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食事の件は1度置いておき、用意された服に着替える事にした。

貴族用でも使用人用でもない服は一般的な町人が着る様な服だ。

ファスナーはまだ開発されていないので、大体は大きめの服を着て紐で調節するのが支流。

このやり方なら多少の増減はカバーできる=長く着る事ができる。

服の原材料は貴重であるので、服を新品で買おうとするとそれなりの値段がする。なので古着屋はもちろんあるし、滅多に着ない礼服などレンタル屋もある。…汚すと弁償なのでそれなりの覚悟で借りる必要がある。

貴族の場合は体にフィットした服を着ていない、流行の服を着ていない、ずっと同じ服を着ている…とかいう理由でも見くびられる事があるので着るものに関しても手を抜かない。

屋敷内だけならともかくパーティとかあるとその度に新しく作ってもらうので費用もバカにならない。

せいぜい1・2度しか着ないものに大金を投じる理由は貴族の矜持というやつだ。

社交シーズンとか売る方も稼ぎ時なので職人さんは不眠不休になるし、買う方も時に借金までするというのだから大変だ。

特に年頃の子がいるとね、婚活に影響が出るので必死。

駆け出しの頃は完成したドレスを切り刻んで来い…とかふざけた依頼も受けた事あるわ。

殺しの依頼じゃないからと値切られたが、邸内に忍び込む事前提の依頼なのでキッチリお代は頂きました。

警備とか屋敷内の情報とか調べる手間は同じだからね、むしろ本人暗殺依頼の方が楽だわ。

外に出た時にサックリ殺れるので。

護衛はついているけど人数も少く、戦える貴族女性は滅多にいないし、咄嗟に反応する事もできない。

逃げようと頭が働く前に仕事が終わる事が多かった。これは一般人も同じだが。

女性よりは男性の方がやっかいかな、慣習として剣技を習っているのが殆どだし、中には実践を経験した者もいる。

場合によっては護衛より強く梃子摺らされる…先代の勇者はそんなタイプだったよ。

護衛だと思っていたパーティメンバー2人を振り切って殺そうと思ったのにまさかの反撃。しかも強い。

こっちの攻撃を予知しているのかと思うほど攻撃が見切られ当たらず、他の2人も強く非戦闘員と思っていたおっさんまで参戦してくるわ…撤退を余儀なくされた。

こっちの負傷者もいたし、下手したらあの時点でこっちが全滅になるところだった。

当時の私は仕事も失敗なしの時期だったし、異名もついて仲間内では強い方に分類されて…ちょうど勘違いをしていた時期だ。自分に勝てるやつなんていない!というイッタイ勘違い。

どうせ貴族のボンボンでしょ?自分の腕を過信して逃げずに向かってくるなら好都合じゃん。とか思っていた。

盛大にブーメランで返ってきましたよ。過信していたのは私の方だった。

あの時に逃げられたのは…むしろ逃がしてもらったからだ。

その後に依頼人締め上げて正確な情報を吐かせて、改めて暗殺計画を練りました。またもや返り討ちにあったけどね!

結果として成功しなくて私としては良かったのだが、当時の悔しさは筆舌に尽くしがたい。

相手が自分より10歳近く下というのも悪かった。

あんな小僧に負けるなんて!とプライドを傷つけられ今で言う負けフラグを連発してたからね。

いやはや…あの時は私も若かった。今の方が年は若いのでアレですが。

明後日の方へ飛びまくっていた思考は隣で着替えていたアオからのノックで現実に戻る。

「ツキちゃん、着替え終わった?」

「あ、うん。大丈夫」

とっくに着替え終えていたので返事をしてドアを開ける。

茶色ベースの私と同じ様に町人の服装をしたアオがそこにいた。

「似合ってるよ」

「…ありがと」

サラリと誉めてくれるアオはコミュ力が高いと思う。

私の方も茶色ベースの服なのは汚れに強い…というか目立たないので町人が好んで着る色だからだ。

白とかあっという間に汚れるからね。そもそも白い服って他の色よりなんか高いし。

「アオも似合ってるよ」

ただ、貴族のお忍び感がある。

私もアオもただの庶民だが、この世界では私達くらいの年齢だと働いているのが当たり前だ。

でなきゃ生活が出来ない。

社会人の群れにニートを混ぜてごらんなさい、だいたい分かるでしょ?

そんな違和感がこちらでは貴族が遊びに来たと思われる。ちなみに良いカモになる。物の相場をしらないので吹っかけやすい。観光客がボラれるのと似たような感覚だ。

やりすぎると護衛に反撃されるので加減が必要だが、その辺りを上手くやったりするし気づかない人ももちろんいる。親切にする人もいるし…ようは人は千差万別という事だ。

その地区の傾向はあるので、護衛のみなさんには事前調査をして欲しい。

ちゃんと安全なところで遊ばせてやれよ、たいがい舐めてかかる様になるから結局ムダになるけどな。

しかし、なぜこんな服を着なければならないのか。

城の中だと目立つ事間違いない恰好だ。だいたい貴族か使用人しかいないからね。

しばらくアオと話をしていると兵士が迎えにくる。…昨日と同じ兵士だ。

案内されたのは昨日と同じ部屋で、昨日と同じ様に司祭と神官が待っていた。

「おはようございます勇者様。昨夜は良く眠れましたかな?」

「まあね」

慇懃に話しかけてくる司祭に何のよう?と聞いてみる。

「…今日はお2人の魔力属性の検査をして頂く予定です。トマ」

後ろで控えていた神官の名を呼ぶと、彼は箱を持ってきて私達に中を見せる。

宝石…ではなくビー玉の様な透き通った7色の石がその中には入っている。

色は白・黄・紫・茶・青・赤・緑。7属性のシンボルカラー。それぞれ無・光・闇・地・水・火・風に対応している。光と闇が白と黒ではなく黄色と紫なのは無属性が白を使っているせいだ。…透明をシンボルカラーにすると大変だからね、主に着るもので。

改めて司祭と神官が着ている服の色に注目。

位が高くなると白い部分が多くなり、見習い等は茶系色のバリエーションを着ている事が多い。

ウィクリア教はまず主神であるウィクリアを崇めているのが大前提。その後で個人で特に信仰する神がいたりする。

…アイドルグループに例えるとわかりやすいかもしれない。

グループ名がウィクリア、リーダーもウィクリア。

みんな好きだが自分は光の神推しだわ。いやいや、ここはやっぱり火の神でしょう。…とか、そんなノリ。

ウィクリアを除く人気順としては光の神が1番人気で闇の神が1番人気が無い。

光属性の魔法は回復系が多いのに比べて闇属性の魔法は状態異常とか、致死率が高い魔法が多いせいだと思う。単なるイメージ。

「これらの石は各魔法の属性を表しております。

まず、白は創造神ウィクリア様が司る無属性。全ての根源であり、他の属性とは異なり未知の部分が多い属性です。全ての属性が扱えるともどの属性にも属さない固有の術が使えるとも言われております」

なるほど、ここで宗教の説明に入るのか…。

「次に黄色は光の女神ルハー様を表しています。ウィクリア様に最初に作り出された神といわれており、6属性の中では最も信仰する信者がおり、ルハー様の慈悲深き御心ゆえか主に回復魔法と強力な攻撃呪文を扱う事の出来る唯一の属性…」

「あ、そういう説明はいりません。名前と属性の特徴だけで結構です」

なんか長くなりそう…と思っていればアオが止める。

「宗教としての特徴は今後も聞く機会はあるかと思いますが、僕は僕の世界の神からこちらの神に改宗する気はありませんので、今は必要なところだけで結構です」

改宗もなにも、もともと特定の宗派を信仰してはいない。

いわゆる洗礼とかも勿論受けた事は無い。そもそもシステムとして洗礼や、それに代わるものがあるのかもわからない。

ゆる~く八百万の神を信じてはいるし、道徳観念も“教育”として幼い頃から躾けられている。悪い事はしてはいけません。誰が見ていなくてもお天道様が見ている。お天道様に恥じない行動をとりなさい。…といったもので、特定の神社に通ったり奉仕活動も行ってない。

全ての物に神様が宿っているのだから、大切に使いましょう。というのがある意味での活動かな。他は大抵の人がそうである様に、初詣に神社にいってお参りする…くらいだ。

「…いえ、そういう訳にもいきません。ウィクリア様と6属性の神は世界において広く信仰されており、知らぬとなれば不都合が出てくるかと」

「そうですね、それはおいおい勉強が必要かと思いますが、今この場で並べ立てられても頭に入らないので後でゆっくりとお話し頂きたいと思います」

にっこりと笑みを浮かべ、説明の続きを促すアオに司祭は闇を表す紫の石を指す。

「紫は闇の神ナートス様を表しており、その激しく移りげな気性から強い攻撃呪文と状態異常を扱う魔法が使えます」

サラッと混ぜてくるね、いらないって言われたところ。多少の端折りはあるけど。

「土の神ワノウェ様は茶色になります。堅固にして実直な嘘を好まぬ気性を持ち、主に防御魔法に特化した属性です」

「と、すると青は水、赤は火、風が緑ですね」

「はい、それぞれ水の女神ラナイ様、火の女神ノマク様、風の神ツフト様を表しております」

痺れを切らしたアオが先回りして属性のシンボルカラーを言い当ててしまう。

水と火は予想しやすい色だから、残ったのが風。

どんな属性があるのか説明はまだだったが、創作物で目にする機会も多いので当たりをつけるのは簡単だ。

「それで?この石でどうやって属性が判明するんですか?」

司祭に進行を任せると長くなるのでアオがどんどん進めていきます。きっと今から説明するところだ、とか憤っている事でしょう。いいぞ、もっとやれ。

「……それは、これから実際にやって見ればわかるでしょう」

マトモに相手をするのに疲れたのか、やや投げやりな感じで司祭が私の方を見た。

「ではお嬢様、こちらに」

お・じょ・う・さ・ま!

呼ばれ方に鳥肌が立つ。

アオに散々言われたせいだと思うし、未だに名前を名乗ってないせいだろうが。

今までの呼ばれ方と比べればクラスアップしているが、だからこそ気持ち悪い。

名前を教えろと言われるのが嫌で鳥肌をゾワゾワと立たせながらも近寄ろうとすれば、アオに止められる。

「あ、僕からお願いします」

自分を指差し主張するアオに司祭は渋い顔をする。

「いえ、勇者様は…」

「どうしてですか?僕には出来ない事を彼女にするつもりですか?」

プレッシャーを掛け始めるアオに、司祭はまだ冷静だ。

「勇者様は“光属性”と決まっておりますので検査する必要がないのですよ」

「それでは僕が“光属性”でなければ“勇者”ではないという事ですね」

言葉尻を捕らえ、逆の主張をするアオが少し不機嫌そうなのは希望した闇属性ではないと言われたからか。

「その検査方法が危険ではないと言い切れませんし、彼女が試す前に僕が試します。いいですね」

自ら司祭に近寄り笑顔で言い放ったアオに部屋の空気が若干重くなるが「では勇者様から…」と許可が出された事によって霧散する。

「それでは勇者様、こちらを手に持ってください」

箱からだした7色の石を、司祭は1つずつアオの手に乗せていった。


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