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ドッペルゲンガーに出会ったら死ぬと言われている

金の扉の先は以外と広い空間だった。


床は正方形状に切られた岩が隙間無く敷き詰められている。


壁と天井は、恐らく銅板で出来ているのだろう。だが長年放置されていたせいか、緑青色に錆びていた。


部屋の右端には赤い布が掛けられた大きな物体が置かれていた。


部屋の中央には赤い椅子とテーブルが1脚づつ置かれている。


テーブルの上にはまるで占いに使う様な水晶玉が、それ用の台の上に置かれていた。


テーブルの傍には男が1人立っている。


黒地に銀色のすすきの刺繍が光る二重回しの外套を着ている。瞳はミーテと同じピンク色だ。


そして、椅子に座っているもう一方の男は黒字に金色のススキの刺繍がほどこされた外套を着た、、、。


俺はその人物の顔を見た途端に酷い吐き気と目眩に襲われた。


ドッペルゲンガーに出会ったら死ぬと言われている。


そんな都市伝説を嘗ての俺はTVで見たことがある。


そういえば、現世にいた時、昔、詐欺仲間の先輩に言われたな。


「お前ってイケメンって訳でもないけどよぉ、どっちか言うと、女顔に近いよな。占いで稼げなかったらオカマバーで働けよ。ワンチャンあるかもな、ハハハハ。」


「いやいやいや、そりゃいくらなんでも、ハハハハハハハハハハ。」


無い。

絶対無いな。


笑えない先輩の冗談に対して、乾いた笑いを向けるしかなかった。



何故そんな走馬灯が急に甦ったのか。


現実逃避していた意識を、無理矢理目の前に向けた。向けたくないけど向けた。


ゆったりと椅子に座っている人物。


その顔が犬に生まれ変わる前の、現世の俺の顔と造りがそっくりだ!!


違うのは滅茶苦茶どぎついメイクとファッションをしているってところだな!!


赤いアイシャドウに紫色のイヤリング。首に黒いフリルのついた赤いチョーカーを着けている。


銀の扇を持つ左手の爪は赤と黒のマーブル模様のマニキュアが塗られていた。


お、俺の顔にこいつなんて事をしやがる。


「ワンゥェッ。」


吐きそうになっている俺に対して、どぎつい男は眉を潜めた。


「人の顔見て吐きそうになってんじゃないわよ! 犬っころ! 」


いやいや、誰だってさ、自分の顔がオカマになってオネェ口調で登場って、結構悪夢だぜ?


もとからそうなら別に構いやしないだろうが。


「失礼な犬っころね。さっきから何の話!? これはあたしの顔よ! 」


へー、てか、あんた誰?


「あたしは魔王よ!!!! 服装と展開でわかるでしょ! 察しなさいよ!! 」


いやいや、魔王って、まっさか~。


ふと疑問が頭を過った。


さっきから、俺、一言も喋ってないよな?


何で会話が通じているんだ?


てか、ま、魔王?


「ワン? 」(マジで? )


魔王と名乗った男?はダンッと勢いよく椅子から立ち上がった。


「そうよ! あたしは魔王よ!! 序でに教えてあげるけど、あんたの頭の中で考えている事は、あたしには分かるようになってんのよ。」


うわぁ~、分かるようになってんのか。ますます嫌だな。気持ち悪い~。


「本当に、失礼な犬っ。」


「何でお前がここに!? 」


突如ミーテの慟哭が響いた。


さっきまで驚いて声も出せないのかと思っていたが、ミーテの顔には憎しみの表情が露になっていた。


そりゃそうだ。魔王のせいでミーテは今まで大変な目にあってきたんだ。


その魔王がこんなふざけた野郎だったらそりゃ怒るわな。


「お前は私が殺した筈じゃ?」


へ?

ミーテ、何を言っているんだ?


魔王は確かに嘗て、ミーテの父親と兵士等が倒したけど、別にミーテは魔王を倒したことなんか無いよな?


気が動転してるのかな。

きっとそうだ。


魔王は水晶玉を見つめ、フッと笑った。


「あんた達が心で話している会話が何の事か、今、漸く分かったわ。」


魔王は銀の扇で俺を指し示した。


「その犬っころはあたしの顔が嘗ての自分の顔って主張している。」


魔王は次にミーテを指し示した。


「あんたの心は、あたしの顔は嘗て自分を騙し、破滅へと追い込んだ詐欺師とそっくりだって主張している。つまり。」


魔王は扇を広げて、ニヤリと笑った。


「そこの犬っころは嘗てあんたを騙した詐欺師その者ってことよ。」


足下が暗くなるのを感じた。


背筋がすうっと寒くなる。


えっと、つまり。ミーテは俺が嘗て騙した女で、ミーテが殺したって言ってたのは嘗ての占い詐欺師の俺で。


ミーテが俺を見る。


「な、何を言っているの? そんな分けないじゃない。ねぇ、トマト。」


あの、その、それは。


ここで元気よくワンと答えないといけないのに、何故か俺は出来なかった。


だって、本当の事だから。


「トマト? 」


どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。


「トマト、、、まさか、本当なの? 」


前足が震えてきた。


「ねぇ、何で黙っているの? トマトはこの前私と入れ替わった時、私の言葉を理解できるって証明してたよね? 」


そうだな。ミーテの言葉は分かるよ。理解しているよ。

分かるけど。


俯いた俺にミーテの声が掛かる。


「ねえ、トマト。どうして目を合わせようとしないの? それじゃあ、こいつの言ってることが本当だって言ってる様なものよ? お願いだから首を振るとか、、、。まさか、、、。」


後ろ足も震えてきた。


「本当に、トマトは、、、じゃあ、今まで私はずっとあの、憎い詐欺師と一緒だったってこと? 」


心臓が軋むような気がした。


それは、そういうことになる。


「ねぇ、トマト。何で教えてくれなかったの? 言えないわよね。私が不幸になることが楽しかった? 」


それは、違う、けど。


「いつも私に買わせてたよね。とても高い占いグッズ。簡単に買ってしまう私を見て、さぞ、、、さぞ愉快だったでしょうね!! 」


ガクガクと体が震える。


「トマト、あなたなんか、あなたなんか嫌いよ!!! 大っ嫌い!!!! 」


う、うわぁぁぁぁぁぁ!


俺は弾かれたように走って、金の扉に激突した。


痛ってぇぇぇ。


重くて小型犬位の力じゃじゃ開かないのか。


「ちょっと~。さっきから二人で盛り上がってんじゃないわよ。」


魔王は赤いエナメルのブーツをコツコツと鳴らしてテーブルの後ろに向かう。


そして、何かに掛かっている赤い布切れを剥ぎ取った。


そこには、巨大な金の鳥籠に入っているミーテの父親ルドマンが鎖で繋がれたまま座っていた。


スチュワートの写真で見た時よりも更に窶れている。


「お、お父さん!? 」


ミーテの悲鳴で、ルドマンは此方に気付いて目を丸くした。


ルドマンが口を開いた。


「逃げなさい!! 」


ルドマンの言葉に

ガンッ!

魔王が急かさず鳥籠の牢を蹴った。


「お黙り!! あんたの娘はどうせ逃げられやしないわ。さて。」


魔王は此方に向き直った。


「取引、いや命令よ。父親を放して欲しいなら、そこの円の上に立ちなさい。」


魔王の指し示す場所には銀色に光るフラフープの様な輪っかが置かれていた。


ミーテ、どうしよう。止めなきゃいかんが、その前にミーテの父親を救わねばならない。


「立つ前に1つ訊きたいのだけど。」


ミーテが魔王を睨んだ。


「へぇ~、何かしらぁ? 」


「私の莫大な魔力をどう使うつもり? 」


魔王の目がスッと細められた。


「過去に、戻すのよ。」


「過去に? 」


「未だヒガリがあった頃に戻す。」


「時を戻すなんて出来るの? 」


「それが、、、出来るのよねぇ。」


ドゴォォォォォン!!!!


突如金の扉が蹴破られた。


スチュワートがハッと扉の方を振り向く。


「ミーテ!! 無事か!? 」


「ミーテ! お怪我は?」


二人の青年と、赤いローブを着た人達、更にはエマリカの兵士達がわらわらと雪崩れ込んできた。


「ちょっと!! あんた達! 何でここが分かったのよ!! 」


魔王の苛立たしげな声に対して、ローブを着た人達は一斉に薬指を向け、唱えた。


「スバトオノホ!!」


炎のビームを一斉に噴射する。


魔法兵ってやつだろうか?


ローブを着た人達は全員貴族だろう。


スチュワートは魔王の方へと駆け寄った。


すると、炎が当たる寸前で、魔王、スチュワートと、もう1人の男の足下が稲妻のように光り、3人は跡形もなくその場から消えた。


代わりにゴトッと3つの岩が現れた。


1つ1つが人間1人分位の重さが有りそうな大岩だ。


「転送魔法か。 」


エドワード王子が呟いた。


どうやら魔王は逃げたようだ。


2人の青年。1人はエドワード王子。そして、もう一人は。


「じょ、ジョナサン!? 」


ミーテは目を丸くした。


そう、ジョナサンだった。


格好はボロいマントに革靴と、正に流離いの旅人の様な格好であったが、茶色に近い蜜柑色の髪と瞳、比較的整った顔立ち。あと匂い。


間違いなくスチュワートと馬車でここまで来るときに嗅いだ匂いだ。気のせいじゃなかったんだな。


エドワード王子の方は馬車から下りた辺りで来ていることに気づいていた。


エドワード王子とジョナサンが同時にミーテに駆け寄る。


よかった、よかった。


じゃなくて。


俺は脱兎のごとく駆け出した。


扉は蹴破られているから、とっとと通れる。


『大嫌い』


ミーテの言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。


走った。必死に逃げた。


最早何から逃げているのかわからない。


城を出て、ススキの野原を宛もなく突っ走った。


取り合えず俺は、逃げたかった。今までずっと、目を逸らし続けていた真実から。


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