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「この王国を救うため、どうか力を貸してもらいたい!麗しき聖女よ!」
目の前には偉そうにふんぞり返る王子様。
隣にはぽかんと口を開けている地味な女の人。
周りには期待の視線を送ってくる兵士とかそんなん。
くっそ意味分からんからとりあえずスレ立てして安価してみてえ。
私がここにいる経緯はごくシンプル。
いつもと変わらず部屋に込もってネットしてたらお腹すいたからコンビニ行ってラーメン買った帰り、今隣にいる女の人に落とし物ですよと声かけられた瞬間に変な渦が現れてそれに巻き込まれ、気付いたら城(っぽい)の中、王子様(っぽい)に「ワイら聖女召喚して成功したんや。お前はこの国救う聖女やから協力してクレメンス」と頼まれた。
別にシンプルでもなかったわ。
「...あ、あの、一体、ここはどこなんですか?」
隣にいる女の人が目を白黒させて尋ねた。百点満点のリアクションだ。テレビ放映間違いなし。
想像力が足りないよ。こんなんドッキリに決まってる。催眠術か何かで眠らされ連れてこられたんだろう。城はセットで王子様はコスプレ。そうじゃなきゃ説明つかねえわ。日本語喋ってるし。
「...何だ貴様は?」
しかし王子様は冷たかった。
「聖女とは到底思えぬみすぼらしい姿だな。召喚に巻き込まれた女というところか?」
訳「ブッサ何でここにおるんや」 辛辣で草。王子様役になりきりすぎぃ!後で訴えられるぞ。女さんはそういうのよく食い付くからすーぐSNS投稿して炎上するんやで。
「なっ...!ちょっと失礼じゃないですか!身だしなみにはちゃんと気を使ってますけど!」
言う通り、身に付けているものにみすぼらしい要素は少しもない。身に付けているものには。あっ(察し)。言うてドブスな訳じゃなくて普通にごろごろいそうな顔なんですけどねぇ。
きっと王子様は金髪碧眼というイケメンだから、価値観が違うんですね。後で死ぬ程叩かれると思うと同情すらするわ。
いや待て。違うか、この女の人も仕掛人なのか。演技上手すぎワロタ。ということは、私がターゲットとか?だとしたら撮れ高ねえじゃねえか、可哀想に。
「衛兵!そこの邪魔な女を連れていけ!」
女の人は、周りを囲んでいた申し訳なさそうな兵士達に背中を押され、連行されていく。どうやら王子様が暴君なのはいつものこと、という設定らしい。
王子様はそれらを満足そうに見送ると、ぐいっと私の腕を掴み引き寄せた。は?何するだ離せ変質者。
「さて、邪魔者は消えた!聖女よ、そういえば名前を聞いていなかったな」
「...神崎、天使です」
やっべ声掠れた。でも声出すのなんて何日ぶりか、何ヵ月ぶりか分からんのだからしゃーない。
天使って名前は、お察しの通り間違えようもなくキラキラネームだ。神崎の上に天使とかたまげたなあ。まっ親がDQNだからしゃーない。フランス語で天使の意味らしいがその場合読み方はアンジュなんだよなぁ。英語だとエンジェルだし。教養ないってはっきりわかんだね。
もしブスが付けられたなら子供の頃は弄られ大人になってからは敬遠されそうなものだけど、私は別だ。だって顔可愛いから。見た目綺麗だから。ナルシでも何でもなくただの事実だ。見た目以外は最悪だけど。でも人間見た目が九割っていうし良いよな。
ただその見た目のせいで、小学生の頃から同級生及び上級生の女子から嫉妬アンド嫉妬で苛められ、中学校は卒業のための登校数ぎりぎりの不登校、高校も現在進行形で不登校だ。底辺校なのを忘れ、高校デビューしようと張り切って友達の作り方本を読み漁り、精一杯イマドキのオシャレをしていったらバカ女共に嫉妬アンド嫉妬アンド嫉妬でえぐい苛めを受け無事引きこもった。何で学習しねえんだろうな、自分。
「カンザキアンジェ...ふむ、カンザキというのが名前か?」
「アンジェの方です」
「そうか、アンジェか」
初対面で呼び捨てにしてんじゃねえよ陽キャ。
「お前には聖女としての役割を果たしてもらう。とは言っても、難しいものはないから安心するといい」
王子様は断られるとは微塵も考えていない笑顔を浮かべ。
そして、私の聖女としての波乱万丈な生活が始まったのだった―――!!
なんてのを受け入れる筈がない。私は早く部屋に帰って「聖女に選ばれたったwww」とかいう題名の馬鹿なスレを立ててお前らときゃっきゃしたいんだよ。
だから私は王子の手を振り払ってお辞儀をした。
「丁重にお断りする」
テレビだろうが番組ぶち壊しだろうが知るか。私にそんなものに付き合う義理はない。