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私が幼い時のアオを“アオ”と呼んでしまった理由がコレだ。

私が知る勇者――つまりはアオの前世の名前が“アオ”だった。

当時の私は違う名前だと頭ではわかっているのに口に出すと何故か“アオ”と呼んでしまっていた。

前世の記憶を思い出した後は理由がわかったせいか、そう呼ぶ事も徐々に少なくなっていったのだが…結局、数ヶ月に渡って呼んでいた。

いや~当時は辛かったわ。記憶が完全に戻っていないので普通の幼児の思考だったからね。

本人であるアオは責めてこないのだが、先生にはやんわりと、クラスメイト達にはけっこうキツク呼び方に対する注意を受けた。女子の場合は嫉妬も混じってたと思う。子供でもそういった感情はちゃんとある。

アオは私が呼ぶ分には気にしていなかったのに、他の人が呼ぶとやんわりと本名呼びの方がいいな。と訂正しており、それが余計に煽る結果になったのは確かだ。

「…他に“アオ”という名の勇者はいましたか?」

「いえ?記録が残っている限りは存じません」

念のために確認してみれば否定されたので、先代勇者=アオの前世で決定。

更に私の前世が生きていた時代も50年前で決定。

…50年前なら残っていて使える情報などもいくつかあるかも。

持ち家だって、いくつかは使える状態で残ってる可能性もある。

時間が出来た時にリストアップして、どうにか確かめにいくか。

心の中でメモしておき、改めて続きを促す。

トランはあまり気にする性質ではないのか、続きを話したいだけなのか今度はパーティメンバーについて語りだす。

「え~と…勇者様は当時、騎士見習いだったトマ・ザカンス様と宮廷魔道士見習いのミナサ・トーネ様の3人で旅を始めたそうです。彼ら3人の英雄譚の一部は歌になったり劇になったり本になったりしているので機会があれば目にする事もあると思います」

詳しい内容を語る気は今はないようで、勇者は魔王と相打ちになり世界の平和を守って死んでしまい長い旅路の果てに戻ってきたのはこの2人だけだと締めくくる。

「故郷に戻った2人は勇者の意思を継ぎ、世界の平和に貢献して人生の最後まで立派に振舞った。といわれております」

凄い方々ですよね、と同意を求めてきたトランには愛想笑いを返しておく。

誰だよそいつら。

という正直な感想を口にするわけにはいかないので。

先代の勇者パーティにそんな2人どこにもいなかったし、そもそも最初は1人で旅立ったと勇者本人から聞いた事がある。

先代パーティはレンジャーの男性、魔導師の女性、商人の男性、そして勇者と暗殺者である私の5人パーティだった。

勇者が帰ってこないのをいい事に国ぐるみで英雄をでっち上げたのかな?

その方が色々と便利に使えるだろうし。

もう滅びた方がいいんじゃない?その国も。

50年経ってるなら首謀犯は死んでるかもしれないが、勇者の名がいいように利用されたという事実は不快感がある。

暗殺者である前世の私が省略されている事はしかたないし、加わった経緯が経緯なので記録に残しがたいだろう。途中離脱したし、なかった事にされていても不思議ではない。

無事に生還できたとしても表舞台に立つ事はなかったと思う。

けれどあの3人の事までないがしろにするというのはどうだろうか?

命がけで世界を救った相手に対して手柄を横取りしたうえ、英雄譚の都合の悪い部分の生き証人なのだから場合によっては始末されたっておかしくない。

アオに対するほど深い情を3人に対して抱いているわけではないけれど、数ヶ月の間一緒に過ごしてきたのだから嘘吐き2人に対してよりは好感を持っている。絡み方が鬱陶しくはあったが善人よりの人であった事は間違いなく、不幸になるよりは幸せになっていてほしい人たちだ。

何より孫であるという兵士がああなのだから、祖父である馬の骨共も人格者であるとは思えない。

娘が国を越えて嫁入りしてきたそうなので、実際に育てたのは兵士の両親だろうし1度も会った事がないというのもありえる。

だが、他人の手柄で出世したという事実は変わりなく…その後の足跡を調べてみて英雄という嘘に胡坐をかいて過ごしていた様なら許さん。それをして許されるのは嘘吐き2人ではなく、あの3人であるべきだ。

心の中のメモにトマ・ザカンスとミナサ・トーネの名をブラックリストとして書き込んでおく。

「なるほど、では今回の旅にも誰か同行する予定だったんでしょうか?」

「…それは、私の方まで情報がおりてきていません」

「そうですか、ありがとうございます」

前回の仲間も勇者本人が見つけたというのだから、今回もそのつもりだったとしてもおかしくはない。

無事に魔王退治を終えて戻ってきても勇者本人は元の世界へと帰るのだし、一緒にいた仲間が都合の悪い人物なら暗殺して自分達に都合の良い人物へと摩り替えてしまえばいい。

その方が効率的だ。

司祭との話し合いでも、誰かを旅に同行させると言う話は出てこなかった。

戦闘訓練の講師すら王の許可が必要という話だったのだ、もしも同行者がいたのならとりあえずの講師役はその人になっていたはずだ。

つまりは今回も身1つで死地に追いやられていたかもしれず…勇者の扱い低くないですか?

それともウィクリア様の導きのもと仲間は自然と集まります。とでもほざくつもりだろうか?

完全に魔王退治を丸投げしている。サポートとかする気もないのに、手柄だけは自分のもの。もしも失敗したら次を呼べばいいとか思っていそうだ。

トランは好意で教えてくれたのだろうが、王や国に対する不信感をアップさせる結果となった。

表面上は笑顔のアオも同じだろう事がわかる。

…ゲームなどでは普通の扱いも実際にされてみるといかに理不尽な扱いだったのかわかる。

RPGとか魔法が使える様になるまではモンスターとの殴りあいですからね、下手したら死ぬ。回復大事。

3人の間に会話がなくなり、きまずい沈黙が流れる。

トランは居心地が悪そうにアチコチに視線をさ迷わせるが会話の糸口は見つからない様だ。

…今まで唯一といっていい好感度が下がっていない相手なので、私も助けてあげたいのだが下手に口を開けば余計なこと(前世知識)を言ってしまいそうなので自粛。

誰も喋らない状態が数分続いた時にノックの音が響く。

「は、はいっ!」

ビクリと体を震わせながら大声で返事をしたトランは慌てて扉に向かう。

状況が改善された事に私もアオも顔を見合わせこっそりと息を吐いた。

目線でトランの動きを追っていると、ドアから入ってきたのは大柄な男だった。

服装こそ今の私たちと似たようなものだが、鍛えているとわかる。

「初めまして、勇者様。お嬢様」

テーブルに着いたままの私たちに向かって男は大きな声で挨拶をしてくる。

パッと見た感じ、護衛を首になったあの兵士より腕は立ちそうだし、なにより私に対しても嫌悪感を持っている様には見られない。…少なくとも表に出さないだけの分別はあるようだ。

「本日サマ・ケウオチに代わり護衛の任に就くことになりました、ワサキ・クブシャといいます。

街中の散策という事で目立たぬようにという指示があり軽装でのお目見えご容赦ください」

声も大きくハキハキと話すさまはアレだ、いわゆる体育会系を彷彿とさせる。まぁ兵士とかそんなやからが多いのは否めない。

「それで、町ではお2人をどう呼べばいいでしょうか?」

こちらが挨拶を返す前にされた質問に、さすがに街中で勇者様、お嬢様はないよな…と納得する。

街中でそんな呼び方をしていたら目立つ。

私たちが小さな子供ならそういう遊びの最中だとでも思ってくれるだろうが、この年で勇者ごっこもない。

本名を名乗れと言わないのは、アオが前に拒否したからか。しかし咄嗟に偽名がでてこず口ごもる。

「…トランさん“アオ”という名前は珍しいものでしょうか?」

「いえ、50年前なら珍しい名でしたが、今は勇者にあやかって名付ける者も多く一定数はいると思います」

「なら僕の事はアオと呼んでください」

自分のあだ名をさも今思いついた偽名として使うアオ。

「ではお嬢様の方はミナサ様のお名前を名乗られますか?」

トランが私の方に確認してくるので、それに便乗してしまうのが簡単なのだが…正直過去の仲間の手柄を横取りした人物の名前を名乗りたいとは思わない。

「彼女の事は“ツキ”と呼んでください。

僕の国の言葉で、素敵な女性を喩える言葉ですから」

言ったもん勝ちですね?

異世界の国ではこういうんです。と言われてしまえば反論は出来ないし、調べる方法もない。

私たちの証言=真実だが…理由付けが適当な気がしてならない。

アオだけでなく私もあだ名をそのまま使えるのは助かるが、もういっそ付き人の“ツキ”でもいいのでは?

その方が2人も納得しない?と思ったが、ここでの私はアオの婚約者だ。

婚約者を付き人呼ばわりとか人としてダメだよね。

しかしこちらも素直に聞き入れるわけにはいかない。

「そういう恥ずかしい名前は遠慮したいんだけど」

元もとの言葉はちっとも恥ずかしくないけどね!

「うん、でも本当のことだし」

微笑む事で有無を言わせず押し切ろうとするアオに反論しようとしたところでトランに止められる。

「まあまあツキ様、アオ様もこういってますし」

「やぁ~、お2人は仲が良いんですねぇ」

「婚約者ですからねぇ」

意外と適応するのが早いトランと何故だかうんうん頷く護衛。に、にこにこと嘘を広めるアオ。

…裏事情をしる者から見ればカオスな空間と化していた。


好感度がある程度あがると名前で認識してくれるようになります。


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