第三話
「ねえねえ、小津くん。」「なんだよ。」「クラスマッチ楽しみだね。」「まぁ、そうだな。」「勝てるかな?」「お前次第だ。」
◇ 21日
朝、委員長が俺たちの前で言った。
「さて、ここからは時間がない。先生たちも張り切っているから学校の時間をすべてクラスマッチに当てることになった。理由としてはどのクラスも優勝を目指しているんだとよ。」
俺はふと思い出し、委員長に疑問をぶつけた。
「そういえば、聞いていなかったが優勝したら何かもらえるのか?」
その問いに答えたのは委員長ではなく御厨だった。
「うちのパパが『優勝したクラスには一週間の海外旅行をプレゼントする。もちろん、そのクラスの教師もな。』って校長と話していたらしいわ。そのせいで今、大変なことになっているのよ。」
「大変なこと?」
「パパが校長と賭けて『自分が予想したクラスが優勝した場合は自分もつれていく』ということになってしまったのよ。」
「つまり、俺たちはお前の父ちゃんと校長の賭け事に巻き込まれただけってこと?」
「そういうこと。」
なんだろう。やる気が一気になくなってきた。
「でもさ、勝てば海外旅行だろ?なら、悪い話じゃねぇだろ?」
クラスの一人が俺たちに話しかけた。
「そうだけど…。そういえば、旅行はどこに行くんだ?」
「どこでもいいって。」
いよぉし、一気にやる気が出てきた。
「わかった。お前の父ちゃんのためにも勝とう。そしてみんなで海外旅行だ。」
「そうだね。それで、戦術については?」
御厨が聞く、しょうがない。答えてやるか。
「未定。」
その時、クラス全員の空気が一気に冷めた。
おおっ、寒いぜ。
「というのは嘘だ。きちんと考えてあるよ。だけど、こんなに早く戦術が決まり別のクラスの子とかに話しかねない奴らもいるからあえて前日の夜に話す。楽しみだと思ってくれよ。」
俺はそういうと教壇の前に立ち、クラスのみんなに呼び掛けた。
「俺たちが目指しているのは優勝。それだけだな?」
「「おお!」」
「そのためには必要なことはやるよな?」
「「おお!」」
「よし、なら今から数人のグループを作ってくれ。なるべく、いつも話しているグループであるとありがたい。できたら指示するからそれじゃ各自、作ってくれ。」
「「おお!!」」
クラスの中で何個かグループができている中、一人だけ浮いている人物がいた。それは御厨だった。
ま、そうなるよな…。
「ねえねえ、小津くん。」
「なんだ?」
「私、一人なんだけど。」
「ああ…。分かっている。お前にはお前にしかできない仕事を最初からふるつもりだった。それにお前が友達が少ないことくらい最初でわかったさ。」
「え?ホント?」
「ああ…。あんなのはすぐにわかるものだ。」
俺がグループを作れと言った理由の一つは動きやすくなるから。そしてもう一つは御厨を孤立させることだ。御厨に友達がいないことはすぐに分かった。俺がこのクラスへ入ってきたときに御厨はあとから入ってきた。その時点でクラスのみんなの目が場違いの人間を見るような目だったからだ。その時にああ、こいつはきっと友人なんていらないんだろうなとおもった。実際その通りだったけどな。そして、俺の考えが確信に変わったのは授業が始まってからだ。御厨は教科書を持ってきていなかった。最初、俺は教科書がなくても授業が受けられると思っていたが、前の人がボソリと言ったんだ。『御厨ちゃん。いい子なんだけどどうしても人に心を開こうとしないのよ。』って。教頭のお願いも大体そのくらいだろう。御厨を見ててくれ、あれは御厨が悪さをしないように見張っているのではなく、御厨の友人として生活をしてくれないかという先生からのお願いというわけだ。ということで御厨に友人がいないことくらいすぐに分かったってことさ。Q.E.D. 証明終了。
「今、お前に必要なのは体力だ。大事な戦力が欠けちまえば意味がないからな。」
「うん!なんか元気が出てきたよ。」
扱いやすい…。俺にとってはありがたいことだけどな。
「さて、みんなできたかな?」
「ああ!こっちはOKだ。」
「こっちも!」
「大丈夫。」
「いいよ~。」
グループの集計をしてみると男子が2組。女子が2組。そして御厨という感じになった。
悪くないな。大体四分の一ずつに割れてくれた。
「女子のどっちかのチーム。いや、美術経験のある人が多いほうはこの時間を使ってできるだけ細かく学校の見取り図を作ってくれ。もう一チームは旗が隠せそうなポイントを細かく表してくれ。できるか?」
「大丈夫。」
「任せといて。きちんと仕事はこなすから。」
よし、これで何とかポイントつぶしはできそうだ。
「それじゃ、行ってくるね。」
「ああ。」
女子たちはそのまま教室から出ていき、校内を回り始めた。
俺は男子のほうへ行き、2つのグループの大将を集めて言った。
「お前たちのうち一つは攻撃、もう一つは防御だ。攻撃はこれからできる女子たちのポイントをなるべく暗記し、攻めれるように準備する。防御は旗を守る仕事だ。なるべくガタイのいいやつをしたにして、ピラミッドのようにしていくんだ。できるか?」
「わかった。じゃあ、俺たちが攻撃をやる。」
「こっちはガタイのいいやつが多いからな。防御は任せてもらおうか。」
「ありがとう。」
俺は一通り、役割を紹介したあと教壇に戻った。
その時、俺に話しかけたのは御厨だった。
「ねえねえ、小津くん。私はこれから何をやればいいの?」
「あ、ああ。お前はな…。」
俺はちょいちょいと御厨を近づけさせ、作戦を言った。
「え?それ、本気でやるの?」
「ああ、一応。このルールブックにはそれをしてはいけないというルールはないからな。」
「でもさ、なんかせこくない?」
「勝てばいいんだよ。それにこんなことなんて誰も思いつかないからさ。頼むよ。」
「わかったよ。作ればいいんでしょ。作れば。」
「ああ。」
さて、これで、俺の作戦はすべて伝えた。あとは…。
「俺の準備ってことか。」
俺はそういうと一人、教室を後にした。
「ねえねえ、小津くん。」「なんだよ。」「これから面白くなるの?」「作者次第だろ。」「そっか。」「それよりも、お前はやることをやれ。勝てるかどうかはお前次第なんだから。」「頑張るよ。」
第四話もよろしくお願いします。また、誤字や評価、感想などお待ちしております。