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場所を移動する様に言われ、1人の兵士に付き添われ召喚の儀式をしていた大広間から出る。

よろしければ荷物を預かります。と言われたが信用していない者に渡すわけがない。

結構ですとお断りをし、取られないようにと片手で鞄を。

もう片手で幼馴染みの手を握る。

コツコツとやたら良い音がするのは地面が石、兵士の靴が金属で出来ているからだろうか?

フルメタルではないが十分重そうな鎧に、腰には剣をさしている。

相手は今のところ1人だが、こちらは丸腰、おまけに逃げ出したところで帰る方法などわからない。

少なくとも暫くは情報収集にあたるべきか。…命だけは保障されているのだし。

無言で歩くこと数分。

石畳の廊下から外が見える渡り廊下を通って今度は木造の建物に入った。

「こちらが居住区になります」

言葉少なに説明され、いくつかの扉を通りすぎそこそこ大きな扉のついた部屋の前で止まる。

「こちらの部屋で勇者様にお休みいただく様にとのことです。

お嬢さんの…」

「一緒の部屋で構いませんので」

続く言葉を遮り、勝手に中に入ろうとすれば止められる。

「そういうわけには…キチンと部屋を用意してますのでそちらに移動をお願いします」

「私はあなた方を信用していません。彼と離されるのは拒否します」

「俺も彼女を1人にするのは同意できません」

「そんな…」

おそらくそこまで地位が高いというわけではない兵士は与えられた命令を完遂できなそうだと顔面蒼白になる。

「そちらの都合で呼び出しておいて、こちらの都合を慮ることはしないと…」

もう少しハッキリと誘拐という言葉を使いたかったけれど…あまり刺激するのもマズイかなと幾分マイルドな言い方をする。

「ますます私達があなた方に抱く心証が悪くなりますね」

もともと0に近い好感度なので更に落ちても変わりはしない事はわざわざ口にはしない。


「どうぞ」


かなり長い時間、葛藤をしていたが結局はこちらに引く気がないと悟ったらしく部屋への扉を開けてくれた。

「わたくしは、扉の前で待機していますので何かあれば遠慮なくお申し付けください」

つまりは見張りという事か。

彼の強さがどの程度のものか量る事もできないが…一般人2人を捕らえる事くらいは容易のはず。

「わかりました。ありがとうございます」

棒読みで礼の言葉を告げて今度こそ部屋の中へと入った。


部屋に入ってすぐに4人がけのテーブルがあり更に奥の部屋は寝室になっている。

1人用のベッドにサイドテーブル、それからクローゼット。

一応中を確かめてみるが両方カラだった。


外で見張られている事を考えれば作戦会議はこちらの寝室でするべきか。

部屋に入った時にはもう手を離していたのだが、幼馴染みは荷物置くと隣のリビングから椅子を一脚もってベッド近くへ置き座る。

靴のまま生活するスタイルの国で床に座るのには抵抗がある。

ベッドを譲られたのでありがたく腰掛けた。

部屋の確認も終わり、ようやく2人きりになれた事もあり肩の力がぬけてしまう。

「あ~つかれたぁ」

幼馴染みもそうだったのか、いささかオーバーリアクションをとるのに同意する。

「そうだね、一カ月分の気力を使った気分だよ」

「でも月緋はすごいよね、毅然としてた」

「怒りが先にたったし、帰りたい気持ちが強かったからね」

異世界召喚を喜べる感性はしてないし、どうやら幼馴染みもそうであるみたいで何よりだ。

まずは持ち物確認と、鞄の中身を漁るが…普通に学校に行く予定だったので大した物は入っていない。

教科書とノート、筆記具、水筒、お弁当、お菓子とジュース。後はスマホとモバイルバッテリー。

同じようにごそごそと確認していた幼馴染みも似たようなもの。

放課後ではなく朝に飛ばされたのは不幸中の幸いか…。

特にスマホの充電率は100%に近く、バッテリーもあるので一回分は充電できる。

ネットや通信は無理でもカメラや録画機能は使える様だし、アプリもタイマーや目覚ましなら使えるかもしれない。

「しっかし異世界転生?召喚?って本当にあるんだな」

「…そうだね」

どこか暢気な幼馴染みにあいまいに頷いた。

小説、漫画、アニメ、ゲームなどなどで触れる機会も多い“異世界”

むろん、その殆どが誰かの想像の産物であるだろう、だがその中の1%くらいが本物であっても驚きはしない。

自分で体験したからだ。

ちなみに今ではなく、いわゆる“前世”というもので。

…しかも教会のシンボルマークを見る限り、同じ世界らしい。

かつての私が生きていた世界と、今、私たちがいるこの世界は。

前世の私が生きていた時代からどれほどの未来、あるいは過去かは分からないが…それほど年代が離れていなければ知り合いがいる可能性もある。確立は低いだろうけど。

はぁ~…。と、特大のため息が漏れる。

せっかく前世とは違う血生臭くない平和な世界を謳歌していたというのに!台無しである!

中二病発動してやたらとリアルな前世を捏造し、あまつさえ夢にまでみちゃった☆とかいう夢オチを希望する!まぁどっちも(前世・今世)リアルすぎてそうは思えないんですけどね!

「あ、一応この世界のものはギリギリまで口にしないで!あと本名バレもさけて!」

主にラノベ等から得た知識からの注意点を叫べば妙に順応性の高い幼馴染みは「了解、ツキちゃん」と昔のあだ名を持ち込んでくる。

この年になると微妙なくすぐったさはあるが「よろしく、アオくん」と、こちらも昔のあだ名で呼び返した。

普段は慎重なくせに、妙なところで度胸があるのは前世から変わらない。

そう…私もだがアオくんもこの世界と縁がある。

先代か先々代か、あるいはもっと未来のだかは知らないが。

彼は前世の私が生きていた時代の勇者の生まれ変わり(仮)だ。

(仮)が取れないのは本人に確かめてはいないから、直接訊ねたところで否定されても、覚えていないんだと思えば(仮)が取れる事はないし私の黒歴史が量産されるだけ。

言いふらす様な性格はしてないけどウッカリ洩らす事はある。悪げなく言っちゃいそうな気がする!スゴく!

というかコレに関しては前科持ちだ。

幼馴染みと言う関係性がゆえに互いに持っている“本人以外は微笑ましいエピソード”というものをガンガンばらしてくれるのだ!

思えば私が前世を思い出すきっかけもアオくんだった。


出会いは3歳のとき。

道端でバッタリとか運命の出会いを想起させるものではなく、単純に幼稚園で同じクラスになっただけ。

入園式も終わり数週間、そろそろクラスに慣れてきた頃のお絵かきの時間に彼は話しかけてきた。


「どうしてこっち(右手)をつかわないの?」


という子供らしい純粋な問いだ。

当時の私は右利きだったくせに左利きの様に振舞っていた。

左利きではないので上手く使えないのにクレヨンもスプーンもフォークもおもちゃも全て左手で持っていた。

上手く扱えなくとも幼いからだと両親もごく普通に私は左利きだと信じていた。

むろん、私も疑問に思ってなかった。

幼稚園の先生たちにも連絡は行っていた様で、特に注意されたことはない。それまでは。

子供の親切心からか、左手に握っていたクレヨンを右手に持たされ描いた絵はそれまでで一番描きたいものが上手く表現できた。

今まで出来なかった事がたやすく出来る事に感動を覚えつつ、これじゃない感はくすぶり続けた。

子供ながらになぜだろう?を追求し続けた結果、前世の事を思い出した。

前世の私が左利きだったのだ。

前世では左利きは生きにくく、昔の日本もそうであった様にだいたいの人が右利きに矯正する。私もそうだった。

ただ、ある程度育ち、繊細な動きをするには元もとの利き手の方が断然使いやすい。

両利きは有利な点も多く、ある程度お金の都合が効くようになってから左手用の武器を調達する様になった。

左利き相手だと多少のやりにくさはあるのか、無事に成人年齢まで生き残る事が出来たし、その道では異名が知れ渡るほどには有名になれた。


勇者暗殺の命を受け、返り討ちにあった暗殺者ーー通称レッドカーペット。

それが私の前世だ。

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