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ジリリリリリ…と鳴り響く音で目が覚めた。

あぁ、もう起きる時間か…と半分以上夢の中に意識を置いたままスマホを確認する。

一回目なら後15分くらいは寝れる…と手探りでスマホを探すが見つからず、目覚ましの方が先に沈黙した。

よし、スヌーズに入ったと安心して二度寝に入ろうとしたところで耳に届く声。

「…まだ6時じゃん、早くない?」

確かに学校には7時に起きればギリギリ間に合うが…。

聞こえた声に脳内で答え、一気に昨日の記憶が蘇る。

あ~、そっか…。

ある意味での強制里帰り中だったと意識が覚醒する。

もう1度寝たかったが、眠気が去ってしまったのでしぶしぶ起きる。

こっちでは灯りが貴重なので、大抵の人が太陽と寝起きを共にしている。

空の明るさから考えて、動き出していない方が少ない時間になっている様だ。

つまり、いつ人が訪ねて来ても可笑しくない。

寝起きで対応するとか冗談ではない。

「アオくん、起きて」

「…あれ?つきひ?」

隣で二度寝に突入したアオに声を掛ければ一瞬、ここがどこだか忘れていた様だが「あ~…」と唸ると素直に起きてくれる。

「やばい、眠い」

上半身を起こすも再び倒れそうなアオを止めたのはジリリリリ…という目覚ましの音。

鳴り響く音に慌ててスヌーズを止める。

「あー…俺もとめとこ」

私の様子を見てアオも自分の目覚ましを解除した。

…下手に音が鳴ると不味いかな?

電話とかこないし、目覚ましの他に待機状態で音が出るアプリは使用していないはずだが、マナーモードにしておく。

ついでに電池残量を確認すると昨夜と同じ92%だった。

…やはり壊れたのだろうか?

電源も切っておくべきかな?

でもそれだと咄嗟に写真とか撮れないかも…と迷ったあげく1度切ったら起動しなくなるかも?という不安もあったので電源は切らないでおく。

「…今日はご飯どうする?」

「あ~…。

もういいかなぁ、残ること決定したし」

問われ、半ば投げやりに許容する。

持ち込めた食料はせいぜい後1食分。

食べないと体がたないし、食べなくても帰れそうにない。

「昨日の分はどうする?」

起きだしたアオの再度の質問に、鞄に入れたままのパンとスープの存在を思い出す。

パンはカビてなければ食べれるがスープは大丈夫だろうか?

試しに蓋を開けて匂いを嗅いでみるが傷んでる感じはしない。が、食べる気もしない。

パンは大丈夫そうだが、だいぶ固くなっている。このまま食べるというよりはスープなどに浸して食べた方がいいかも。

「……捨てる?」

「それしかないかなぁ」

食べられるものを捨てるという行為に罪悪感が募るが、食べる気もしない。

食べた事になっている以上、朝食も普通に出てくるだろうし。

しかし捨てるとしてもどこに捨てるべきか…。

考えていればノックの音。

昨日と同じ様にアオが対応しにいく。

「勇者様、着替えと朝食をお持ちしました」

「ありがとうございます、朝食はそちらのテーブルにお願いします」

「朝食が済み準備が出来たころ、お迎えにあがります。

…まずは属性検査をするそうです」

「そうですか、わかりました」

お互いに事務的な会話しかせず、ほどなくして相手が部屋から出て行く。

「だって、ツキちゃん。まず食べようか?」

「うん、そっちいく」

着替えはアオが持っているので寝起きの恰好のままリビングの方へといく。

テーブルに置いてある食事は昨日とほぼ同じ。

パンとスープ。そして今回はごろりとオレンジに似た果物がついている。

ちょっと迷った結果、昨夜のパンを食べる事にした。今朝の分は次に回す。

「いただきます」

「いただきます」

席についてスプーンを手にしまずはシチューを一口。

「…ぬるい」

「ぬるい」

同じ感想が口から零れる。

スープは塩スープだと思うが味が薄いし何よりぬるい。

湯気を立てているので充分あったかくはあるが…私の感覚からするとぬるい。暖めなおしたい。

「パンは固いし…」

「うん、それはゴメン」

今朝の分なら柔らかいのでソッチを食べるかと聞けばこれでいいと言われる。

「城の食事だから期待してたのに…」

「あの王様はもっといいの食べてるんじゃない?」

パンを千切りながらスープに浸し、スプーンで食べる。…この方がぬるい事が気にならなくていいかも。

私を真似てかアオも同じ様にして食べる。

「…そういやヨーロッパって熱いものを食べる習慣があんまりないんだっけ?」

「キンキンに冷やす事もないみたいだよ」

ぬるい水を飲みながら、どこかで得た知識を披露しながらパンを口に運ぶ。

食べている途中でぬるくなるのは仕方ないが、食べ物は熱々で食べたい。

冷たいものも同様だ。

ただ、冷たいものは冷蔵庫とかないこの世界では難しいかな。

代わりに魔法があるけど“氷”を扱うのは中ランクくらい…だった気がする。

今まで前世と今世の食べ物の温度など気にした事がなかったし、前世は前世で熱いものは熱いと思って食べていた。

だから、この食事が他の人から見てもぬるく感じるのかは分からない。

「コーヒー飲みたい」

「わかる」

口から出てくるのは不満ばかりだ。

これでも庶民の食生活から見れば充分豪華ではある。

まずパンが白い。

これは上量階級の人達しか口にできない(庶民でも買えるが値段が高いので日常的ではない)ものだ。

庶民はもっと茶色のパンを食べる。一般的に黒パンと呼ばれているものだ。

小麦とライ麦を混ぜているのだったか、白パンに使われた後の小麦だったか…詳しくは知らないが、町で売っているパンはこちらの方が多いし安い。

時折ボソボソと会話ともいえない会話を交わし、美味しいご飯のありがたさを噛み締めつつ食事を終える。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

全部食べたが、この食事が続くのは辛い。

半年くらいはここにいる事になるのなら改善を求めたい。

スープはもっと熱々が食べたいし、味も濃くして欲しい。

特に味の濃いのを求めているわけではないが、なんか物足りない。一味足りないというか…。

「あっ」

「なに?ツキちゃん?」

ウッカリと声が出てしまい、アオが律儀に反応してくれる。

「たいした事じゃないんだけど、スープは出汁が足りなかったのかなって」

うっかり出汁を入れ忘れた味噌汁は美味しくなかった。アレ系統の物足りなさだったと思う。

「ああ…そうかも」

アオも頷いてくれる。

こっちの世界では顆粒出汁とかスープの素とかはなく、簡単に作れるスープなども味の調整が難しくなる。

調味料の種類も少ないしね。ハーブとか一般的ではなかった気がする。

冷蔵庫がないので保存食でなくとも長持ちさせる為に肉とか魚とかを塩漬けにする事はある。

それが出汁代わりになったりするが、さっきのスープは野菜だけ。これでは物足りないのも仕方ない。

塩分多いのも健康の事を考えると考え物だし、単純に塩を増やしたら美味しくなるわけでもない。

栄えた町などでは独り身の場合、自炊するより外食の方が安上がりだったりする。

その日に買ったものは基本はその日に食べきらないといけないし、作りおきしても温めなおすのが大変なものも多く…残った場合、冷えたまま食べるしかなく季節や地方によっては傷んで食べられなくなったりもする。

前世では作るの面倒だったし、外で食べる方が美味しいし、お金には困ってなかったし…でほぼ自炊はしなかった。

せいぜい野営食くらいか。

ほぼ炙って食べるか煮込んで食べるかの二択だったけど。

現在でも母親の手伝いくらいしかしていないので、簡単なものしか作れない。

切って煮込めば出来るスープくらいか。それも素を使ったものだ。

ただ包丁の扱いには自信がある。母親にも誉められた。

前世の技量が現世において唯一役立った場面だ。


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