第四話
「ねえねえ、小津くん。」「なんだよ。」「もうじきクラスマッチだね。」「…。御厨、そのくだり前にもやらなかったか?」「気のせいだよ。それよりも、今回はどんな話になるのかな?」「さあな、普通に過ごせればいい。」「またまたー」
◇ 22日
早朝で来るや否や委員長が俺たちに言った。
「今日も、準備が必要だ。みんな気を引き締めていこう。」
「「おう!!」」
そして、委員長は俺の肩をたたくと一言言った。
「君には期待しているよ。かつて弱小と呼ばれた高校を優勝まで導き、その強靭的な練習方法から『ゲームマスター』と書いて『ヒトをコマのように動かす人』と呼ばれた君をね。」
!?どうして…俺の昔の名をこいつが知っているんだ?
「委員長、少し話がある。」
「うん、僕も今回のことで話したいことがあったからね。それじゃ、行こうか。」
「ああ。」
俺はみんなのほうを向き言った。
「みんなは作業をしててくれ。話が終わり次第、俺も確認するから。」
「「アイアイサー」」
◇ 廊下
「どうして俺の昔のことを知っているんだ?」
俺は教室のドアを閉め、誰も見ていないことを心の中で祈りながら、委員長に詰め寄った。
「ある人に聞いたのさ。その人は君をとても恨んでいるからね。ま、君は覚えていないだろうけど。」
ある人?俺に恨みを持っている人?誰だ?ヒントがなさ過ぎてよくわからない。
「まさか、その人に戦術を話したりはしていないだろうな。」
「もちろん、してないよ。というよりも君が僕たちに戦術を伝えないじゃないか。」
「そうだけど…。これから話す恐れがあるだろう。」
「あはは、そんなことはしないよ。あくまで僕が求めるのは自分だけの勝利。その人には関係ないからね。」
委員長はそういうと教室のドアを開け、俺に言った。
「さっきも言ったけど君には期待している。僕の予想ではね。君がこのゲームのカギになると思っているからさ。」
「…。」
俺は何も言い返せなかった。というよりも言い返してしまったらそれだけで周りの人から疑いの目をかけられてしまうと思ったからだ。
「頑張ってくれよ。君にはたくさんの人間が期待しているからね。」
完全に弱みだ。俺はこいつに弱みを握られた。
「わかったよ。ただし、このクラスマッチの間だけだ。それ以上はあんたの言葉には期待しない。」
「ま、いいだろう。今回は僕も君の味方をしよう。だが、次に会うときは君の味方はしない。」
この野郎…。
俺はそう思いながらもあえて口に出さず、教室に入り、御厨に言った。
「御厨、例のものはできたのか?」
「うん、念のためもう二つおんなじのを作ってきたけど…。」
なんてやつだ。
俺はそう思い、御厨の肩をつかんだ。
「え、ちょっと小津くん。」
「っ…。お前というやつは…。」
「えっ、なんかヤバいことやっちゃった?」
「違う、その逆だ。お前はよくやった。」
よし、これで計画はほとんど完璧に等しい。あとは…。
俺はクラスに溶け込んでいる委員長のほうを見た。
こいつが何かしでかさないか。それだけだ。
俺はそう思うと、そばにいる御厨に耳打ちした。
「なぁ、御厨。委員長について何か知っていないか?」
「委員長かー、悪いけど特にこれといったうわさは聞かないね。」
「そうか…。」
「ねえねえ、小津くん。」
「なんだよ。今、俺はいろいろ考えているのに。」
「委員長についてなら私はよくわからないけど詳しい人に心当たりはあるよ。」
「本当か!すぐに教えてくれ。」
「でも前に委員長が言っていた。『その人とは一緒になりたいけど一緒になれない。』って。どういうことなんだろうね。」
そうか…。よし、これで委員長の原因のある程度はつかめた。あとは委員長を餌に誘い出し、その人とやらを釣る。それだけだ。
「わかった。とりあえず、今は委員長のことは後回しだ。できることをやろう。御厨、例のものは?」
「うん。持ってきたよ。ドライバーとネジ。でも、こんなの何に使うの?」
「まあ、これはある作戦のために使うんだ。みんなが帰った後に行うからなるべく注意をして持っててくれ。」
「わかったわ。」
さてと、それじゃ委員長の期待もあるしみんなも海外旅行に行きたいだろうし本気を出しますか。
◇ 23日、24日
その次の日は土曜日、さらにその次の日は日曜日と基本的には学校に来ることなく、自宅で休養をしている。だが、俺と御厨はあることをしにわざわざ学校まで出かけた。
「ホントにこんなことをして大丈夫なの?」
「ああ、前にも言ったが俺はルール違反はしていない。ルールギリギリに乗っ取っているだけだ。」
「でもさ、こんなこと普通思いつかないよ。」
「勝つためさ。それに委員長をダシにすればその人とやらが釣れるかもしれないからな。」
俺はそういうともくもくとあることをし続けた。
「ねえねえ、小津くん。」
「なんだよ。」
「どうして私を無理やりグループに入れたりしなかったの?」
「前にも言ったかもしれないが、俺はお前を一人にしていたのはお前に友達がいなかったからであってほかの理由はない。」
「ホントに?」
「ああ、でもしいて言えば、俺たちのクラスの旗を守る係をしてくれればいい。」
「わかった。」
俺たちは勝つために黙々と作業をし続けた。
◇ 25日
俺たちのクラスはその日の準備を何もやらず、遊び惚けていた。他クラスからは「なんだあいつらやる気あるのか?」ともひそひそされていたがそれでよかった。俺たちが一日こうして何もしていないとあいてが油断すると考えたからだ。それに当日までの体力温存という理由もある。
御厨は「遊ぶの?やったー」とか言ってダッシュで近くの山まで走っていった。ホントになんてやつだ。
俺はというと委員長と一緒に外でキャッチボールをしている。
「こんなことをして間に合うのかい?」
委員長がボールを投げながら俺に聞いてくる。俺はボールを取ると委員長に言いながら投げ返した。
「ああ。十分だ。それにたまにこんな日も必要だろうと思うからさ。」
委員長はボールを受け止めると俺に投げ返した。
「確かに、今までの状態だったらピリピリしていたかもしれないし、状態の悪い人もいたかもしれないからね。君にしてはいい考えだと思うね。」
「そういってもらえて光栄だね。何事も体力温存が必要なのはお前も知っているだろう。」
俺たちはお互いのことを言いながらもキャッチボールを続けた。
委員長が俺のボールを受け止めたところで俺に言った。
「しかし、小津くん。よく肩を壊しながらも投げられることができるね。」
まただ。委員長は俺のことをよく知っている。ここはヘンに驚いてしまえばある意味で警戒心を持ってしまう。普通に対処しよう。
委員長が俺にボールを返したときに俺は言った。
「そうだな。100%肩が痛まないってことはないんだけどな。それでも投げられないというより日々よりはましになってきたよ。」
俺は小さいころに野球クラブに入っていたことがあった。その時はまだ父親も転勤がなかった。俺はそこでピッチャーをしていた。持ち前の能力こそなかったが人一倍努力していた。そして、俺が肩を壊すまでの成績はノーヒットノーランを公式戦で三回、完全試合を一回、と好成績を収めていた。
しかし、先ほども言ったように俺は肩を壊した。その理由は単純に投げすぎであった。努力してきたツケが回ってきたのかある日を堺に俺は一向に投げることができなかった。せっかく、中学での推薦も決まっていたのにこんな状態なら野球をすることができないと感じ、断りの連絡を入れた。そして、そのころから父親の転勤が始まった。とまぁ、こんな感じだが、今では特に支障はない。ただ、全力は投げられないのが悔しいくらいだ。
「それで、勝てそうかい?君の指揮で。」
委員長が俺に聞く。俺はニッと笑うといった。
「ああ!任せとけって。お前の期待には応えないといけないからな。」
俺はそういうとボールを委員長に投げ返した。
「ねえねえ、小津くん。」「なんだよ。というかお前帰ってきたのかよ。」「うん。」「相変わらず、すごいやつ。」「それよりも遊んでて勝てるの?」「安心しろ。お前の前には俺がいる。お前は自分の仕事をすればいいのさ。」「わかったよー。」
いよいよ、クラスマッチが始まります。五話もよろしくお願いします。誤字や評価、感想などお待ちしております。