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大雑把にまとめてみると。
なんやかんやで歪んでしまった王国を救うため王子様は異世界から聖女を召喚しました。
しかし一人では難しいらしく、聖女は二人も召喚されました。
これで王国の平和は守られるよ、やったね!
マジクソ過ぎんだろ、特にあの王子。役者じゃないってことは炎上させるのも無理な訳だ。ふざけんな。ざまあはどの世界でも人気なんじゃねえのかよ、誰かあいつに痛い目合わせろよ。
それより、これからどうするの?
私が聖女になって何か不思議な力で悪霊退散!悪霊退散!とかするの?
ネットもないスマホも使えないこんな地獄みたいな場所で住民と仲を深めながら生活するの?
難易度高杉内。何故よりによって私が選ばれたし。見る目ねえな、あいつら。
高そうなベッドに寝転がってスマホを確かめる。やっぱり反応はない。せめてネットが使えたらなあ…他の目覚ましとか電話機能とかは使えなくていいから。
つーかこういう時ってスマホ使えるもんなんじゃないの?オカルト板の先駆者兄貴を見習えよ。電源の入らないスマホなんざ何の役にも立たねえんだよ。
しばらくごろごろしていると、日が傾いて窓から顔に光が当たる。だらだら起き上がって空を観察してみると、妙なことに気付いた。
二つある太陽のうち、一つは元の世界と同じように地平線に沈んでいっているが、もう一つの方は空の中央に位置し、全く動いていない。そのくせ辺りは暗くなっており、夜に近付いていっているのが分かる。暗いのに太陽が空高く浮かんでいる。何だこりゃ。
何なの?あっちの太陽は私の幻覚か何かなの?
「あれは女神様ですよ」
「ぎゃあああ!」
腰を抜かして振り返ると、やけに露出度の低い服を着た変質者がすぐそこに立っていた。
長い茶髪に黄色い目をした背の高い男で、胡散臭そうな雰囲気を醸し出している。目が細くて人の好さそうな顔してる奴は怪しいってそれ一番言われてるから。
「驚かせてしまいましたか。申し訳ありません。私、殿下の教育係を任されております、ライアンと申します。夕餉のお時間のため呼びに来たところ、熱心に女神様を見てらっしゃったので、つい…」
「あ、そう…」
太陽が女神。なるほどね。昔の人は災害とかを神様の仕業だと思ってたらしいし、太陽神ね、はいはい。
それより待てよ、こいつ今何つった?
「教育係…?」
「ええ。お会いしたでしょう?アーサー殿下に」
どっちだよ。王子か、その弟か。
「将来殿下はこの国の王となるお方、様々な苦難が待ち受けております。私の働きで少しでもその苦しみを取り除けるなら本望ですとも」
王子の方か。あいつアーサーっていうのか、大層な名前もらってんな。
よろよろ立ち上がりながらライアンとかいう教育係を改めて正面から見る。本来服っていうのは首とか手とかは覆わないものなのでしょうに、こいつはタートルネックに加え手袋をしているため、顔しか肌色が見えない。女神様とか言ってたし宗教上の理由なんだろうか。
「では、行きましょうか。既に殿下もミサキ様も席に着いてらっしゃるでしょう」
誰だよミサキ、と返そうとして、あの地味な女の人だろうと思い直す。
何も言わない私ににこりと微笑み、教育係はくるりと背を向けて私を誘導した。