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帰りの案内は神官がしてくれたので、そのまま話しが始まるかと思ったのだが…準備があるので。と出て行ってしまう。

「…やりすぎたんじゃない?」

「だってアイツ嫌な奴じゃん。

あんなのと一緒だとか楽しめなさそう」

「交代要員がアレよりマシとは限らないけど?」

「あれだけやったんだから、少なくとも表面上は気をつけるでしょ」

「…そうだといいけど」

あんまりやりすぎると私だけでなくアオの立場も悪くなりそうで心配だ。

あいつの態度はどうかと思うが、私が最初にやらかしたせいでもあるのだろうし。

次の人の態度を見て、似たような感じだったとしてもあまり好戦的にならないほうがいいかも。

色々と疲れたし、2人きりになったところで肩の力が抜けたのか一気に喉が渇いた。

テーブルの上に置かれていた水差しから水を飲む。

「ツキちゃん、俺も欲しい」

「…ん」

水を飲みながら返事をし、別のコップに水を注ぐ。

朝食を食べた時に飲んだはずの水差しの中身がいっぱいになっているので、部屋に人が入ったらしい。

隣の寝室を見ればベッドメイキングが終わっているようで朝の寝乱れた様子は一切見られない。

たぶん、部屋の掃除もされている。

やはり荷物は持って移動して正解だ。

いっぱい入る代わりに大きいし普通の学生鞄だが、この世界では珍しい形をしているので町に出たら悪目立ちをしそうだ。

「…鞄、持って行くと目立つと思うけど」

「でも持っていかないわけにもいかないよね」

今は制服を入れてるせいもあり、そこそこ嵩張っているうえ教科書のせいで鞄はそこそこの重さを持っている。

登下校くらいの時間ならともかく、一日中持って移動するとなると地味に辛い。置いていけるものなら置いていきたいのが本音だが…ここの人たちを信用出来ないのでそれも出来ないというのが現状だ。

進んで敵を作っているのでは?という苦言は受け入れません。誘拐したあの人たちが悪いのだから。

2人そろって溜息を吐いたところでノックの音がした。

お決まりのようにアオがドアを開ければそこにいたのは先ほど別れた神官だ。

今は私達と似たような恰好をしており、手には何やら色々と持っている。

「すみません、ひとまずコレを置かせてもらっていいですか?」

キチンと許可を取るところが好感がもてる。

断る理由もないのでテーブルに置いてもらえば「ありがとうございます」と礼の言葉を言われる。…これがあの兵士なら何も言わずに我が物顔でテーブルに荷物を置いていた事だろう。

神職に就いた人が全員善人だとは限らないけれど、この人は信用できそうかな?

あの兵士にした所業を見て演技をしているという可能性はあるので、警戒を完全に解く事は出来ないが表面上は不快な気分にならず話が出来そうだ。

「改めまして、トラン・ポートミヤと申します。

よろしくお願いしますね、勇者様。お嬢様」

相変わらずのお嬢様呼びは慣れないものがあるが、キチンと挨拶をしてくれた相手にはこちらも挨拶を返す。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

こっちは名乗りませんけどね、例えこの人が信用できても洩れた先で悪用されたら嫌だし。

「よければ掛けて下さい、護衛の方が来るまで立ったままというのも辛いでしょうから」

「お気遣いありがとうございます」

アオが椅子を勧めれば素直にテーブルに着くので、私達も座る事にした。

神官――トランの正面がアオで、その隣に私が座る。

「まず、こちらを見て頂けますか」

そういってテーブルの上に広げられたのは羊皮紙で、そこには歪ながらも鳥が翼を広げた様な絵が描かれており、それぞれ左右の翼と胴体が接する部分に真っ直ぐではない線が引かれている。

あ、コレ。

ジャタ大陸の地図だ。

「今、僕たちがいる国はこの真ん中にある国で“ルガテル”といいます。

同じ様に北に位置する国が“ノーハ”南に位置するのが“プトデ”という国で、ここジャタ大陸ではこの3国が大きな国ですね、他にも小さな国がいくつかありますがそれはまたの機会に説明させて下さい」

どうやらトランはこれを機に大雑把ではあるがこの世界の事を教えてくれる気らしい。

「他に大きな大陸はお隣…といえるか微妙ですがバルエア大陸などがあります」

この後は出かけるからか、他の大陸は後回しにしてジャタ大陸…主にルガテル、ノーハ、プトデに対しての説明をする。…それも触り程度だが。

「わが国ルガテルは大陸の真ん中にある事もあり、主に交易品による商業によって成り立った国です。

北のノーハにはいくつもの鉱山があり、主に鉄の産出国になります。

南のプトデは農業に適した土地があり気候にも恵まれているので農業が盛んですね」

付け加えるのなら、ノーハは鉱山から取れる鉄を使って作る武器目当てに傭兵が集うので傭兵家業によっても外貨を得ている。

反対にプトデはジャタ大陸の食料庫と言われるくらいに農作物の栽培、輸出に力を入れている。

主食に必要な小麦と共にイモ類にも力を入れてたはずだ。畜産もやってるところがあったと思うが、当時はまだ数が少なかった。

そして、その2つの国を繋ぐのがルガテル。

北と南が交差する位置にあるし、外貨を得る特産物も特になかったらしく、交易を仲介する事で発展したという。

…にしても懐かしい。

前世の私が主に活動していたのがここジャタ大陸であり、拠点としていたのがここルガテルだ。

依頼があればノーハにもプトデにも行ったし、なんなら先ほどトランの話にも出てきたバルエア大陸にも行った事がある。

ただ隣の大陸に行くには船しか移動手段がないし、それだって必ずしも安全というわけじゃない。

よっぱどの大口依頼じゃない限り大陸移動はせず、ここジャタ大陸を中心に仕事をしていた。

中でも拠点としていたルガテルにはいくつか隠れ家を持って財産や武器、いざという時の日持ちする食料などを分配していた。

前世の私が生きていたのが50年前だったとしても、それだけ経っていれば町だって変化しているだろう。けど、繁華街、職人街、スラム街…などの大きな地区分けは昔のままではないだろうか?

昔に贔屓にしていた鍛冶屋などはさすがに引退しているだろうが、優秀な弟子とかはいたかもしれない。

まだ生きている様なら腕のいい職人を紹介してもらう事だって可能だろう。

「北と南、あるいは海を渡った先にある大陸の品などを扱っている店もありますし、勇者様もお嬢様も退屈する事はないかと思います」

そう締めくくったトランだが、護衛役の兵士が来ないので講義が続く事になった。

「あと勇者様に縁が深いといえば…お隣のバルエア大陸でしょうか。

ジャタ大陸からずっと西に海を越えていくとバルエア大陸があり、先代の勇者様を召喚したヨウバンニ国もあります」

ヨウバンニ国は私が知る勇者を召喚した国だ。

勇者の暗殺を依頼してきたのもそこの大臣の1人だった。…これは私の前世が生きてた時代も決定しただろうか?

「…前回の勇者はこの国で召喚したわけではないのですか?」

あ~…、そうだよね、アオはそこからだよね。…とはいえ私もそこまで詳しいわけではないが。

「はい、まず勇者様を召喚する時期はウィクリア様からの神託によって決められます。

その信託を受け取ったものが教皇様…教会内で1番位の高い方に報告し、その真偽を確かめたのちにどの国で召喚の儀式をするのがいいのかを会議で決めます」

「その時の会議メンバーはどなたになりますか?」

「そうですね…今回は教皇様と各大陸の教会を統括されている司祭様。このジャタ大陸ではアーガスタ様になります。それと候補地となった国の為政者から派遣された要人などですね」

「………」

スラスラと答えてくれたトランには悪いが、その光景はアレだ、国際大会などの開催地招致会議を想像させる。

「世界の平和に関わる事ですからね、皆様とても真剣で…今回ルガテルに決まるまでに数ヶ月も掛かってしまったそうですよ」

のん気か!

その数ヶ月で確実に事態は悪化しているんじゃないでしょうか!?

とっとと場所決めて召喚すればいいじゃん!もしくは場所も神託とやらで決めればいいじゃん!後は前もって決めておくとかも出来るでしょ?

〇年以内に神託が降りたら〇〇国で召喚します~とか予め決めておけばいいじゃん!

その会議ってアレじゃない?

絶対に“世界平和”以外の利権が絡んできてるでしょ。

自分たちが召喚した勇者が魔王を退治したなら、その国の知名度は一気にあがるし、その効果で特産品なんかも売れるだろうし観光地としても潤うかもしれない。

次の勇者が召喚されるまでは“勇者縁の〇〇です”とか言えば多少怪しくても物は売れるし良いPRにもなる。

勇者様が立ち寄ったさいに美味しいと言ってうちの名産を食べてくれたんです~とか、それが本当でも嘘でも言ってしまったもの勝ちだ。

時が経つほどに嘘は嘘だと立証されなくなるだろう。

つまり、勇者召喚は魔王退治という本来の使命と共に国興しの一代事業ともいえる。

…え?まって。それってマスコットキャラじゃないか?

世界を救えとか勝手に使命を押し付けたあげく国の利益まで託してくるとか酷くない?

それで態度が悪いとか自分勝手過ぎない?

こっちが下手に出てれば扱いやすいやつらだと侮ってもっと理不尽な扱いをされたのでは?

……最初にガツンと言っといて正解だった。

少なくともごねていなければマジで小銭握らされて放り出された可能性があった。

ニコニコと笑みを浮かべているトランは裏の事情に気付いている様子はない。

気付かないほど純粋培養で育ってきたのかもしれないし、そう見せる事が出来るほどに演技が達者なのか…。その場合、こういう話は隠そうとするだろうが、それを狙ってあえて…という事もある。

裏の裏を疑っていけばキリがない。

頭が痛くなる問題は取りあえず後回しにして話の続きを聞く。

「そうそう、ケウオチ様は先代勇者の旅に同行した騎士様のお孫さんなんですよ」

朗らかに爆弾を落としてくれました。

それでアイツ態度がでかかったのか?祖父が先代勇者のパーティにいたから自分も優遇してもらえるとでも思っていたのだろうか?

しかし先代の勇者パーティは私も知っているが、騎士なんていなかったはずだ。魔王退治の功績が認められ雇用されたのだとしても、そういうの嫌いそうな連中しかいなかったんだけどな。

となるとやはり先代勇者は私が知る勇者とは違うのか?

でも勇者召喚した国はヨウバンニ国だったはず。

「それは…凄いですね。しかし騎士という事は先代の勇者を召喚した国に仕えている方だったのでは?」

「はい、勇者様に同行していた騎士様――トマ・ザカンス様の娘さんがこの国の貴族――ケウオチ伯爵の元に嫁ぎ、その間に生まれたのがサマ・ケウオチ様です」

ごめん、誰そいつ?

先代のパーティには騎士もトマ・ザカンスもいなかった。

いたのは魔法オタクの魔導師と、商売上手な商人と野営の時に頼りになるレンジャーの3人だ。

「あの…その先代勇者の旅に同行されていた方達の事をお聞きしてもいいでしょうか?」

どうにも気になってしまい訪ねれば、トランは嫌がる事なく教えてくれる。むしろ嬉しそうなので冒険の話とかが好きなのかもしれない。

「はい!喜んで!

まず先代の勇者様。お名前は“アオ”と伝わっております」


…あ、確定したわ。



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