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9/12

9.私はどうやら怪力みたいです。

吟遊詩人が静かに歌う料理店で私は物思いに耽っていた。


(リオンさんって元々はどんな子だったんだろう?)


私が転生して1週間、今までで分かっていることをまとめると、



・生まれはアディン家という鉱石業と発掘業で財を成したお金持ち。


・お父様はドワーフでお母様は人間とエルフの混血であるハーフエルフ。だから 3種族の血をひいている。


・私がリオンさんになる前は結構ワガママ?だったり、乱暴?だったり。 嫌いな食べ物は酸っぱいもの。


・良く分からないけど、なんか、身体能力は凄い方……?



だから、一言で言えば、なんか、普通じゃない。


私は運ばれてきた野菜とマッシュルームのピラフ(この世界のお米は東の国から輸入したものを栽培して収穫してるそうです。)を食べながら考えていた。


「リオン?」

「………………」

「リオンってば!」

「はっ!はい、何ですか?」


私は向かい側に座る兄さんの声で現実に引き戻された。


「さっきからどうしたの?悩み事?」

「いえ、大丈夫です。何でもありません。」

「何でもありそうだよ。ジェラルドさんも心配してたじゃないか。」


ジェラルドさんは馬車を見なくてはいけないので、別の所で馬達とご飯を食べている。


「大丈夫ですから、その、女の子特有の悩み事なので、後でテレサちゃんに相談しようと思います……。」

「?」


兄さんはよく分からないという顔をしていたが、「それじゃ男の僕は出る幕は無いね、でも本当に平気なの?」と気遣ってくれた。ああ、兄さんに申し訳ないなぁ……。


(兄さんに「私って何なの?」なんて聞けるわけ無いしなぁ……)


美味しかったんだけど、あまり味わえなかった食事を終えてお店を出た時だった。


「ふーん!ふーん!」

「ぐぅぅぅぅ、ダメだ、重すぎる!」

「ああくそ、上がらねぇ!」


目の前で3人の男の人が車輪のついた台に載った縦長の大きな木箱を押している。3人とも格好は袖のないシャツに膝くらいの丈のズボン。頭には鉢巻きやバンダナを巻いている。その先には斜めになった台が荷台の搬入口に繋がっている。どうやら木箱を荷台に載せようとしているのだが、肝心の荷物が重すぎてあげられないようだ。やがて3人は諦めて木箱から手を離す。


「アニキ、おれ、もう疲れた…」

「何言ってんだよ新入り……オメェ一番若いじゃねぇか……」

「けどよう、アニキぃ、ジャーオの得物は俺たち人間じゃ無理だよ……手の空いてる奴探して来ようぜ……」

「バカ言え…もうすぐかしらが来ちまうんだぞ…」


3人はヘトヘトになって座り込んでいた。それを見ていた兄さんは自分から近づき3人に話しかけた。私は兄さんの横に並んだ。


「あの、大丈夫ですか?僕、手伝いますよ?」

「あ?ああ……ありがてぇんだが、兄ちゃんじゃ無理だ。悪いな。」


兄さんの助けを「無理だ」の言葉で断ったのを聞いた私は気になって聞いてみた。


「無理って、どうしてですか?」

「ああ……そのな、兄ちゃんも嬢ちゃんも力仕事、無理そうだろ?見た目的によ。」


確かに、兄さんの力は見た目通りにあんまり無い。細いし、誰が見ても非力だと思うだろう。しかし、物を運ぶくらいなら出来そうだけど……


「ところで、何を運ぼうとしてるんですか?」


私は聞いてみた。


「コイツかい?コイツは東の国の『ジャーオ』達の依頼品さ。中身は武器だ。『砕月さいげつ』とか言ってたっけか?」

「たしかそうだよ、アニキ。」


「ジャーオ」というのは東の国にしかいないという種族で、外見の特徴として男女共に大柄で、頭に1~2本のツノが生えている。そして男女共に凄い力持ちで誇り高い。時々、武者修行としてフィアス大陸の所々へ旅する方もいるのだが、彼らの使う武器はとても重く、人間やエルフには重すぎて扱えないらしい。ちなみに「ジャーオ」という呼び名は彼らは使っておらず(あくまで東の国以外の呼び名)、彼らは自分達を「鬼人族きじんぞく」と呼称している。


そして、この人達は「運び屋」という職業の人達で、いわゆる宅配業者。代金さえもらえば大陸の端から端へ運んだりもしている。


「コイツは東の国への輸出品でもあるんだ。まず認可を得るために王都へ運ばなきゃなんねぇんだけど……」

「俺は運び屋やって結構長いが、こんな重い代物は初めてだ。荷台に載せらんねぇよ……」


しかし、よく見るとそこにあるのは荷台だけ。それを引っ張る馬がいない。


「あの、荷台に馬がいませんが……」

かしらが今、馬の代わりを連れてくるってギルドに戻ってるんだ。他の荷物なら馬数頭で何とかなるけど、どうすんのか…」


運び屋の人達は頭を抱えていた。所で、目の前は武器屋兼鍛冶屋だ。この武器を作った職人さんはどうして手伝わないのかを聞いてみたら、


「もちろん店主のドワーフのオヤジもお前ら2人が来る前に手伝ってくれたさ。だけど、荷台に上げようとした所でギックリ腰起こしちまったんだよ。んで、寝込んじまった。」


鍛冶屋のドアには「本日の仕事は終了しました」と札が下がっていた。


3人はもう疲労困憊といった様子だ。兄さんは箱の前に立ち、試しに押してみた。


「んっ!!」


兄さんは力を込めて押しているが、箱は全く動かない。


「ダメだ……重すぎる……」

「な?無理だろ?」


兄さんはハァハァと息をついていた。


「兄さん、大丈夫ですか?」

「うん……コレを鍛えたドワーフもすごいけど、コレを振り回すジャーオはもっとすごいんだろうな……」

「嬢ちゃんもやってみな。きっと無理だぜ。」


運び屋さんのひとりが苦笑いしながらそう言ったので私もやってみた。


縦長の箱の前に立ち、手を添える。そして力を込めて押してみた。


「ふんっ!」


すると、


ギコ………ギコ………


「え!?」

「ウソ!?」

「マジで!?」

「リオン!?」


ゆっくりと、車輪が動き出した。荷台へ繋がる斜面を上り始めたのだ!


「なぁんだ……ちょっと……重たいけどっ……何て事……無いですよ……!」


ギコ……ギコ……


私にとってはちょっと重い位の感じだった。これなら押せば行けると思って、ズイズイ押していく。運び屋さん達はそれをポカンと眺めていたが、


「あ!嬢ちゃん嬢ちゃん!斜めになってる!」

「それ斜めじゃ入んねぇんだ!真っ直ぐやってくんねぇと!」

「お、お前ら!嬢ちゃんのフォローすんぞ!兄ちゃんも手伝ってくれ!」

「は、はい!」


少し向きがずれたらしく、兄さんと運び屋さん達が横で向きを修正する。そして、大きな箱は荷台にスッポリと入り、車輪のついた台もうまく箱の下から引き抜けた。


「いや助かったぜ~。2人ともありがとうよ!」

「ほんとありがと。ほんとにありがと。」

「後はおかしらを待てば良いだけだな!」


運び屋さん達がホッとした時だった。


「お前らぁぁぁ!待たせたなぁぁぁっ!!」


大きな声がしたので振り向くと、大きなトリケラトプスが道の向こうから歩いて来るではないか!しかも上に人が乗ってる!


「ウソ!兄さん、あれ何!?」

「あれは地龍ちりゅうだよ。ドラゴンの一種だけど性格は大人しい。足は遅いけど臆病じゃないし力は凄いからよく運送業に使われてる動物なんだ。心配は無いよ。」


大きなトリケラトプスは私達の前で止まった。その上から白髪混じりの男の人が飛び降りる。


「遅くなってすまねぇな。地龍ちりゅう借りんのに時間かかっちまった。荷物は済んだか?」

「へい。こちらの兄ちゃんと嬢ちゃんのおかげで…」

「あん?」


事情を聞いた男の人、つまり運び屋のおかしらさんは大笑いして、


「そうかそうか!オレも実は心配だったんだ。オレ達で運べるかなぁって思ってたんだが、まさか子供らに助けられるなんてなぁ!ともかく、ありがとうよ!」

「いや、僕は特に……」

「先に話しかけたのは兄さんじゃないですか。私は成り行きでやっただけです。」


私一人じゃあ、多分見てみぬふりをしていただろう。兄さんが先を歩いてくれたから、私は手伝えたのだ。やっぱり、兄さんは誇りだ。


「それにしても、私にはそんなに重くは感じなかったのですが…」

「なに?」

「あ、かしらぁ、実は、『砕月さいげつ』を荷台に運んでくれたのは、そこの嬢ちゃんで……」

「は?なんだそりゃ?そんな冗談……」

「じょ、冗談じゃねぇんです!」

「ほ、ほんとほんと!」


かしらさんは、私を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。


砕月さいげつって、アレだぞ?人間10人でようやく運べるような代物だぞ?ドワーフだって、5人はいなきゃ厳しいぞ?それを、このが?」


私は、なんだかイヤな予感がした。


「……砕月さいげつって、そんなに重いんですか………?」

「……触らないって約束すんなら、見てみるか?」


恐る恐る尋ねる私に、恐る恐る返すおかしらさん。私は、荷台の中の箱を特別に開けてもらって極砕剣ごくさいけんを見させてもらった。


「!!!」


黒色の鞘に隠れてやいばの部分は見えなかったが、柄は太く長く、つばも厚く、その先の刀身は分厚く太いというのが分かった。長さは人間の男性1人分に相当するだろう。


「コイツは『頑鉄がんてつ』っていう金属で出来ててな、錆びなくて頑丈な代わりにやたらと重いんだ。……嬢ちゃんは本当にコイツを運んだのか?」


こうして私は、リオンさんの新しい情報を知った。


リオンさんは、めちゃくちゃ怪力。女の子なのに力自慢。それだけの腕力があれば、「恵みの大樹」の幹に指を食い込ませて登るなんて芸当も可能かもしれない。ああ、その力でリオンさんは兄さんを叩いたんだね……?兄さん、痛かったろうなぁ……。





「ハハハ、そんな事があったのかぁ。」


運び屋さん達と別れた私達はジェラルドさんと合流し、帰り道を馬車で移動していた。


「皆には内緒にして下さいよ?兄さんも!」

「今日の出来事か?人助けしたんだろ?別に良いじゃねぇか?」


あの後、運び屋さん達から手伝ってくれたお礼としてお駄賃を私と兄さんはもらった。最初は断ったけど、「オレ達の気が済まないから」と、結局は受け取ったのだ。そして、運び屋さん達は笑顔で町を後にした。


「大丈夫だよ、リオン。父上も母上も話せば分かってくれるさ。」


兄さんは出掛けた先でお金をもらった事を私が心配していると思ったのだろう。私は別にそこは心配してない。


「そうじゃないんです……」

「そうじゃないっていうのは?」


ジェラルドさんが背中越しに聞いてきた。


「その、女の子なのに力持ちなんて……似合わないというか……私……」


私が心配しているのはそこだ。女の子なのに怪力持ち。なんだか矛盾してる感じで気持ち悪いような気がする。アディン家の皆に嫌われないだろうか、と思ったのだが……


「何言ってんだ?そんなのライデンの旦那もエレナのカミさんもメイド達も皆知ってるぜ?嬢ちゃんが旦那を超える怪力の持ち主だってのはよ。」

「ええっ!?」


ジェラルドさんは何を今さらみたいな感じで私に言った。待って、お父様を超える怪力って何!?


「あと、ご近所さんも知ってんぞ。」

「うそ……!?」


家族だけじゃなくご近所さんも私の怪力を知ってる!?どういうこと!?


私は兄さんに助けを求めるように兄さんに振り向いた。兄さんは何故か苦笑いを浮かべている。


「………リオン、もしかして頭を打って忘れたのかい?」

「………何をですか?」

「………君は、頭を打つ前、『1000年に1人の暴風の化身』って周りから言われてたんだよ……?」

「え、え、ええぇぇぇぇっ!?」


ポクポクと蹄鉄が地面を叩く音の中に、私の絶叫が町中にこだました。


何それ!?「1000年に1人の暴風の化身」!?


リオンさんは一体何をやらかしたのぉぉぉっ!?





















(やっぱ、リオン嬢ちゃんじゃねぇな。コイツ一体何者だ?)


冒険者時代に培った「勘」が自分に告げる。この嬢ちゃんはリオン嬢ちゃんじゃない。嬢ちゃんの姿をした別人だ。手綱を操りながらジェラルドはひとり思ったが、


(だが、これからの毎日は、ある意味冒険者時代よりも面白くなりそうだ。)


ほくそ笑むジェラルド。彼の後ろではリオンがレオナルドに「どういうこと、兄さん!?」と詰めよっているが、レオナルドは「僕は良く知らないけど、周りからそう言われてたんだよ……。」と頑張ってなだめようとしている。


(とにかく、俺を退屈させないでくれよ。『新しい』リオン嬢ちゃん。)


ジェラルドは背中で笑いながら、手綱を握り直した。


運び屋さんとの会話で出てきた鬼人族の別名である「ジャーオ」ですが、これはツノの中国語である「ジャオ(ジァオとも発音する様です)」と「王者」を掛け合わせた言葉です。いつもの様に豆知識をひとつ。

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