここでカメラの部分に穴を開けて完成。

実際に録画できるのかテストしてみたところ距離感が難しいが撮れる事は撮れる。後は練習すればより見やすいものが撮れる様になりそうだ。最悪、音声は撮れるので妥協する。

後は…。

筆箱を漁って取り出したのはボールペン。

見た目はボイスレコーダーとして使っているものと似ている。…というより似ている物を買った。

こっちと違い、向こうは知識としてボイスレコーダーというものが存在しているのはモチロン、ペン型もあると知っている者は多いはずだ。

そこで怪しむ者がでてもおかしくないし、確かめようとする者もでてくるかもしれない。

それの対処用に買ったもの。

普通のボールペンですよ。と見せる為に買ったので似ている物を選ぶのは当然だ。

万が一無くした時や壊れた時ように予備も買って家に置いてある。

自動録音機能が付いた物とかもあったが、音が途絶える事のない場所では返って使い勝手が悪く、購入したのはスイッチを押せば録音でき、もう一度スイッチを押せば録音を終了し保存するというシンプルなものにした。

意外と安価で買えるのにビックリしたが、高校生にはキツイ値段だ。

相手にはボイスレコーダーの存在は知られてしまっているので隠さず堂々と見せる。ただし偽物を。

あの場でよく見る事は出来なかっただろから、見破られる可能性は低い。

本物は先ほどと同じポケットの中。多少のノイズは許容内だ。

…不安はあるが盗撮方法も決まったところで一旦休憩。

集中力がこれ以上は持ちません。

息抜きがてら今度は使えるアプリの開拓をはじめる。

「タイマーとか目覚ましアプリは使えるみたいだな」

「オフラインでも有効なアプリは使えるってことかな?」

2人でかたっぱしからアプリを起動させていく。

「地図アプリと天気アプリは無理」

「現在地不明だしね」

結果として、数個のアプリが使える様だった。

ゲームアプリも使えるものがあったけど、電池が勿体無いからこれは封印だな。

使えそうなものはなかったが、録画と写真が撮れるだけでありがたい。メモ機能も使えるし。

「ところで…いつまで待たせるつもりかな?」

確認したところ時刻は夕方。

いつもだったら家に帰るなり遊びにいくなりしている時間だ。

この国では日が長いのか、外はまだ明るい。

…帰りたいな。

自然に思った。

この国はもう私の国ではない。故郷という概念は前世から希薄だったが今は余計だ。

ぼんやりと考えていればノックの音がした。

強めのノックは奥にいても聞こえる様にか、アオと顔を見合わせ隣の――廊下へと続く扉がある方へと移動する。

「あの…勇者さま」

今度は控えめなノックの音と共に気弱そうな声がかかる。

「なんですか?」

呼ばれているのが“勇者”なためアオが返事をする。

「お食事をお持ちしました」

「だって。どうする?ツキちゃん」

小声で聞いてくるアオに頷く。

食べるつもりはないが、食べたと思わせた方がいい。

“ヨモツヘグイ”を狙ってるならそれで油断だろうし、後でバラス事で有利に運ぶかもしれない。

「今あけますね」

断りを入れてからアオが自分で扉を開ける。

金属製のトレーの上にパンとスープが2人分のっており湯気を立てている。

アオが受け取ったものを更に私が受け取りテーブルまで持っていく。

食事が出るって事は単に長期戦になるだけかもしれないな。

「あの~、僕たちいつまで待っていればいいかって分かります?」

「申し訳ありません。わたしの方にはまだ連絡がおりておりません」

「そっか」

想定内の返答だったのか、アオは短く頷くとありがとう。と言ってドアを閉めようとする。

それに待ったをかけたのは兵士の方で声をかけた後に言いにくそうにしている。

「なんですか?」

一見、温和に促すアオだが内心でイラついているのがわかる。

声に多少の棘を感じるのは幼馴染ゆえの経験からで、それが分からない兵士は安心したのか先を続ける。

「勇者様は世界を救ってくださるのではないのですか?」

「…逆に問いますが、あなたは自分と全く縁のない世界に誘拐されて、使命だとか一方的に言われて戦う事が出来るんですか?」

「…も、もちろんです」

「それは広義においてあなたが戦う職、あるいはそれが前提の職についているからでは?」

「それはどういう意味でしょうか?」

「そうですね…。

親の庇護下にいるのが当たり前の年頃の子供を誘拐して、国のためだからと、お前が生き残るには戦うことしかないのだと追い詰める人をどう思いますか?」

「それは…」

質問に答えることなく質問を重ねていくアオに、兵士はついに言葉が詰まった。

「あなた方が僕たちに対して行った事はそういう事です。

僕はあなた達に対して嫌悪感しか抱いていません。………他に質問は?」

「…ありません」

「食事はありがたくいただきますね、ありがとうございます」

すごすごと引き下がる兵士にそれから、と言葉をかける。

「上に今のやり取りを報告しても僕たちは困りません」

おそらく笑顔で止めをさせば兵士の顔は青くなり失礼します。と扉を閉められる。

上からの命令で今の問いをされたのだと見抜いた事も同時に伝えるアオは…確実に怒っている。

怒らせると怖いんだよね…普段が温厚なので余計に。




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