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 しばらくそうしていると、段々と気が滅入ってきた。何で私がこんな目に遭わなきゃならんのかさっぱり分からない。本来なら今頃はいつも通りお前らと馬鹿なやり取りをして過ごしている筈だったのに。こうなったのも全部、あの王子ゴミのせいだ。

 イライラしながらノロノロ動いていると、やけに彫刻品が視界に割り込んでくる。長い廊下の壁際に何箇所も、部屋にあった女の石像と同じモチーフが設置されているのにようやく気付く。

 改めて至近距離で見ると、そのモデルは女というより、少女に近かった。目鼻立ちがくっきりしていて、なかなか美形。まるで私みたいだな、ガハハ!


「そこで何をしている」

「ぎゃあああ!」


 本日二度目の腰抜け。ガクブルしながら見上げると、その相手もまた一度目と同じだった。


「…アンジェ様…このような夜更けに出歩くとは、感心しませんね。守りの堅い王城とはいえ、危険がない訳ではないのですよ」


 嘘つけ警備全然いなかったぞ。

 教育係はニコニコしながらも、目は笑っていないように思える。慌てて体勢を立て直し、逆ギレの構え。


「腹が減った。どうしてくれる」


 ちゃんと「今食べなきゃ腹減って眠れなくなるで」って教えてくれなかったからお前の責任。何か文句ある?


「…はあ」


 何やその気のない返事は。ワイに喧嘩売ってるんか?


「…では厨房で何か食されたら良いでしょう」

「場所は」

「…案内します」


 ええ心掛けやないけえ。


「この像は誰ですか」

「…女神様です」

「ほーん。よくできてるじゃないか、そいつは石か?プラスチックか?」

「さあ」


 再三、教育係の背中について回る。こんな時間にお前は何してたんだよってめっちゃ聞きたいけど止める。どうせ枕営業か何かだろ。生々ホモホモしい話は聞きたくない。


「アンジェ様は」


 出し抜けに呼ばれ、思わず「ああ?」と返答する。動じる様子もなく教育係は言葉を続ける。


「女神様と対面したことはありますか」

「ないです」


 あの太陽が女神ってんならじっと見つめた仲だけど、あの彫像の少女となんか会ったことない。

 教育係の顔は前に向いており、背中と、長い髪の毛先が揺れているのしか見えず、奴がどんな表情をしているのか分からない。

 答えてやったのに返事はなかった。無礼者め。


「こちらが厨房です」


 役目は終わったとばかりに立ち去ろうとする教育係の襟を掴もうとして届かなかったため裾を引っ張る。


「…何か?」

「交渉よろしく」


 まさか聖女に物乞いさせるつもりじゃねえよなあ?

 教育係は「…御意」と答え深夜にも関わらず働いている社畜コックに話しかける。しばらくして振り返り「どうぞお召し上がりください」とサンドイッチのようなものが乗った皿を差し出してきた。

 すぐに手を出さず、「じゃ、これから毎日食事は部屋に届けて、どうぞ」と言えば、「御意」と即答した。おっええやん。これで引きこもり続行やな。聖女の仕事?そんなもんポイーで。


 無事に食料を得て部屋に戻る。トイレと洗面所の場所もバッチリ聞いたからもう不便はない筈だ。

 「ありがとナス!」と感謝して締め出そうとしたら、教育係は足を挟んでブロックしてきた。


「最後に、質問させてください」


 うるせぇ、サンドイッチぶつけんぞ。


「アンジェ様は、長旅はお好きですか?」

「好きな訳ないんだよなあ」


 すると教育係は「左様ですか。よく分かりました」と笑い、バタン!と扉を閉めた。ドアを大切に扱わない人間の屑がこの野郎。

 サンドイッチを腹に収め、お手洗いに行ってベッドに転がれば、睡魔はすぐにやってきた。




 目を覚ますとそこは見慣れない部屋だった。

 起きたらちきうに戻ってたなんてことはなかったぜ畜生。

 顔洗いに行こうとドアを開くとそこに銀の蓋が被せられたトレイがあった。完全にニートの子供の部屋の前にご飯を置く母親の所業で草。ちなみに蓋の名前はクロッシュというらしい。前に博識J民が教えてくれた。


 洗顔と手洗いうがいと排泄を済ませ部屋に帰って朝食のパンを食らう。原材料は小麦なのか知らんがちょっと固いくらいで味はそこそこだ。空っぽになった皿は定位置に戻しておく。


 スマホを取り出してチェックしても変化はない。ゴミめ。


 することがなくなった。ベッドに寝転がる。意味もなく鞄を漁る。中に入っているのはスマホと折りたたみ傘だけだ。財布はラーメンと一緒にレジ袋に入れていたから、それをなくした今、私は一文無しだ。まあワイ可愛いし何とかなるやろ。そもそも通貨が存在しているのか分からんが。

 つーか異世界召喚とか、なろー小説かよ。読んだことないけど。

 別に私は、異世界に行って「よっしゃ!チートで成り上がってハーレム築いたろ!」ってなる頭のおかしいなろー主人公でもなければ、なろーで義務教育を終えたキッズでもないので一切興奮しない。

 転生しないと活躍できない!俺が成功しないのは俺のせいじゃなくてこの世界と、生まれた場所と肉体のせいなんだ!って自己紹介するなろーキッズ(おっさん)を笑う側の人間だからな。まあJ民だから底辺なことに変わりはないけど。


 ゴロゴロしてたら一日が終わった。今日は何もない素晴らしい一日だった。


 次の日も変わらず。与えられた食事を貪り部屋に引きこもる。

 声かけてこないし、ワイはこのままニート続けるわ。ほな、また…。

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