1.プロローグ
初めて異世界転生の物語を執筆しました。変な所もあるかも知れませんが、暖かい目で見守って下さい。ブクマや感想、どしどし募集してますのでよろしくお願いします。m(_ _)m
(あれ?ここはどこだろう?)
気がつくと、私は何もない明るい所にいた。暗さを全く感じない白一色の部屋。いや、区切りみたいなのが無いから空間とも呼ぶべきだろうか?とにかく、私はそこにいた。
「よくぞ参られた。神田 莉緒殿。」
辺りをキョロキョロしていると後ろから声をかけられた。振り向くとそこには白いローブを着た白ヒゲの立派なおじいさんがいた。おじいさんといっても背筋はピンとしていてそれなりにがっしりとした体格で、何だか若々しく見える。この人は誰?何で私の名前を知っているんだろう?
「どうして自分の名を知っているのかと疑問に思っているようだな。その答えは簡単だ。私は神だからだ。さらに詳しく言えば輪廻転生を司る神でもある。」
おじいさんは堂々とした態度で自分を神と名乗った。しかも輪廻転生の神だと。ちょっと信じられないけど、どうして神様がいるんだろう?
「……神様、ここはどこなんですか?私に何の用なんですか?」
「ふむ、やはり自分が死んだことには気づいてはいなかったか。」
神様はあごひげをいじりながら呟いた。
え?死んだ?私が?
「これを見るがよい。」
神様は手のひらを上に向ける形で腕をを前に伸ばした。すると、手のひらに小さな光の玉が現れた。その光の玉はくるくると回転し、占い師が使うような水晶玉くらいの大きさになった。水晶玉はふわふわと神様の手を離れ、私の前で止まった。その水晶から声が聞こえてきた。
「……先生、本当にありがとうございました……娘の為に…本当に……」
「よくここまで……頑張ったね…りおっ、りおっ……」
お父さんとお母さんの声だと理解したとき、水晶に、ある光景が映った。病室のベッドで静かに眠る私。その私の手を握りながら泣いているお母さん。涙を堪えながら主治医の先生にお礼を言っているお父さん。抱き合いながら泣いているおばあちゃんとお姉ちゃん。涙を拭うお兄ちゃんと泣きながらお兄ちゃんを慰めるおじいちゃん。
そうだ、ここに来る前、私は少しお昼寝するつもりだった。ちょっとだけ眠いからちょっとだけ眠るつもりだった。何で眠るだけなのに皆泣きそうにしてるんだろうと思いながら眠ったつもりだった。
でも、それは永遠の眠りだったのだ。
「理解出来たかね。そなたは病により10年の生涯に幕を閉じたのだ。」
神様は淡々と事実を私に突きつけた。そして、自分が死んだという事実が体と思考を支配すると、私は我慢できずに泣き出してしまった。
私は元々は普通の女の子だった。しかし、数年前に体調不良をおこしたため、風邪をひいたときとかにはいつもお世話になってる診療所で検査をしたのがきっかけだった。
「すぐ、大きな病院で診てもらってください!」
診療所の先生が慌てて診断書と紹介状をしたためたのを今でも覚えている。そして大きな病院での検査の結果、私はとある難病に犯されていることが発覚した。
その日から私の日常は変わった。走ることも歩くことさえもいつしか出来なくなり、治療の為の投薬の副作用で体は辛くなり、髪の毛は抜け落ち、病室のベッドが私の世界になってしまった。春の暖かさも、夏の太陽も、秋の静けさも、冬の寒さも人並みに感じる事ができなくなった。
それでもいつか良くなると信じてどんな事にも耐えてきたけど、結局、治らなかった。
治ったら皆で遊園地に行きたかった。友達と遊びたかった。学校にももう一度通いたかった。今まで食べられなかった美味しいものも食べたかった。家族の皆に恩返しがしたかった。
「おとうさん……おかあさん……!」
もう会えない大切な家族達を想うと涙が溢れてくる。私は泣いた。神様が目の前にいるのにも構わず、大声で泣き続けた。
「落ち着いたかね?」
「はい…神様、ごめんなさい…」
「何を言う。悪いことなど何もしておらぬではないか。」
神様は私を咎めようとはしなかった。逆に私の頭をゆっくりと撫でた。
「それで、私は、どうなるんですか?」
泣きじゃくりながら神様に尋ねた。これから三途の川とかに行くことになるんだろうか?
「いや、実はな、本来なら直接私と対面せずに、死後の魂の集まる所へ行ってもらうのだが、そなたは特例としてここへ来てもらった。」
「特例?」
「うむ。そなたは、全ての命には使命があるというのを知ってるかね?」
私が首を横に振ると神様は説明し始めた。
「神田殿。生きとし生けるものというのは必ず何かしら果たすべき使命や目的がある。生まれてきた意味と言えば分かりやすいか。」
「生まれてきた意味、ですか?」
「そうだ。指先程の小さな虫から象の様に大きな動物まで、全ての命には必ず意味がある。必ず目的がある。例えば君の両親だ。君の両親は君を含めて3人の子をもうけて、育て上げる事を目的として生まれてきた。」
神様はあごひげをいじりながら続ける。
「これまでの歴史や世界全体からすれば小さすぎる目的だなと思う者もいるかもしれん。しかし、それでも十分立派な目的だ。自分達の遺伝子を遺すという立派な大役を果たすために君の両親は生まれてきたのだ。」
「私のお父さんとお母さんは私とお兄ちゃんとお姉ちゃんの為に生まれてきたんですか?」
「その通りだ。だが、命達の中には残酷な目的もある。」
神様はあごひげをいじるのをやめて語りだした。
「例えば、どこかの町で銀行強盗が起きたとする。犯人逮捕の際に一人の警察官が人質を庇い死んでしまったとしよう。さて、その警察官の生まれてきた意味とは何か君には分かるかね?」
「……人質の人を、助けるため?」
「その通り。その警察官の生まれてきた目的はその人質の命を守る為だ。その一瞬の為に生まれてきたと言っても過言ではない。」
神様は更に続ける。
「富山県に『黒部ダム』という大きなダムがあるのを知ってるかね?君が産まれるずっとずっと前、1956年に着工し、7年の歳月をかけて完成したダムだ。171人もの作業員が殉職、即ち亡くなった事でも知られている。その171人の命達の目的というのは、後世の人々の生活の為と言って良いだろう。彼らは後から産声をあげる数千数万以上の命達の為に自分達の使命を立派に果たしたのだ。」
私は、神様の話をドキドキしながら聞いていた。
「命を繋げる為に生まれる者もある。犠牲を防ぐために自ら犠牲となる者もある。悪の汚名をあえて被るものもある。目的は違えど、全ての命は生まれてきた意味があるのだ。果たすべき使命があるのだ。」
全ての命には生まれてきた意味がある。ということは10年しか生きられなかった私にもあったんだろうか?
「だが、君はまだ使命を果たしていない。果たさぬままここへ来てしまった。」
「えっ!?」
私は、何も果たしていない、だって!?
「君の天命は確かに10年だった。それは確かだ。だが、調べてみるとまだ何かを成さねばならない命であることが分かった。自殺などで生きることを放棄している訳では無いのにだ。これは初めてのケースだ。」
「じゃあ、私はどうなるんですか?」
「落ち着きたまえ。そこで私は色々と調べてみた。するとだ。私の管轄する別のとある世界で君と同い年の少女が死に瀕しているのが確認されたので、ふと気になって覗いてみた。」
さっき家族達を映した水晶玉がピカピカ輝く。
「今一度、それを見たまえ。」
映し出されたのは草原のような場所。私くらいの年齢の一人の女の子が眠るように仰向けになっていた。その周りで大人達の声が駆け巡る。
「頭を動かさないで!担架が来るまでそのままにするのです!」
「ああ!神様!どうかお慈悲を……!!」
「脈はまだあります!気をしっかり!」
女の子は駆けつけた人達にゆっくりと担架に乗せられ、何処かへ運ばれて行った。
「………その子の魂は残念ながら天に召された。今頃、死者の魂の集まる所へ行っているだろう。」
「でも、神様、大人達の一人が脈があるって……」
「あの娘の体に魂は入っていない、いわゆる脱け殻だ。私の力で一時的に生命活動を動かしているだけに過ぎない。」
「どうしてですか?」
「……君をあの娘に宿すためだ。どうやら君は新たな肉体で生まれてきた使命を果たさなければならない事が分かったからだ。」
「えっ!?」
私は驚いた。私はこれから、あの娘になる!?
「私も信じられなかった。一つの肉体に別の肉体の魂が入ることは絶対にあり得ないからだ。だが、君の魂とあの娘の肉体が適合することが判明した。」
神様は再びあごひげをいじりながら語りだした。
「君が生まれてきた使命を果たしていないまま死んだ理由もこれで分かった。君は新たな肉体で新しい人生を歩かねばならないからだ。本来ならば使命を果たして天命を全うした魂は長い年月をかけて輪廻の輪の中を巡り、再びどこかの世界のどこかの母親の体内に誕生した赤ん坊の肉体に宿るようになっている。だが、君は違う。君はこれから新たな肉体で生まれもった使命の為に再び歩かねばならない。」
「私の使命って……一体何ですか?」
「それは教えられん。規則なのでな。だが、生きていれば自ずと分かるはずだ。さて、時間だ。」
すると、私の周りが急に輝きだした。いや、私が光ってるんだ!
「すまない。ほとんど強制的だが君の使命の為、私は新たな肉体に君を送ることしか出来ない。病で過酷な人生を終えたばかりだというのに、本当にすまない。」
神様の言葉を聞いているうちに私は変な睡魔に襲われた。死んでも、眠くなるときは眠くなるんだろうか?
「次に目を覚ますときには新しい肉体に宿っているはずだ。心配はいらない。あの娘の経験や記憶は肉体に宿ったままだ。言葉や知識はすぐに君のものとなるだろう。」
もう、返事も出来ない。神様の姿も次第にぼやけてくる。
「……君の新たな人生に幸多からん事を。」
その言葉を聞くと同時に、私の意識は完全に途切れた。