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「遅いぞ!この俺を待たせて、ただで済むと思っているのか!」

「兄上…聖女様はお疲れなのです。少しくらい大目に見てあげても」

「黙れ!俺を誰だと思っている!」


 はいクソ。マジこんな奴と同じ空気なんて吸ってられんわ。

 私を待っていたのは、王子ゴミとその弟、地味な女の人、ミサキ。

 三人の前には広いテーブルがあり、何か色とりどりで豪華っぽい料理が並べられているが、正直食べたくない。だって得体の知れない物体とか入ってそうじゃん。野菜もお肉もあるみたいだけど材料が何なのかぱっと見じゃ分からんし。


「あなたねえ!いい加減にしなさいよ!女の子に怒鳴りつけて恥ずかしくないの!?」

「何だと!?お前、俺を侮辱する気か!俺は王太子だぞ!」

「こっちだって聖女だもの!あなたが態度を改めないなら、役目なんて果たしませんからね!」


 ミサキはやはりというべきか、正義感が強いみたいだ。身を乗り出して王子ゴミと口論している。

 教育係が静かに引いた椅子にそっと座り、私はこっちに矛先が向かないように息を殺す。呆れ顔の弟王子がこっちを見てくるが、無視安定。割って入れ?無理無理、声でかい人嫌い。


「ねえ、名前…教えてくれる?」


 しかしいつまでも終わらない議論に音を上げたのか、ミサキは喚く王子ゴミを放置して話しかけてきた。


「神崎天使アンジェです」

「アンジェちゃんね、オッケー。私は佐藤美咲。美しく咲くって書いて美咲。よろしくね。アンジェちゃんは高校生?」


 何やワイのことが気になるんかこの姉ちゃん。お願いだから声出させないでクレメンス。これ以上、王子ゴミに目つけられたくないんや。


「不登校です」


 これ言っときゃ大抵の人は「あ、そ、そうなんだ…」と苦笑いして去っていく。だが美咲はしつこかった。


「そうなの?でも今って通信制の学校とかもあるし、勉強する形は人それぞれだよね。若い子の交流場所は学校にしかないって決まってる訳でもないし」


 何だこの人…いくつなんだ。多分まだ三十いってないだろ、何でそんな達観してんだ。一周回って皮肉かこれ。

 美咲は「何にせよ、こんな所に来ちゃって、大変なことになったよね…こうなったのも縁だし、仲良くしてね」と笑い、小皿に盛られたサラダを口に運ぶ。普通に食べてるけど大丈夫か。

 見れば、王子ゴミと弟もいつの間にかお食事を開始している。


「アンジェ様も、どうぞご賞味ください」


 背後に立つ教育係が声をかけてくる。絶対嫌なんですがそれは。私好き嫌い多いし。

 なかなか手を出そうとしない私を見かねたのか、美咲が「あんまり食欲わかないよね…分かるよ。無理しなくていいんじゃないかな」と暗に出ていけと勧めてくる。見苦しくてすまんな。


「では、先に詳しい説明をさせていただきます。それが終わった後、ご退室ください」


 弟が食事を中断して語り始める。


「我が王国は女神様の加護の元にあり、いついかなる時も、全知全能なる女神様は我らを見守っておられます。しかし、かつて女神様を妬み、世界を我が物とせんとして滅ぼされた邪龍、その意志を継ぐ邪教の信徒は、未だ活動を続けているのです」


 中二病みたいな話になって草。まあ聖女って時点でアレだけど。


「いつからか、定かではないですが…彼らは瘴気を作り出し、それを世界にばらまくようになりました。土は腐り、作物は枯れ、風は瘴気を運び、水は淀む。特に、その被害が大きいのが我が国。このことから彼らの拠点は近くにあるのではないかと推測されていますが、まだ発見には至っていません」


 瘴気。うーんこのファンタジー。確か本来の意味ってそういう毒霧的なのじゃなかった希ガス。ていうか土が腐るのはいいことじゃないんか。腐葉土って何だっけ…ああ、あれは落ち葉か。


「瘴気を浄化するには、女神様の力が必要なのです。これまでも女神様より力を託された聖女様が異世界より召喚され、その役割を担ってこられました。貴女方にも、歴代の彼女らと同じように、我が国を救っていただきたいのです」


 これまでも召喚…他力本願ですねぇ!少しは自分達でどうにかする気概見せろや。そもそも力なんてもらってないんですが。


「とはいえ、貴女方に役目を一任するつもりはありません」


 おっ、ええやん。


「これより貴女方には、王国の東西南北、それぞれに設置された社に赴き、そこで祈りを捧げてもらいます。僕達が同行し安全を保証します。それが終了して瘴気が浄化されましたら、ご希望ならば元の世界へ帰還する手配をします」


 は?祈るだけで解決すんの?自分達でやれよ、いくらなんでも全員で祈れば少しは改善するだろ。

 あとご希望ならばって何?不穏なこと言うのやめてくんない?

 それと私長旅すんの嫌なんだけど。僕達ってことは王子ゴミもだろ?有り得ない。

 不満いっぱいの私に対し、美咲は真面目な顔で「それをやったら帰れるんだね…アンジェちゃん、二人で頑張ろう!」と意気込んでいる。頭お花ゲフンゲフン、前向きでいいですね。


「以上です」


 弟がそう言った途端、存在をすっかり忘れていた教育係が私の椅子を勢いよく引っ張った。咄嗟に起立すると、「それでは聖女様、おやすみなさい」と弟が会釈し、王子ゴミが「ふん!」と睨み付け、美咲が「ゆっくり休んで、養生してね」と気遣うような声を出した。


「…どうも」


 返答し、再び教育係の後ろについて部屋を出る。

 お腹が小さく音を立てた。

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