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3.目覚めるとお嬢様になっていました。(その2)

「し、信じられません……」


ガタガタとツーサイドテールの黒髪のメイドの女の子が私の食べた食事の後を見てなんか震えていた。


「おいしかったよ。ごちそうさま。」


私はニッコリと微笑むも、メイドさんの震えは止まらない。


「お、お嬢様、全て召し上がられたのですか……?」

「ええ。梅粥でしょう?とってもおいしかったよ?」

「そ、それはメイド長たるわたくしが味付けや栄養など吟味して丹精込めて作りましたから…じゃなくて、お嬢様は梅干し苦手だったじゃ無いですか!?」

「へ?」

「それどころかレモンとか酸っぱいものはあんまり食べたくないっておっしゃってたじゃないですか!?」

「……そうだっけ?」


リオンさん、酸っぱいものダメだったんだ…。あ、頭の中ににレモンとかをフォークでお皿の端によかしてるリオンさんの記憶が…


「今のお嬢様は何日も口にしていないから出来るだけ消化の良いものをと執事様より承りましたので、怒られる事を覚悟でお腹にやさしい食事の代表とも言える梅のお粥を作りましたが…」

「……だから、おいしかったってば。」

「このアディン家にお仕えして23年。お嬢様のオシメのお世話もさせて頂いた私ですが、私は初めてお嬢様に奇妙な感情を抱いています。」

「はい?」

「普通なら『おいしかったよ』という言葉に素直に喜ぶべきなのでしょう。ですが私が予想していたお嬢様のお言葉は『なんで梅干しなんか入れたのよ』とかでした。」

「私、そんな事言わないよ!」

「それですよ!……お嬢様、なんか悪霊に取り憑かれたりとかされてませんか?」

「あくりょう?」

「まるでお嬢様はお人が変わられてしまった様です。それこそ悪霊の仕業のような…」


ギクッ。悪霊とかは関係無いけど、人が変わったのは確か。私は慌てて取り繕った。


「気のせいだよ!私は私だよ!テレサちゃんは私が変な何かに見えるの?」

「ちゃ、ちゃん……私は初めてお嬢様にテレサちゃんて呼ばれました…」


メイド長のテレサの顔が真っ赤になり、自分で自分の両頬を手でおさえる。


「…ダメなの?」

「ダメではありませんが私は今年で33になりますので他の種族から見ればもう立派な大人とみなされるのでありましてちゃん付けされるような年ではなくそもそも私の中ではちゃん付けされるということはとても可愛らしく愛嬌がある方にのみ許される呼び方と認識していますので私のような者につけるようなものでは決してなくああでもノーム達の世界では100歳でようやく一人前とされますから私はまだまだ可愛いヒヨッコの中のヒヨッコと言っても過言ではなくまだ少女として扱われるのでしょうがしかしお嬢様のように天使のような方ならまだしも私のような者がお嬢様と対等になってしまってはいつか身分の程と恥を知りなさいときっとどこかの誰かにお叱りにあってそれで最終的には裁判にかけられ」

「待って待ってテレサちゃん!落ち着いてよ!」

「はっ!も、申し訳ございませんお嬢様。つい我を忘れてしまい…」

「その前にテレサちゃんって33歳なの?ノームってなぁに?」

「え?」

「え?」


それで私はメイドの少女、テレサちゃんから「私がここで働きだしたきっかけってお話ししたことありませんでしたっけ?」という話になったので聞かせてもらった。


まず彼女は「ノーム」という種族とのことだ。


何でもかつては大自然の中で生活していた太古の昔の大地の精霊の一部が人間の世界に興味を持ち、人間達に紛れて生活し、人間と恋に落ち、そして人間との間に生まれたのが祖先と言われている。ちなみに「エルフ」は森の精霊と人間との間に生まれたのが始まりと言われている。


さて、そんなノームだが身体的な特徴として「大人になっても子供のような背丈のまま」というのがある。そして寿命もエルフのように長命なので100年経っても子供の姿のままなのだそうだ。また彼らの世界では100歳でようやく成人として扱われるらしい。そんな彼らは幼い頃から「自ら誰かを支える立場になるように」と教育されている。


彼らの祖先は大地の精霊。しっかりとした大地がなければ大木はいずれ倒れてしまう。そして我々ノームは大地からその血肉を分け与えられた存在。だから我々も大地のように大木を支えるような者となるべきだ!ということでノーム達にとってはしっかりとした大地のように主人を支える立場となることが美徳とされているとのことだ。


そしてテレサちゃんは10歳の頃に奉公に出されて(ノームは10歳になると家督を継ぐ者以外はどこかで住み込みで働かなければいけないならわしがある)、縁あってアディン家のメイドとして仕えるようになった。当初は他にも人間のメイドさん達がいたとのことだが、結婚や出産等を機に屋敷から先輩メイド達は去っていき、現在ではメイド歴の一番長い彼女がアディン家のメイド長となっているのだ。


「ごめんなさい、テレサ…さん?」

「いけませんお嬢様!私はあなた様の従者です。呼び捨てで結構でございます!」

「でも年上でしょう?年上の人は敬わないと…」

「平気です!私には敬う要素なんてありません!」

「そうかな?長年メイドさんとして頑張ってるんでしょう?十分敬えるよ?」

「や、やっぱりお嬢様に何か良からぬ悪霊が……」

「悪霊なんかいないよ!もし私に悪霊が憑いてたら今頃テレサちゃんに何かイタズラしてるでしょう?」

「はぁっ!また私をちゃん付けしました!それこそ立派なイタズラでございます!」

「あ、ごめん。でもテレサちゃんって呼んでもいい?私より一回り以上年上だけどテレサちゃん可愛いし。」

「か、可愛い……私が可愛い………」


すると、顔を真っ赤にしたテレサは、


「きゃ~~~~っ!!」


と大声をあげながら部屋を出ていってしまった。


(あれー………?)





「テレサ様は突然高熱を出されたので寝込んでおります。知恵熱のたぐいだと思われますので数日で快方するでしょうがお嬢様は一体何をされたのですか?」


今、私は自室でテッセンさんに事情を聞かれている。何でも廊下でバッタリ倒れているテレサちゃんを見つけて慌ててベッドに寝かせたらしい。テレサちゃんはうわ言で「可愛い…私は可愛い…」と呟いていたらしい。


「テレサ様は誉められることにあまり慣れていないのです。」

「どうしてですか?」

「それは彼女の種族のせいとでも言いましょうか。彼女達ノームは誰かを支える事を生き甲斐としています。ですから彼女達にとっては例え作った料理の出来が10年に1度の快作であったとして、それを皆が賞賛したとしても彼女達ノームにとっては『当然の事をしたんだから誉めるべき事じゃありません』とそれを取り下げるように言うでしょう。ノーム達には『大地は感謝されずともずっと命の下にあり続ける』という格言があります。ノーム達は自分達には感謝はせず皆は自然にさえしてくれればそれでいいという信念があるのです。」

「なんか、かわいそう。頑張っても誉められたりしないなんて。」

「そうかもしれませんが、彼女達にはそれで良いんです。美味しい食事を食べている人は言葉に出さずとも表情とかで分かるものでしょう?ノーム達への最大の賞賛は、まさにそれなのです。」

「そうだったんですね。私、悪いことしちゃったな。」

「ですが悪気があった訳では無いのでしょう?以前のお嬢様なら何か文句を言っていましたが、テレサ様にそこまでお気遣いなさるとは……」


文句?私が?テレサちゃんに?あんなに良い子に?


そう思った時だった。私の頭の中にある記憶が流れ込んでくる。





「もう、私はマリネなんかいらないって言ったじゃない!」

「リオン、やめなさい!テレサは私達の為に頑張って食事を作ってるのよ!」

「だってお母様!私酸っぱいの嫌いなのよ!私前にもテレサに酸っぱいのはやめてって言ったのに!」

「……お嬢様、無理して食べなくても良いですよ。」

「そう!じゃあ食べない!ごちそうさま!」


ドカドカドカドカ………


「おいリオン!!まったく………テレサ、すまん。ワシに免じて許してくれ……」

「いいんです……旦那様……」




その記憶を思い出した時、私はベッドから飛び降りて駆け出した。


「お嬢様!?」


テッセンさんの言葉を無視して私は初めて自分の部屋から出たのだった。初めて見る豪華で広い廊下。でもここがお屋敷のどこかは分かる。私の頭の中にお屋敷の地図が入ってくる。私は走り出した。数年振りに走ったなんて感傷に浸ることもなくひたすら走り続けた。


「お、お嬢様!?」

「きゃあ!リオン!一体どうしたの!?」


廊下を歩くメイドさん達の脇を抜け、お母様をギリギリで避けて、角を曲がり、とにかく広い廊下を走って走って走り抜いて、そして、私はたどり着いた。


「テレサちゃん!!いる!?開けるよ!!」


私は本人の許可もとらないままノックもせずにドアを開けた。


「ほえ?お嬢様?」


テレサちゃんはパジャマ姿でベッドから体を起こしていた。私は構わずベッドに飛び乗りテレサちゃんを抱きしめた。


「お、お嬢様、何ですか!?」

「ごめんね!!テレサちゃんごめんね!!酷い事言ってごめんね!!」

「お嬢様?」

「テレサちゃんのごはんとってもおいしかったよ!!世界で一番おいしいよ!!だから、昔酷い事言った私をどうか……許して………」


私は泣いていた。正確には自分のせいじゃ無いけど、この体は今は私のものだから私は謝らなければと思ったのだ。それに、こんな酷い記憶を抱えたままなんて、私には耐えられない。


「テレサちゃんは……私が赤ちゃんの頃から……生まれる前からもずっとずっと頑張ってたのに……私、酷い事を言っちゃった……私……私ぃっ……!」


私の頭の中にリオンさんとテレサちゃんとの思い出が入ってくる。歩けるようになった頃に転んで膝を擦りむいて泣いたリオンさんを慰めてくれた事、おもらししたシーツをこっそり洗ってくれた事、テーブルマナーを優しく教えてくれた事。この娘はリオンさんが小さい頃からずっと見守ってきた大切な友達だったのに……!私はテレサちゃんを抱きしめたままわんわん泣いた。


「お嬢様、泣かないで下さい。私は従者ですから、どんな事にも耐えなきゃいけないんです。…………でも………でも……そんな事言われるなんて………お嬢様ぁ……私…………私………従者やってて良かったですぅ~!!」


テレサちゃんもわんわん泣き出した。私達は抱きあったまま大声で泣き続けた。






「……そんな事があったのか。」

「ええ。旦那様。今、お嬢様とテレサ様は泣き疲れてそのままメイド長の部屋で眠っております。」


入浴から戻って食事を楽しむライデンに執事テッセンはその日の事を報告する。


「リオンがテレサに謝るとはなぁ……」

「何だか不思議ね。」


自分の愛娘に思いやりの心が生まれたのは両親としては喜ぶべきなのだろう。しかし、


「やっぱり、頭打っておかしくなっちまったのか?」

「ですが、今日お嬢様は屋敷中を駆け抜けました。体の方はもう問題ないでしょうが……」

「うむ……」


両親と執事は喜んで良いのか分からない不思議な感覚に囚われていた。




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