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トランが奥に行ってしまったせいで気まずい沈黙が教会内に満ちる。
コミュ力高めと思われた護衛は先ほどの件が後を引いているのか視線がさ迷い落ち着きがない。
私とアオが話す事もなく、私から護衛に話す事もないので沈黙だけが続く。
アオもコミュ力が高いほうだと思われるので、話したくないという事だろうか?
あ、でも話題の中心になる方ではあるが自分から話題を振る事は少なかったかもしれない。
私?
コミュ症と呼ばれる類の人間ですよ。
学校で完全に孤立せずいられるのは全てアオのおかげです。そのせいで敵も作っているのは否定できないですけどね。
話しかけられれば答える事は出来るけど、自分から声をかけるのは難易度が高いので限られた人しかいない。友達と呼べる人は更に少ない。
原因は前世の記憶にあると言い訳をし溶け込む努力を怠っているので結局は自分自身のせいなのだが。
仕方ないとはいえ、かなり殺伐とした前世の記憶があるせいで私の感覚はいわゆる“普通”とはだいぶ外れてしまっているし、下手に混じるとより異質さが極まるので自分から距離をとっているところもある。
少し仲間はずれにされるくらいは今さらなんとも思わないし、返って楽だな~とか思っている。
物理的な被害がでるなら対処はするが、陰口を叩かれるくらいなら放置できる。
物を隠されたりとか壊されたりとか被害が出た場合は当然やりかえすし教師に報告もする。
苛められて恥ずかしいとか情けないとか思わないので、ただひたすらに面倒くさいだけだ。
確かに親に知られると心配を掛けてしまうので、それは避けたいが黙っていれば被害は悪化していくもの。なお証拠は必要なのだと学んだ事でボイスレコーダーを持ち歩く事になりました。
ペン型なのは気付かれにくいため。
暴力行為に及ばれた場合は刑事事件にする事も厭いません。
やり返しただけなのにこちらが被害者になるのは納得いかないんですよ、理不尽な行為をしていた身でいえる事ではないんですけどね。
異質なものは排除されるが異様なものは距離を置かれるのですよ。
避けられはするが直接的な被害がないなら平和だな~と言い切れるメンタルの持ち主ですよ私は。
護衛への気遣いを一切見せる事なく更に待つことしばし。
一応は初めて来たところなので気になります感を出しつつ辺りを観察する。
思わず脱出経路とかのルート予測を立ててしまうのは前世の職業病かな?
入ってきた正面入り口の他に出入りに出来そうなのはトランが入っていった奥へと続く扉。
非常時は窓から脱出…というのがセオリーだろうか?
ただ換気用らしい窓は頭より上の位置にあるし、そもそも小さい。
昔ならともかく今は梯子は必須になるだろうし、体格的に通れるかも微妙。小さな子供なら余裕だろうが私ならギリギリ…といったところか。
おそらくこの丘全てが教会の敷地に入るのだろう、ポツンと一軒だけ離れた位置に建てられているので逃げるとしたら目立つ。
立地的に隔離されているので、誰かを閉じ込めるには向いている。というよりそういった側面もあるしね、この世界の教会って。
問題を起こしたが牢屋に入れるわけにもいかない人とか、隔離しなければいけない状況の人とか。
その場合の見張りは最小限だろうから、いかに早く民家のある辺りに紛れ込むかだか…などと考えて時間を潰しているとようやくトランが戻ってくる。
トランはパッと見は中年の神父と若いシスターと、8~12歳くらいの子供を5人と一緒だった。
なるほど、子供を使っての懐柔作戦か。
あいにく私は「子供はみんな天使」とかいう思考の持ち主ではないので、むしろ嫌い苦手の部類に入る。
「遅くなりましてすみません。…アオさん、ツキさん。こちらがこの教会を管理している」
「イトギ・ギヨルと申します」
「ラナイ・ナーバと申します」
神父、シスターの順で名乗ってくれたのだが…“ナーバ”ねぇ。
「初めまして、アオです」
「ツキです」
偽名という事は宣言しているので今回は普通に名乗る。
「この子達は?」
シスターの側にいる子供たちへとアオが目線を向けると最年少らしい少年は怯えてシスターの影に隠れた。
「上からスイ、ユユ、ツハ、ソウ、トウといいまして、ここで世話をしている子達です。
お前たち、挨拶しなさい」
神父の促しに1人ずつ名乗ってくれるが、その顔はみなどこか強張っている。ちなみに順番は上から男女女男男だった。
つまりは孤児と呼ばれる子たちなのだろう、服装は質素で飾り気もなくバラバラなため制服などではなく寄付などで賄っているらしい。健康状態も良好ではなさそうだし、清潔ともいえない。…神父とシスターとは違って。
「アオさんはウィクリア教についてはどの様に聞いておりますか?」
「さわりぐらいですね」
にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべて問いかける神父はトランからアオの正体でも聞いたのだろうか?それともあの召喚の場にいたとか?
私の方など見もせずにアオにばかり話しかける。
そんな神父から距離をとろうとしている様に見える子供たちは全員がシスターの側から離れようとしない。全員が怯えた表情を浮かべているのが気に掛かる点。
シスターの表情も心なしか暗いし、またアオに話しかけようとしてさりげなく神父に邪魔されている点もふまえ、いわゆる役満というやつでは?
教会の権力はバカに出来ないので面倒事は避けたいのだが…。
「すみません、ルナイさん。よければツキちゃんの相手をしてもらえませんか?女性同士の方が話が合うと思うので」
にっこりと笑みを浮かべながらの指示をされ、アオも気付いたようだと判断する。
「お願いできますか?」
「え、ええ…」
アオがやる気なら仕方ない。こちらも覚悟を決めて取り組みますか。
「あ、もちろん子供たちも一緒に。そうだ!外で出来る遊びを教えてあげます。外で遊びましょう!」
戸惑うシスターに厚意を装い有無を言わさぬ提案をする。
従っていいものかと逡巡している様子のシスターを見てアオが神父に構いませんよね?と伺いを立てる。
「お連れの方もそういってくれますし、そうしなさいルナイ」
優しげな声なのにどこか寒気のするそれは強制力を伴っている。てか私も名乗りましたよね、本当にアオにしか興味がないな。
ま、その方がやりやすいですけど。
「はい。…では中庭に移動しましょう」
気の進まぬ様子ながら子供たちと移動しようとするシスターに神父は声をかける。
「ルナイ、わかっていますね?」
「もちろんです。…あなたたちも失礼のないようにね」
神父による確認にシスターは頷き、子供たちにも促す。子供たちはバラバラに肯定の返事をする。その声には張りも元気もない。
な~んの確認でしょうかね?
性格もあるだろうから子供たちのうち1人2人ならともかく全員が暗いってのはね、ありえなくはないんだろうけど…。
さ~て、この世界がますます嫌いになる様なお話が聞けるかな?




