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彼を愛するが故に。  作者: 亀の甲羅
1/2

1st

ある朝。俺は目が覚めると、知らない部屋のベッドに寝ていた。


「ん、なんだここ…。」


「やっと起きたね。おはよう。浜崎くん。」


「!?」



いきなり声がして驚きつつも、声がした方に顔を向けるとそこには声の主がいた




「この声…もしかして長谷川か?」


「良く分かったね!そうだよ!私だよ、真依だよっ。」



——―長谷川(はせがわ) 真依(まい)

俺と同じクラスで、清楚系女子という珍しいタイプの女子だ。クラスでも人気があり、男女両方から好かれる、まさにマドンナ的存在である。



「…てか、ここどこだ?俺の部屋…じゃないよな?」


「ここ?ここはねぇ…私の部屋だよ?」


「はぁ!?」



驚いて起き上がろうとした時、手首に違和感を感じた。なんと、俺はベッドに手錠で腕を固定されていたのだ。



「あーだめだめ。動いちゃだめだよ」


「な、何だよこれ。」


「何って、手錠だけど?」


「いや見たらわかる。…ってそうじゃなくて何で手錠嵌められてんだよ。外せよこれ。」


「外すわけないじゃん。だって外したら逃げるでしょ?」


「そりゃそうだろ。つか、急にこんな状況になったら誰だって逃げたいと思うわ」


「だったら外さない方がいいね!」


「どうしてそうなる…とにかく外してくれ。…逃げないから」


「ホントに?逃げない?絶対?」


「逃げてもどうせ連れ戻されるんだろ?」


「うんもちろんっ!死んでも連れ戻すよ!」


「いや怖いわ。死んでも連れ戻されるくらいなら逆に逃げない方がマシだわ」


「んーでも確かにこのままだと浜崎くん寝たままだからまともにお話できないもんね!分かった!外してあげる!」


「そうしてくれると助かる」


「でももし、逃げようとしたら…分かってるよね?」


「…わ、わぁーってるよ」



長谷川はいそいそと俺の手錠を外し始めた。このまま逃げようかとも思ったが、嫌な予感しかしないので諦める事にした。



「それで?全く状況が呑み込めてないんだが…何で俺はここにいるんだ?なんで手錠なんてされてたんだ?いつからここにいたんだ?」


「もう~、質問が多いなぁ浜崎くんは。質問が多い男は嫌われちゃうよ?まあ私的にはその方がいいんだけど…」


「いや答えろよ…。もしかして俺に何か恨みでもあるのか?だからこんなことするのか?」


「恨み?恨みだなんてとんでもない!むしろその逆だよ?」


「逆?逆ってどういう…」


「あ、分かった!浜崎くんひょっとしてまだ寝ぼけてるんでしょ~?さっき起きたばっかりだもんね!だからそんなこと聞くんだ?」


「話を聞け。どうしてこんな状況になってるのか聞きたいだけ——―」


「浜崎くんを監禁したかったから」


「…は?監禁?監禁って言ったか今」


「言ったよ?」


「いやいや、何で俺を監禁なんか———―」


「浜崎くんを監禁したのにはね、理由があるの」


「監禁するのに理由なんかないだろ」


「あるよ!だって昨日浜崎くん、帰る途中で倒れたんだよ?」


「倒れた?俺が?」


「あー、えっと……正確には、『倒れた』んじゃなくて、私が浜崎くんを『倒した』って言った方が正しいかな。」


「は?倒した?…どういうことだ?ちゃんと説明してくれよ」


「実はね…私がこれで浜崎くんを倒したの」


「え、なんだそれ」


「スタンガンだよ?私お手製の」


「そうじゃなくて、何で自作のスタンガンなんて持ってるんだよ。下手したら俺死んでたぞ?」


「死なない程度の出力にしたから大丈夫だよ〜」


「そういう問題じゃなくてだな…。大体、何でこんなことしたんだ?」


「んー、浜崎くんをずっと私のそばに置いておきたかったから、かな?」


「何だよそれ、答えになってな——―」


「だって!!!」


「っ!?」


「だって…これ以上浜崎くんが私以外の女と話したり目を合わす事が耐えられなかったの。私はいつも浜崎くんだけを見てきたのに、浜崎くんは全然私に振り向いてくれないし…。どうしたら浜崎くんが私に振り向いてくれるのかなってずっと考えたの。それに浜崎くん、みんなに優しいからそのうち誰かに取られちゃうんじゃないかって思って…。それならいっその事、浜崎くんを監禁してずっと私のそばに置いておけばいいかなって思ったの。」


「ちょ、ちょっと待て。どういうことだ??その言い方だとまるで俺が何かしたみたいじゃないか」


「え?浜崎くんは何もしてないよ?」


「じゃあ何で監禁とか言ってんだよ。それにスタンガンって。物騒にも程があるぞ…」


「だってこれ以上浜崎くんに変な虫がついたら嫌だし?」


「変な虫って…」


「........」


「何だよ急に黙るなよ」


「その…ご、ごめんね…。そうだよね…急に監禁とか…ぐす、嫌だよね…私なんて馬鹿なことしたんだろ…ぐすっ…。」


「お、おいどうした。急に泣くなよ。」


「ごめんね…ごめんね…。でもこうするしか…出来ないから…浜崎くんに…私以外の女は…必要ないの…。浜崎くんに、ずっとここにいて欲しかったの…だから、だから……」


「どうしたんだよ急に…」


「浜崎くんと…一緒にいたいだけなの…ダメ…かな?」



ほんの一瞬、感情が揺らいだ。さっきまで情緒不安定だったはずなのに、急な上目遣い。これは反則だろ。いや落ち着け。いくら同じクラスだからって、俺を監禁するようなやばい女なんだぞ。なのになんだこの感情は。



「…うう、ぐすっ、浜崎くん…」


「…わかった。分かったから。一緒にいてやるから泣くな」


「え?ホント!?やったー!」


「お前…つい今泣いてたんじゃねえのかよ」


「演技だよ?」


「演技!?まじかよ騙された…」


「女の涙は武器なんだよ?そう簡単に信じちゃだめだよ?ふふっ…」



完全に騙された。まさか俺をハメるためにわざわざ泣く演技まするとは。そこまでして俺と一緒にいたいのだろうか



「信じちゃダメって、今のお前が言っても説得力ないぞ…」


「えー、ひどーい!」



スマホが鳴る。着信相手を見た途端、長谷川の表情が変わった…ように見えた

俺はそんなことは気にせず電話に出る



「はい、もしもし?」


『あ、浜崎くーん?ごめーんもしかして今忙しかった?』


「全然そんなことないっすよ。むしろ暇でしたよ」


『そうなんだ。じゃあ浜崎くんさ、今度一緒にご飯食べに行かない?美味しいお店見つけたから浜崎くんにも紹介したくてね』


「マジですか!?行きます行きます!」


『じゃあ決まりね!んーと、あ、来週の土曜日とか、どうかな?空いてる?』


「はい!勿論です!土曜日は空けておきます。」


『よかった〜。じゃあ来週の土曜日ね、よろしく〜』


俺は電話を切って心の中でガッツポーズをした。

憧れの先輩である和田先輩から飯の誘い…これは断るわけには行かない!という期待感と高揚感。だがしかしその期待感と高揚感は一瞬にして崩れ去る



「……今の誰?女の声が聞こえたけど」


「誰って、長谷川も知ってるだろ?うちの部活の先輩」


「ああ、あの女ね…ふうん。」


「お前…さっきと態度違わないか?」


「断って」


「は?」


「今すぐ断って」


「お前なにを———」


「いいから断って!!早く!!」


「!?」



長谷川が今までにないくらい怖い目をしている…。急な態度の変化もきになるが…ここは従っておかないと後から大変なことになりそうだ


「わ、わかったよ…断ればいいんだろ…」



俺は再び和田先輩に電話をかける。

鬼の形相で長谷川が俺を睨んでる。

怖い…怖すぎる…



『もしもし〜?浜崎くん?どったのー?』


「あ、あの和田先輩。実は——」



そこまで言いかけた時、俺の携帯は長谷川の手にあった


「あ、ちょ」


「もしもし和田先輩?長谷川です。」


『あれ、真依ちゃん?…んん?これ浜崎くんの携帯だよね?どうして浜崎くんの携帯から真依ちゃんがかけてるの?』


「そんなことはどうでもいいんです。そんなことより…。浜崎くんを誘惑しようたってそうはいきませんよ?もう浜崎くんは私のものなんですから!誰にも渡しませんから!!!」


『え、ちょ、なに!?いきなりどうしたの!?』


「私、浜崎くんを監禁しますから。和田先輩はこれ以上浜崎くんに近寄らないでくださいね」


『ちょ、真依ちゃんなにを——』



長谷川が強引に通話を終了させた。さっきまでの鬼の形相が嘘のようだった


「ふうー。これで浜崎くんに近寄る女はいなくなったね。あ、念のため浜崎くんの携帯に入ってる女のアドレス全部消しとくね」


「お、おいやめろ!」



俺は長谷川から携帯を取り上げ、アドレスを消されるのをなんとか阻止した。



「大体、お前さっきから何なんだよ。俺のこと監禁するだの、変な虫だの。俺はお前のオモチャじゃねえんだぞ」


「そんなこと分かってる。でも浜崎くんはみんなに優しいからその優しさにつけ込んでくる女だっているはず。だから私が守るの。」


「別に俺は守って欲しいとは思ってない。第一、人から優しいと思われてるならそれはそれでいいことじゃねえか。なにがダメなんだよ」


「浜崎くんは知らないんだね…。浜崎くんの優しさにどれだけの女が惚れたか…。それが私には耐えられないの。」


「別に惚れられても困る事ないだろ?いい事だらけじゃねえかよ。」


「…そうね。だから…」


「…っ!?がはっ!」



突然首筋にビリビリっと痛みが走った。迂闊だった。長谷川はスタンガンを俺に使ったのだ。


「スタン……ガン……がはっ……」



俺はそのまま倒れてしまった。



「ごめんね。浜崎くん。でもこうするしか、もう方法はないの。浜崎くんに他の女を寄せ付けない為には、もうこうするしかないの。…ごめんね、浜崎くん。」






















「愛してるよ。浜崎くん」










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