幸運の包みガミ
百年後にまた逢いましょう──
ある日。父が包みを持って帰ってきた。
両手で抱え込むくらいの大きさで、布のような物にくるまれた荷物といった印象だ。
よっこいしょと、ずいぶん重たそうに、父は其れを家の中に運び入れる。
「それ、なに?」
私が問うと父は、家の前で不思議な男から預かったのだという。
何を馬鹿な、と私は表に出たが、外には人っ子一人居やしない。
ぽかんとする私に、父は不思議な男が何を言ったのか話し始めた。
曰わく、中を見ないこと。
曰わく、大切に扱うこと。
曰わく、詮索をしないこと。
其れらが守られるのなら、幸運が訪れるということ。
胡散臭い。私は即座にそう思った。
父は騙されやすいので、どうせまた担がれたのだろう。
しかし。不思議な男は特に対価を求めるわけでもなかったらしいし、署名を求められてもいないらしい。
なら、そのまま家で保管する他はあるまい。不思議な男も「必ず受け取りに行きます」と言っていたそうだし。
ひとまず、包みは神棚の隣に置いておくことにした。
それからは、不思議なことが起きた。
無くしていたはずの物が見つかったり、父の仕事がうまくいったり。私も、喧嘩していた友達と仲直りをしたり。その他諸々。
一つ一つは小さな事で、きっと偶然だ。
……ただ、偶然と言い切るには、色々と重なり過ぎていて。
「絶対におかしい」
原因は、信じがたいことだが、あの包みだろう。
私はゆっくりと、包みに手をかける。
怖くないと言ったら嘘になるが、このまま訳も分からずに幸運を享受するのも気味が悪い。
思い切って、くるんでいた布を取り払った。
「……ぁ」
初めは人形かと思った。
──違う。中身は女だ。女の死体だ。
あまりにも生々しい。あまりにも悍ましい。まるで生きているような、否こんな状態で人間は生きていられない、触れてはならない禁忌がそこにあった。
ごとり、其れが床に打ちつけられる音で、自分が手を離したのだと気付く。
「……二つ」
知らない声に思わず振り返る。
私の目に映ったのは見知らぬ男だった。幽かで、華のある、死の雰囲気を身にまとった男。
「これ、は……! 一体……!」
声を必死に絞り出して、男に詰め寄る。
この死体は、貴方がやったのかと。殺人? 死体遺棄? ぐるぐるとそんなことが浮かんでは消える。
対して男は、たった一言だけ告げる。
「……三つ」
何のことだと言いかけて。私は理解した。
曰わく、中を見ないこと。
曰わく、大切に扱うこと。
曰わく、詮索をしないこと。
……三つ。私は、すべてを破ってしまった。
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それで、彼女の物語はおしまい。
男は包みを抱えて、またどこかへと歩き出す。
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「また振り出しだ」
男は暗い顔で、くるまれた中身に声をかける。
百年使われた道具には魂が宿るという。事実、自分もそういった身の上の妖怪だ。
だから、『この娘』の亡骸にも、もしかすると。
「では次を探そうか。なに、時間はたっぷりとある」
朽ち果てぬ骸は、既に人ではないからなのか。それは誰にもわからない。
男は謳う。
おまへを愛してゐるよ。どんなときもおまへを想うよ。だからまたわらつておくれ。あの日のやうに。
死別を否認して。
共に永遠を生きようと願った九十九神の話。