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林と林

前回までのあらすじ

振られた彼女に出会い。再び勇者は交際を求めるが「プリキュアのパンツ」を履いて高校の卒業式に参加する男と付き合いたくないと言い捨てられ、財布も奪われてしまったのだった。

「兄さん、質問があります」


「……はい」


 俺は今、妹の眼の前で土下座させられている。


 何故かは……すぐにわかると思う。


「兄さんはそろそろいい加減キャラクターのパンツを履くのをやめてほしいです」


「……ッ!!」


 なんてことを言うんだ……この鬼畜妹!


 俺が、なんだあのパンツに助けられたと思ってんだよ!


「いやですね? これは兄さんの為を思って言ってるんですよ? いい年した高校生が、キャラクターの書いてあるパンツを履くなんて」


 しかしこの妹、パンツパンツと言って恥ずかしくないのだろうか。俺ならまず羞恥心が邪魔するところだけど。


「いや、まぁこの際、高校生だと言うことは忘れて差し上げましょう。ですがどうか今あるキャラクターのパンツぐらい捨てていただきたいんです」


「お前俺に死ねって言ってんのか!?」








「プリキュアのパンツを履くなと言ってるんだよクソアニキ!!」








「ヒエッ」


「マジでいい加減にしてよ兄さん! どうしてそんなバカみたいなことするの!? 妹いるんだよ!? 一人暮らしじゃないんだよ!? もっとわたしのこととか周りの目ぐらい考えてよ!!」


「ご、ごめん……わかった。二度と履かないから焼却炉だけは……」


「プリキュアオールスターパンツシリーズなんて見てる方が気持ち悪いわふざけんな!! これ弁慶さんにみられたら死ぬよ!?」


「そんときは本望だ」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?? もぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 急に発狂した!? やっぱり若い子はこう言う時期あるよね、うん。


「兄さんのバカ! もうしーらない! 成仏してやるんだから!」


「えっ!? ちょっと待ておい!?」


 そしてそのまま、紗希は夜の空は消えて行き。


 一日中、帰ってくることはなかった。










 ×××









「ぶぇぇぇぇぇぇぇん!!! ごめんなざいおにいちゃゃゃゃん!!!」


「紗希ちゃん……大丈夫なの?」


「多分な……大丈夫そうじゃないことは確かだ」


 まさか、オレんちに来るとは……こいつも行く場所少ないな。


「光牙ざんっ! わだじどうずればっ!? どうずればながなおりでぎるでじょうがっ!?」


「あー分かった! 分かったから泣くな! な?」


「紗希ちゃん紗希ちゃん! 加奈久しぶりにあーそぼ?」


「ああ……ごめんね加奈ちゃん、まだ十二時じゃないし、今そんな気分じゃないの……」


 相当凹んでやがる……。柊も相当だけど、林田の周りにいる女性はどうも頭がおかしい。


「普通に謝ったらいいんじゃないの。あいつもお前のこと大好きだろ?」


「じりばぜんんんんん!! でも謝って許されることじゃないですよこれは……」


「はぁ……?」


 なんかこいつ、自分の置かれてた立場っていうのを忘れているらしいな。


 昔、林田が話してくれた。


 どうしようもなかった俺に、ずっとそばにいてくれた人が居たこと。


 死んでもなお、一緒にいてくれた人のことを。


 今から約半年前ほどだ。


 林田の家族が、死んだ日。


 住んでた家は消滅し、家にいた家族は妹を残して全員死んだ。


 林田は酷く落ち込んだ。でも、隣には自分よりさらに幼く、小さい妹がいた。


 守らなきゃいけない。兄として、妹を守るのが使命なんだ。


 だから林田は泣かなかった。どんなことがあっても、泣いてる妹を守るために、何があっても気丈に振る舞い、悲しい心を押し殺し、生きてきた。


 彼女を慰めるために、部活動も立ち上げた。中高一貫校の特権、妹を連れ出して、楽しく遊べるように努力した。


 それをオレは近くで見ていた。オレも似たような境遇だったから、オレもこいつのように強くありたいとよく願っていた。


 次第に、泣いてばかりの妹にも笑顔が戻り始めた。


 林田も、妹が声を荒げて笑った時には本当に嬉しそうだった。涙を流してしまうぐらい、嬉しそうであった。


 だがそれは、またしても起きたある事件で崩壊した。








 ×××







 斗有町に、殺人鬼が現れたのだ。


 誰かなんてわからない。正体不明の殺人鬼が。


 そして、妹もおそらく、その毒牙にやられた。


 林田が家に帰ると、そこにあったのは深い血だまり。


 一瞬、意識が飛んだ。と彼は言っていた。無理もない。昨日まで笑顔だった妹が、バラバラになっていたのだから。




 葬儀を終え、遂に林田はひとりぼっちになった。親友であるオレがどうにかしてやれる問題じゃない。


 世界で、最も大切なものを失った時。人は何をしたらいいのかわからなくなる。


 林田の目は何を見ているのかわからない状態で。


 ブツブツと何を言っているのかわからない状態で。


 もう、生きることを止めようとしているようにも見えた。


 林田が守ると誓った妹を、林田は守ることが出来なかった。


 たった一人の家族を、たった一人の妹を。


 死なせてしまったのだ。


 その後悔が、林田を強く強く、苦しめた。


 そして何度も何度も、林田は自殺を試みた。


「ごめんなさい」「死にたい」「許さない」


 この三つしか、言わなかった。


 オレもどうすればいいのかわからなかった。


 何もしてやれない。オレじゃ何も出来ない。


 目を離すとすぐに、林田は自殺を試みる。ナイフを手に取ったり、輪っかを作ったり……。


 もう、限界だ。


 そう思った時に、奇跡が起こったのだ。










「まったく……世話の焼けるお兄ちゃんだなぁ!」









 上から、声が聞こえたのだ。


 林田の目には、その時確かに光が灯った。











 ×××











「……紗希、お前はあの豆腐メンタルな兄貴が好きだから、ほっとけないから、ここに来たんだろ?」


「うっ……」


 声が詰まった。やっぱりそうだったんだな。


「だって……お兄ちゃんに申し訳なくて……わたし、知ってたんだよ? お兄ちゃんが私を悲しませないために、全力を尽くしてくれたこと、部活も作って、好きなゲームも買ってくれて……」


 途切れ途切れ、本音を話してくれた。


 手のかかる兄妹だ。


「そのお兄ちゃんが、あんなに悲しんで、大切にされてるのわかってるのに、死んじゃって……ごめんって……ごめんって言いたくて……! せめて、お兄ちゃんが精神安定するまで一緒にいたいって!」


「……大丈夫、お前がそんなこと言わなかったって、林田が一番大切にしているのは今も昔もお前だけだ」


「う……うわぁぁぁぁん」


 また、ぼろぼろと涙を零した。


 多分、逆だったとしても同じことが起きていたと思う。


 兄の方が先に死んでも、妹が立派になるまで見守っていただろう。


 これは、血が繋がっているからこその、絆なのだ。


「だから、見守ってやるんだろ? あのバカ兄貴を」


「はい……はいっ!」


 そして最後は、にこりと笑った。


 いい妹がいて何よりだ。オレに妹がいなかったら多分お嫁にもらってた。


「おー? 紗希ちゃんやっと笑ったね!」


「うん! ありがとうね加奈ちゃん! また今度遊ぼうね!」


「やった! 絶対だよ?」

 

 いやしかし、いい光景だ。写真に収めたいけど鼻血が……!







 ピンポーン






「おい!! 光牙ァァァァァ!!! いもうどがどごがいっじゃっだよぉぉー!!」


「ドアの奥から、高校生とは思えない鳴き声が聞こえてくるな……」


 こうしてあの男が、声を荒げて泣けるようになったのも、元気そうな妹がいたから、なんだと思うぜ?


「光牙ァァァァァ!! 俺はどうずればいいのぉぉ!!?」


「……ふふっ」


「そら、行ってこいよ。バカな兄貴が待ってるぞ」


「はいっ……まったく」










「世話の焼ける、お兄ちゃんだなぁ!」








次回。新キャラ登場!

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