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聖女召喚されて追放されましたが幸せになれました・エピローグ

 今日は、結婚式だ。

 どこかの式場を貸し切って親類友人一同を呼んでパーっと騒ぐ、なんてのはこの世界では上流階級以外で存在しないらしい。

 なので、いつものように身内でパーティーを開いてお食事をしながら、「私たち結婚します」と宣誓し皆に祝福される、という流れになる。


 ハリーに癇癪を起こして内面をぶちまけてから一週間のことである。

 スピード結婚にも程がある。いや交際期間自体は一年なんだけど、心情的に、真の姿を受け入れてもらってから一週間で結婚て、ねえ?

 正直、今でも疑問に思う。

 ハリーは私の何が良かったんだ?

 顔も良くない、体つきも良くはない、性格は悪い。

 ないない尽くしにも程がある女だ。

 あれか?若さか?十八歳とかいうボーダーギリギリラインが良かった?

 まあハリーがそんな奴じゃないのは重々承知しているのだけれども。


 あの日。私がハリーにくってかかった時。

 私は死を覚悟した。

 本当に、心の底の本音を暴露して、全て壊して、嫌われるに違いなかった。

 でも、ハリーは私に結婚しようと言った。

 …案外ダメ女好きなのかもな。「僕がこの子を支えてあげなきゃ…」的な。

 理解のある彼くんってやつだ。まあその流れでいっちゃうと離婚するから違うと思いたいけど。




 結婚する、という報告に対して、屋敷の面々は実に個性豊かに反応してくれた。


「えっ!?ええっ!?ほ、本当に!?結婚!?ハリーとアンが!?うわあああ!おめでとうーー!!」

 交際する、と伝えた時もそうだったが外人リアクションをとってくれるリオ。


「ふっ、僕には分かっていたよ。何せ君たちは非常にお似合いの二人組だ。最近はもっと親密度が上がっていたようだし、頃合いなんじゃないかと思っていたさ。心から祝福するよ。そう、君たちの出会いから言っても…」

 祝う、という行為をひたすらに長文で伝えてきてくれたクリス。


「そうか、めでたいな」

 実にシンプルなスタンリー。


「…そうなれば、私室の配置を変えるか?二人部屋になるか」

 実に現実的な提案をしてくれるロバート。


「ハリー…幸せになれよ。お前はもっと精進しろ」

 ハリーに柔らかい激励をした後に私をこづいてきたフレディ。許さねえ。


「おめでとう。貴女達なら、とっても素敵な夫婦になれるわ」

 そして、聖母の微笑みでお墨付きをくれたヘレン。


 とまあそんな感じで概ね好評だった。




 先走った感はある。

 えっ結婚?こんなゴミみたいな奴が?っていう感情もある。

 つっても某水の惑星でも「なんでこんな奴が結婚できるんだよ」みたいな例は腐るほどあったし、私もそれに連なることになったのだ。

 明るくいこう。

 マリッジブルーなんてサヨナラバイバイだ。

 そんなことを考える時点で既にやばくなっている。

 こいついつもヘラってんな。


「アン!準備できた?」

「ぎっ」


 急にドアを開けるのはやめてほしい。心臓が死ぬ。

 顔を覗かせたのはリオだ。彼女は本日の全員分の料理に加え私の世話も焼いてくれている。超人だ。


「うんうん、よく似合ってるよ!奥様お手製の服はやっぱり外れないね!」


 そして私が気後れしている原因の一つ。

 私は今、ヘレンが縫ってくれた花嫁衣装に身を包んでいる。

 生地は白(女神のイメージカラーで結婚式といえばこれらしい、あんまりいい気はしない)、長袖で至る所に花の刺繍とレースが散りばめられ裾はふんわり広がっている。

 いわゆるウエディングドレスってやつだ。


 何が怖いって、この服で飲み食いするってことだよ。

 これは、ヘレンがいつか娘ができた時のためにせっせと仕立てて保管していたものらしい。

 それを私が着る。緊張で死ぬ。


 …娘、か。

 私は別にヘレンの娘ではないし、こんなに大事なものを出会って一年半ぽっちの女に預けられるヘレンは、聖人の域を超えている。

 きっとヘレンも、ハリーのように、私がどんなに醜い姿を晒しても受け入れてくれるのだろう。

 そう思うと、ちょっと安心できる。


 とはいえ、例外なのはやはりハリーとヘレンくらいだ。

 いくら善人でも、キャパシティに限界はある。リオ、クリスは間違いなくいい人だが、常識がある。桁外れなハリーとヘレンとは違う。本当の私を晒す気にはなれない。

 スタンリーとロバートは論外だ。そもそもあの人ら私のことある程度見抜いているような気さえする。

 フレディ?あいつはガキだよ。


「そろそろ行ける?」

「お、お待ちを…」


 ただいまパーティーの開始をごねている。

 時刻はお昼。会場の飾り付けも料理の準備もとっくに済んで、衣装の着付けも終わり、いよいよ主役が登場すれば式が始まる。

 それが怖い。

 歩くのさえ怖い。大丈夫?裾踏んで転んでビリビリにしたりしない?ヘレンの渾身の服台無しにしたりするんじゃない?だって私だし!


「うーん、落ち着いてから来てほしいのは山々なんだけど、皆からの催促が…あ!」


 急にリオが言葉を切ってドアから消えた。

 なんだ、何があった。地球外生命体でも現れたか?ここは地球じゃないぞ。


「アン」

「ひえっ」


 旦那来ちゃった。いや屋敷の旦那様ロバートじゃなく。

 かつて告白(失敗)時も着ていた高級シャツを身につけたハリーが私を迎えに来た。


「大丈夫?」

「え、ああ…」

「…あ、じゃあ私先に降りてるね!二人が来るのダイニングで皆と待ってるから!」


 リオが声をかけてぱたぱたと部屋から離れていく。気遣いの達人か?


「…大丈夫?」

「大丈夫じゃない」


 するりと言葉が出てくる。この一週間、ハリーは私の不平不満愚痴罵倒を一切否定することなく聞き遂げた。その成果だ。

 まさかこの私が飾り気のない返答をする日が来ようとは。


「何が不安?」

「服汚すの怖い」

「食事の時にはナプキンをかければいいよ」

「そういう問題じゃなくてさあ!ナプキンだけじゃカバーできない箇所もあるでしょ!?全身ナプキンで覆えってか!それにご飯だけじゃなくて普通に転んだらどうする!?」

「隣で支えるよ」

「お、おお…」


 せやな。

 あと急にキレる嫁に対してあまりにも対応ニュートラル過ぎるだろ。こっちは半分ネタでやってんだぞ。


「行こう、アン」

「…はい」


 穏やかな表情をしたハリーが宣言通り支えるために手を差し伸べてくる。


 まあ、なんとかなるだろう。

 この先に、何があっても。

 ハリーがいれば。

 私は大きな手を取って、ぎこちなく一歩を踏み出した。

「聖女召喚されて追放されましたが幸せになれました」完

読んでいただきありがとうございました


これより先は、貴方にとっての地雷となる内容の可能性があります

スクロール下に展開のキーワードとなるかもしれない語句を並べておりますので、良ければそれを見ていただき大丈夫な方はお進みください

なんでも大丈夫、ネタバレの片鱗が嫌な方はこのままお進みください

























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