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2.目覚めるとお嬢様になっていました。(その1)

「ん………」


窓から差し込む日光にまぶしさを覚えながら私は目を覚ました。綺麗な木の天井が目に入る。ゆっくりと身体を起こすと、そこは見たことのない部屋だった。茶色いクローゼットに本とかが少し雑に置かれている机。部屋の中央には小さな丸いテーブルと2脚の椅子、床にはホコリやシワひとつない絨毯。自分の入っていたベッドは羽毛のように柔らかくてふかふか。まるで入院中に本で読んだファンタジーの世界みたいだ。


そこで私はふと気付いた。


(体が…すっごく軽い!)


そういえば、私は自分で体を起こしたのだ。入院中は起きるのも辛くて仕方がなかった。今は違う。体中の邪魔な重りを外したかのように気持ちが良いのだ。


感傷に浸っていると、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。返事をしようとする前にドアは開けられ、誰かが入ってきた。


(メイドさん……?)


入ってきたのは黒いドレスの上に白いエプロンを纏った自分と同じくらいの女の子。肩くらいまでの黒い髪をツーサイドテールにした子がメイドカチューシャを可愛らしく着けている。何で子供がメイドをしてるんだろうと思った時だった。


「▲△#!?♯♭∽≫∠∃⊥∽≫≪∀!?」


聞いたことのない言葉で私に叫んだ。言ってることが分からないからどうしようと考えていると、


「#?&♯!#≫≫~!!⊥∠∠∠♯#∽~!!」


と叫びながら何処かへ走って行ってしまった。


何だろうと思っていると、今度はドカドカと慌ただしい足音が聞こえてくる。


「#∽∀≫▼△!!▼#$*≫!!」


男の人の声かな?と思ったときにはドアは勢いよく開かれ、見た目とかが正反対の男の人と女の人が入ってきた。


男の人は背が小さくて髭もじゃ。でも体つきはかなりがっしりとしていて上に着ているスーツのような服の上からでも筋肉がはっきり分かるほどだ。


女の人の方はまるでモデルさんのような顔にスラリとした長身の持ち主。緑色のロングドレスがとっても似合う長い金髪の女性だ。


「*$≪∃♭◇△!!$∀¥≪◇△!?」


男の人は私に大声を出しながら近づき両肩を掴んだ。


「△∃♭♭**!!◇≪#@*∃∃!!」


私の肩を揺さぶりながら大声を出す男の人。物凄い力でビックリした。私は相変わらず何を言われてるのか分からなかったが、


「@∀¥♯△∀のか!?頼む!ワシをお父様と呼んでくれ!!」

「ああ、そんな、耳が聞こえなくなってしまったの?もう、お母様と呼んでくれないの?」


聞いているうちに二人の言葉が理解できるようになっていたのだ。言葉の意味も、発音の仕方も、全部がいつしか分かるようになっていた。そして二人が私の新しい両親だということも理解することが出来た。元の子の記憶がそうさせているんだろうか。とにかく、二人を安心させないと。


「大丈夫です。お父様、お母様。いきなり肩を掴まれたからビックリしてしまったんです。」


初めての私の声はとても綺麗な声だった。自分で言うのもなんだけど天使の歌声のような…


「二人の声はちゃんと聞こえています。二人の顔もちゃんと見えています。だから心配しないで下さい。」


私はそう告げると、ニッコリと笑った。


二人は一瞬呆気にとられていたが、


「リオン!ワシが分かるんだな!!驚かせてすまんかった!!」


髭もじゃのお父様はその太い腕で私をぎゅ~っと抱き締めた。


「もうダメかと思っとった…5日も眠ったままでこの先ずっと目覚めないかと思っとった…ワシは、ワシは…」

「お父様……ちょっと苦しいです……あと、ヒゲがくすぐったい…」

「あ?ああ、すまん。」

「もう、あなたったら…」


美人のお母様は涙ぐみながらお父様と代わるように私を抱きしめた。


「ああ、リオン…あなたの声がまた聞けるなんて…あなたをもう一度抱き締められるなんて…」

「お母様……」


お母様は私を愛おしく抱きしめ続けた。よかった。新しいお父さんとお母さんもとっても良い人そうだ。


コンコン


すると、また扉がノックされた。


「旦那様、奥様、入りますがよろしいですか?」


ドアの向こうから聞こえてきたのは年配の男性の声。


「ああ。テッセンか。入ってくれ。」


腕で涙を拭いながらお父様がそう告げるとドアが開き、一人の男の人が「失礼いたします」と言いながら入ってきたのだが、


「おじいちゃん!?」


私は反射的に叫んでしまった。


綺麗な黒の燕尾服に黒の革靴、真っ白な手袋をはめた白髪で年配の男性だったが、その顔立ちがおじいちゃんに瓜二つだったのだ。ただ一つ違う所を挙げるとすれば、耳が少しとがってるくらいだけど…


「あの、お嬢様、恐縮ですが私は祖父ではありませんぞ?それに先代の当主様は、もう5年ほど前にお亡くなりになったのですが……」


あ、そっか。ここは私が元いた世界じゃないんだっけ。そういえばお姉ちゃんが「世界には同じ顔の人が3人位いるって言うけど莉緒は信じる?」って病院でお話してくれたのを私は思い出した。


「ごめんなさいテッセンさん。…うっかり口が滑ったというか…」

「さ、さん!?このテッセンに初めて敬称をつけて下さった!?」

「え?」

「いつもお嬢様は私を呼び捨てでしたのに…機嫌の悪いときには『ジジイ』呼ばわりでしたのに…」

「ええ!?」


テッセンさんがなんか泣きそうになって、目元をハンカチで拭っている。ふと視線が気になり両親の顔を見ると二人も狐につままれた様な顔をしていた。ちょっと待って、元の子は一体何をやらかしていたの?


「ところでリオン、あなた、まだどこか痛い?」


お母様が不安そうに尋ねてきた。


「特にこれといって……どうしてですか?」

「どうしてって、リオン忘れたの?あなた『恵みの大樹』から落っこちたのよ。」

「!!」


そういえば忘れてた。元の子の魂は天に召されたと神様が話して下さってた。あの時水晶玉から見た光景では、元の子はピクリとも動かなくなっていた。つまり、頭とかに大ケガを負っていてもおかしくないのだ。


「失礼、お嬢様、念の為少々検査させていただきますぞ。」


おじいちゃん、じゃなくてテッセンさんは私に近づき、私の頭を優しく包み込むように手で覆った。


「ふむ、これは……」


テッセンさんの手で触れられている部分がほんのり温かい。


命脈めいみゃくの流れも気脈きみゃくの流れも血流もスムーズに流れております。骨などにも異常は見受けられません。これなら後遺症等の心配は入りませんな。」

「テッセン、本当なの!?」

「ええ。後はお嬢様自身の記憶等ですが…」


テッセンさんは私の頭から手を話すと私に目線を合わせて話しかけた。


「さて、お嬢様。面倒かも知れませんが私に自己紹介と簡単な家族の紹介をして頂けますか?」

「自己紹介と、家族の紹介ですか?」

「ええ。お嬢様は頭を強く打った様子ですので、記憶障害などの懸念がございますので…」


自己紹介、私の名前、私の家族。知らない情報なのに思い出そうとすると、不思議な事に頭の中にするすると入ってきた。ああ、分かる。私の新しい名前も新しい家族も。


「私はリオン。リオン・アディンです。アディン家の長女で第2子。10歳です。お父様はドワーフで鉱石業と発掘業を営むアディン家当主ライデン・アディン、お母様はハーフエルフで元冒険者のエレナ・アディン。そして、兄はレオナルド・アディン。私の5歳上の兄でこの街の学園の高学部に……」

「結構ですお嬢様。それだけ話せれば十分でございます。記憶の方も大丈夫そうですな。」


私も両親もテッセンさんもホッとした。そして私はテッセンさんがこのアディン家に130年位前から仕えているエルフの執事さんということも理解していた。


「うおし!今夜はリオンの快気祝いに豪勢にいくか!!リオン!ウマイもん腹一杯食わせてやるからな!」

「あの、お言葉ですが旦那様。お嬢様は5日も何も口にしていない状態でしたので、いきなり普通の食事を召し上がられるとお腹を痛める可能性があります。まずは消化に良いものがよろしいかと…」

「そうよあなた。テッセンの言う通りよ。」

「む、そうか。じゃ、ご馳走はもう少し先だな。それじゃあ早速リオンに何か腹に良いものをこしらえてやってくれ。腹が減っているのは変わらんだろう?」

「承知いたしました。すぐに厨房の者に手配いたしましょう。それではお嬢様、失礼いたします。」


テッセンさんはペコりと一礼すると、部屋を出ていった。


「じゃあ、リオン。ワシらもそろそろ行くが、何かあれば父ちゃんに言うんだぞ?」

「リオン、ゆっくり休んでね。」


お父様とお母様もゆっくりと出ていった。


私は皆が出ていった事を確認すると、ゆっくりとベッドを降りた。


(自分の足で立つなんて何年ぶりだろう…)


私には少し気になることが2つあったのだ。まずは歩けるかどうか。私は部屋の中をゆっくりと歩いてみた。


(歩けてる。私、歩けてる!)


自分の足が自分の意思に従って自在に動くのだ!全然疲れないし、辛さも痛みも感じない。跳んだり跳ねたりも出来そうだったけど、一応自分は病み上がりということなのでそれは我慢しておいた。


そして私は部屋の隅の机に向かう。机に小さな鏡があったからだ。私はそれを覗きこんだ。


ウェーブが少しかかった綺麗な長い金髪。くりくりとした青い目。可愛らしく整った鼻と口。耳はテッセンさんみたいに少しとがってる。体つきも細く、肌は色白だった。まるでお人形さんだ。元のリオンさんは物凄い可愛い女の子だったんだ。


(何だか、元のリオンさんに申し訳ないなぁ……)


申し訳なく思うと同時に私は元のリオンさんに感謝した。健康な体を私に授けて下さったのだ。私は心の中で「ありがとう、リオンさん」と呟いた。





「リオンのやつ、一体どうしちまったんだろうな。」

「ええ…」

「ワシのヒゲがくすぐったいなんて言ったのは初めてだ。いつもなら痛いし不潔だから早く剃れってわめくのにな……」

「あんなに大人しいリオンは赤ん坊の時以来だわ…」

「母さん、頭打って性格が変わったようなヤツ、冒険者時代にいたか?」

「いるにはいたけど、そうなった人は子供みたいになっちゃったり、しゃべれなくなったりとかで自力でのマトモな生活は出来なくなってしまったわ。あなたの友人たちはどうだったの?」

「ワシらドワーフは頭も頑丈じゃ。そうなったヤツはこれまでいなかったのでな……」

「……テッセンは異常は無いって言ってたけど…」

「どこかおかしいような気が……気のせいであれば良いが……」

「そうね……」


リオンの両親は自分達の娘の中身が変わったなんて、今の時点では知る由も無い。そしてリオン・アディンとなった神田 莉緒も元のリオンがどんな子だったのかということも……



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