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おい、誰だ今“魔女”っていったやつ。

暴言を吐いた奴を確かめようと視線を巡らせれば兵士と目が合う。

逸らされる事も無く睨まれたので、ほぼコイツで決まりだろう。

「今“魔女”と聞こえましたが…どういう意味でしょうか?」

とりあえず睨み返そうとすれば静かにアオが指摘する。

「…闇属性の資質を持つ女性に対しての総称ですよ」

「言葉の響きからして良い意味には思えませんでした。他の意味もあるのでしょう?

説明して下さい」

司祭の卒のない言葉を更に掘り下げたアオは発言者である兵士へと視線を向ける。

「サマ・ケウオチ。あなたが発した言葉なのですから当然、説明できますよね。して下さい」

名指しされ、1度目を見開いてアオを見るが、口を噤んだままだ。

重苦しい空気を無視して、手に持っていたままの7色の石を司祭に返す。このまま返す機会もなく手に持っていて泥棒よばわりされたら困るからね。

「…説明できないという事は、やはり良い意味の言葉ではないんですね?」

「いいえ、そんな事は…。司祭様の仰るとおりの意味です」

態度から隠された意味があるのは明白だし、事実としてある。

裏の意味合いとしては“悪女”と同じ印象だろうか?

魔物なんかと契約し人々に恐怖と不幸をもたらす存在。

ちなみに闇属性以外の人物も指す。ようは蔑称の1つだ。

「…トラン・ポートミヤ」

「ひっ、は、はい…!」

名を呼ばれ、神官が悲鳴を上げつつかろうじて返事をする。

この流れで聞かれる事など決まっている。

神官は司祭に兵士に、そしてアオへと視線を巡らせてて忙しい。

「あなたは知っていますか?」

「え…ええ…と…」

予想通りの事を聞かれたのだろうが、まだ答えが決まっていなかったらしく困って兵士を見て悲鳴を上げる。…睨まれたからだ。

この様子を見る限り、彼もシッカリと裏の意味を知っているのだろう。

知らないのって、よっぽどの世間知らずだしね、無理もない。

「お許し下さい…勇者様…」

板ばさみになった彼は惚ける事も出来ずに許しを請う。

「わかりました。

彼に免じてこの場で意味を問うのは諦めます」

ホッと息を吐く2人だが、アオは涙目になっている神官から兵士へと再びターゲットを戻した。

「意味は分かりませんが、答えられないということ自体が彼女を侮辱する類の言葉だと判断します。…そのため、僕は彼女に対しての謝罪を彼に要求します」

「え?」

思わず漏れた疑問の声は私のものだった。

「違うというのなら、納得のいく説明を。

それが出来ないなら謝罪をして下さい」

それは兵士から見ればどちらも取りたくない選択だろう。悔しそうな表情で無言を貫いている。

「…勇者様、その辺りで」

「拒否します」

司祭の取り成しを一刀両断する。

「彼女はこの世界で唯一、僕が信用している人物です。

その彼女に敵意を向け害する可能性のある人物は僕にとっても危険人物です」

睨んでいるわけではないが、充分すぎるほどに冷たい視線を向けられて兵士の顔が青ざめていく。

「も、もうしわけ…」

「謝罪の相手が違うのでは?」

降参ともいえる謝罪の言葉を途中で遮り、追い討ちをかける。

「………」

「僕にしても意味がないでしょう?」

「……申し訳ありませんでした」

「…え~と」

アオに促され嫌々ながら謝罪してくる兵士にどんなリアクションを取れと?

許します。とか気にしませんとか言うのは簡単だが、そんなのどっちも口だけだとわかる。謝罪も含め。

「何も聞かなかった事にします」

結局は“魔女”発言を最初からなかった事にして、謝罪も受け取らない事とした。

それでいいかとアオに確認すれば「君がいいなら」と承諾をもらえる。

「と、いう事なのでこの話は終わりです」

「…はい」

アオが終了だと言わないので仕方なく私が告げる。

…私を睨むのを止めないところを見ると繰り返しがありそうだ。私への怒りは増しただろうし。

「2度は勘弁して下さいね」

こんな茶番に何度も付き合っていられるかと、一応付け足しておく。相手の為でもあるし。

面倒な事にならないのが1番だ。

あと、神官を睨むのは間違っているので止めるべきだ。彼は何もしていない。全て自業自得である。

「勇者様は光属性、お嬢様は闇属性ですね。

お二方とも珍しい属性かつ高ランクのため、教える事の出来る技量の持ち主の選抜には少々お時間を頂きます」

「わかりました」

納得できる理由に素直に了承する。

「ご希望の戦闘訓練の方もただいま王が検討中とのこと。…しばしのご猶予を」

「はい」

続けられた言葉に頷くが、だとすると今日はもうする事がないのでは?

「勇者様、よろしければ今日は城下町を見物にいかれてはいかがでしょうか?」

突然の司祭からの提案にアオと顔を見合わせる。

今、私達が着ている服は平民が好んで着る類のもので、最初から用意されていたプランだと悟る。

「…逃げ出す。とは思わないのですか?」

「その必要がどこにありますか?

この城から逃れたところで元の世界に帰る方法を知らず、この世界の事を何も知らないあなた達から見れば保護された今の状態の方が心安らげるでしょう」

付け加えるなら、最低限の生きる術をこれから教えてもらう事になっている。

約半年後には旅に出る事も決まっているのだから、その時に姿を眩ませた方がいい。最低限の金銭も保証されているし。

…というのはこちらの都合。では相手のメリットは?

「市井の者の生活に触れ、勇者様のお心が変わる事を祈っております」

確かに昨日、今日でこちらの好感度が上がる事はなく下がりっぱなしの状態だ。

彼らがどんなにご機嫌取りをしても、不信感が募るだけ。

それくらいなら逃げる事も出来ない今のうちに関わる人を増やし好感度が上がる事に賭けようといったところか。

案内の者もつけますのでご安心下さい」

それは護衛件監視役といったところか。

「…案内人は誰でしょうか?」

「こちらにいるトラン・ポートミヤとサマ・ケウオチに任せようと思っております」

「よろしくお願いします」

司祭の言葉に多少引きつった笑みを浮かべた神官が挨拶をしてくる。

気弱そうに見えるが今のところ失言とかもないし、兵士が1人で付いて来るよりずっといい。

「はい、よろしくお願いします」

私もアオも神官の方には挨拶を返したが、兵士の方は無言のためこちらも何も言わない。

私はともかくアオにも何も言わないのは先ほどの件で抗議の意思表示だろうか?

「アーガスタ・オクス司祭。

この世界の町を見られる事は大変嬉しく思いますし、案内して頂けるのも助かります。

ただ…護衛に関してはサマ・ケウオチ以外の者が付く事は可能でしょうか?」

「な!」

「彼の今までの振る舞いを見る限り僕はともかくとして、とても彼女を守って頂ける様には思えません」

アオの言い分には一理ある。

自らの手を出そうとまでは思わないだろうけど、トラブルに巻き込まれた場合これ幸いとばかりに私を見捨てていきそうだ。

「勇者様!私がその様な卑劣な真似をするとお思いですか!?」

「するかもという疑念が払えないのが問題なのですよ。

今、あなたに対しては信頼できる要素が1つもありません」

「先ほどの失言は…」

「なかった事にしただけで許したわけではありません。

許す事が出来なかったから、場を収める為になかった事にしたんです。

罪に問われなかったとしても、犯した行いは消えないし“なかった事にした”事によって、あなたは購いの機会すら奪われたんです」

…そんな深い意味はなかったんですけど。

ただ、許すとは言えなかったのも本当なので黙っている。

「それは詭弁ではないでしょうか?」

「なぜ彼女が許す気になれなかったかわかりますか?あなたに謝罪する気がなかったからですよ。

心の伴わない謝罪に意味などないでしょう?心よりの言葉でなければ僕も彼女も納得できないし、“許したこと”にしてあなたが勘違いをし繰り返す事を良しとしなかったからです。…無駄だったみたいですけど」

現状見る限り、護衛を外される意味の理解も反省もしてないみたいですしね。

「…手配には時間がかかります」

「構いませんよ」

「司祭様!」

アッサリと兵士を見捨てた司祭に抗議の声を上げるが、もはや誰も彼の相手をせず淡々と話を進めていく。

「では代わりの者が手配できるまで、元のお部屋で待機をお願いします。

トマ、その間にこの国の事など説明してあげなさい」

「は、はい…!」

オロオロと成り行きを見守っていた神官は動揺しつつ頷いた。

その彼と、私を見る兵士の眼が…殺意を抱いている事に気付いたのは私の他にいただろうか?


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