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スチュワートに連れていかれたそこは、嘗てのヒガリ王国だった

俺達は今裁判を受けている。

牢屋から出た俺とミーテは長い階段を上らされ建物の2階部分に連れていかされた。

そこには日本の裁判所とそう変りない造りの法廷があった。

違いをあげるとするなら壁も床も黒いってところと、裁判長の左右にマーリン学長と、王冠を被った人が座っているってところだな。

王冠、つまり、エマリカ王であり、エドワード王子の父親だろう。燃えるような赤い髪をした精悍な男だ。

「よって、彼女、ミーテ・ヘッセンはイスス共和国出身であり、魔王の血族であり、また、無断で転送魔法を使用した重罪人です。証言を終わります。」

スチュワートの長い長い証言が終わった。

法廷の置き時計を見ると夜の10時を回っていた。

「それでは、続きは明日行う。」

裁判長は厳格そうな白髪の老人だった。

マーリン学長が優しげなおじーさーんだとすると、こっちは頑固じじいといったところか。

というか、俺達の弁護、一切無かったんだが。弁護士もいないし。

え? やばくね?

それとも明日俺達を弁護する人が来るとか?

兎に角、俺とミーテは再び地下牢に入れられた。

チッチッチッチッ。

ミーテの腕に着けている時計の針の音が聞こえる。

ジョナサンが作ってくれた腕時計だ。

この静かな暗い牢屋の中で、そこだけ暖かな音を刻んでいる。

「ねぇ、トマト。」

ミーテはベッドの上で三角座りをした。

「ワン? 」(どうした? )

「私達、このまま死ぬのかな? 」

それは、、、死刑ってことだよな?

う~ん、あり得なくもない。

だがここであり得ると言うのは正直ミーテにとっても、俺にとっても辛い。言いたくない。

「ワン。」(大丈夫だ。)

俺はベッドに跳び乗り、ミーテの桜色の目を見つめた。

あ、目が潤んで泣きそうになっている。

どうしよう。何か、何かないのか?

思わずキョロキョロと周りを見ていると、ミーテがクスリと笑った。

「そんなに右往左往しなくても良いよ、トマト。」

そう言って、優しく俺の頭を撫でた。

コツ、コツ、コツ。

固い靴音と、何故かスチュワートの臭いが近づいてきた。

「ミーテ・ヘッセン。」

いきなり声が聞こえた。

牢の格子を見ると、誰もいない。いや、臭いは確かにそこにある。

パッとスチュワートの姿が現れた。

「わ!? 」

ミーテは慌てて牢の奥に下がる。

スチュワートが、兵士の格好をして立っていた。左手に紫色の石を持ち、右手に写真を持っている。

スチュワートは写真をミーテに見えるように向けた。

「お、お父さん!?」

ミーテは写真に飛び付いた。写真に写っていたのはミーテの父親、ルドマン・ヘッセンの囚われた姿だった。

鳥籠の様な檻に入れられ、鎖で繋がれている。

「静かに俺に付いてこい。君の父親に会わせてやる。」

スチュワートは牢の鍵を開けた。

なんでスチュワートが兵士の格好で、しかも牢屋の鍵もってんの!?

ミーテはスチュワートに続く。俺も慌ててそれに続いた。

「動かないでくれ。」

スチュワートがミーテの手首をそっと掴んだ。

何しとんじゃてめぇ!

思わず吠えそうになったが、スチュワートが左手の紫色の石を見つめている。

パッとスチュワートとミーテの姿が消えた。

え、ちょっ?

ミーテ?

すると、むんずっと俺の腰が持ち上がった。

「トマト、大丈夫。私はここよ。」

ミーテの声がした。俺を持ち上げているのはミーテか。

どうやらミーテとスチュワートは透明化の魔法を使っているようだ。多分スチュワートの持っている石は魔道具なんだろう。

そんじゃ、俺も透明化するか。

視界右端の透明化の文字を見つめる。

カチッ

110、109、108

今回は110から透明化のカウントダウンが始まった。


俺達は透明になり、牢を出て、更に建物を出る。

外は夜で、真っ暗だった。

そして、物凄く寒い。昼間は未だましだったが、こんな夜中であればそりゃ寒いわな。

ミーテはスチュワートに手をひかれ、俺はミーテに抱えられて連れていかれる。

裁判所周りの高い壁をあっさり魔法で飛んで越えた後に、1台のボロい馬車に乗らされた。

乗らされた時、スチュワートは透明化の魔法を解いた。

ミーテとスチュワートの姿が現れる。

ミーテは未だ透明化の魔法が解けない俺を抱えて、馬車の座席に座った。

ギシッと古びたスプリングの軋む音がした。

スチュワートは向かいの座席に座った。

馬車が静かに動き出す。

「なぁ、何故その魔動物は透明化を解かない? 」

「トマトの魔法は暫くしないと消えないらしいの。」

「へぇ~。」

馬車の窓のカーテンはしっかりと閉められている。

正直、馬車の中は相手の顔が殆ど見えない程暗かった。

「スチュワート、よね。」

ミーテはスチュワートへの様付けを止めた。

「ああ、俺はスチュワートだ。」

「あなた、魔王の手下? 」

「そういうことになるかな。」

やっぱそうなのか。

「魔王は、エマリカやシロリアに復讐することが目的なの? だから私や私のお母さんを利用したがるの? 」

「復讐、ってよりも復活って感じかな。正直シロリアの事は憎いが、滅べって思うが。それよりも自分達の国を取り戻したいって思いの方が、今は強いかな。」

「自分達の国? 」

「俺はシロリア王国出身だが、元は敗戦国ダラハットの住民だ。」

「そうなんだ。」

「君だってある意味ヒガリ王国の民だったとも言えるだろう。母親は魔王の妹だし。図書室で調べていただろうから知っていると思うが、魔王は元ヒガリ王国の王族だ。君だってある意味ヒガリ王国の王族だろう。

ヒガリ王国を復活させたいとは思わないのか? 」

「私は、生まれたときからイスス共和国で育ったから、そういう思いはあまり強くないわ。」

「君の母親はヒガリについて何か言わなかったのか? 」

「お母さんは小さい頃に亡くなったから。それに、別に不自由な暮らしじゃなかった。自然に囲まれてて、楽しい暮らしだったわ。」

「成る程ね。俺は長らく奴隷として働かされていたから、正直普通に、ここにいても良いって言って貰える国に立ちたいっていう思いがある。」

その時、俺の透明化が切れた。パッとミーテに抱えられている俺の姿が現れる。

「透明化が解けるのに結構待ったな。110秒くらいか? 」

「そうね。」

ミーテは俺をそっと自分の横に置いた。

ずっと持っていたから疲れたのだろう。

大人しく俺はミーテの横でお座りをする。

「スチュワートは、もし、不遇な境遇じゃなくて、普通に生活できていたら、シロリアを恨んだ? 」

「恨まなかっただろうな。その場合、恨む必要がない。」

「例えば、スチュワートのお父さんが奴隷だったけど、自分の代からは奴隷ではなく普通の人として扱われたとしたら? 」

「どうだろう。多分、俺は恨む事を何処かで止めるだろうな。恨む気持ちを持ち続けるのは、結構辛い。」

「今は、辛いってこと? 」

「魔王の計画のお陰で心は少し軽くなった。今はましだな。」

そこから、お互い暫く沈黙した。

ふと、懐かしい匂いがうっすらとした気がした。

だが直ぐに遠退いていく。

あれ? この匂いは、、、何処かで。

は!? まさか、いやでもそんな馬鹿な。

俺は馬車のカーテンに噛みついた。

「おい! 」

スチュワートの静止を振り切り素早くカーテンを引っ張る。

だが、見えた窓からは、ただただ暗い夜のエマリカの町しか見えなかった。

気のせいだったか。

スチュワートが慌ててカーテンを閉める。俺は素早くミーテの傍に戻った。

馬車は静かに何処かへと向かう。





ガタンッ!!

馬車は大きく揺れて止まった。

スチュワートは馬車の扉を開ける。いつの間にかスチュワートの手にはキャンドルランプが握られていた。恐らく予め馬車に置いていたのだろう。

スチュワートはマッチでランプの芯に火を付け、それを持って馬車から下りた。

「付いてこい。」

そう言われて俺とミーテも馬車から出た。

外はやっぱり、暗い。

そして、長く座っていたせいか、お尻が痛い。

スチュワートの持つランプの灯りを頼りに進む。

そこかしこでリーンリーンと、多分鈴虫の鳴き声が聞こえてきた。

スチュワートが草を踏みながら進む。

なんか、ふさふさした背の高い草が大量に生えているんだが。あ、これススキか。

「エマリカ王国の結界は簡単に範囲を変えられないんだ。だから、新しくエマリカ領になった土地にはエマリカの結界は無い。」

ランプの灯りの側からスチュワートの声がする。

「ヒガリ王国の土地はエマリカとシロリアで半々に分けられている。ヒガリの住民は一人残らずこの国にはいない。殆どシロリアに連れていかれている。ただし、魔王含む数人はエマリカに行かされた。そして彼らは今、別の場所にいる。」

「スチュワート、もしかしてここら辺って。」

「元ヒガリ王国だ。」

え!? まじか! 俺は辺りを見回した。

でも、背の高いススキしかないなぁ。

「どうして、兵士がいないの? 一応今はエマリカ王国でしょう?」

「兵士は今のシロリアとエマリカの境界線にしかいない。宝石を取り尽くしたこの土地に、最早守る価値は残っていないんだ。」

「ねぇ、スチュワート。今何処に向かっているの? 」

「元ヒガリ王国の王宮、鹿蓬城さ。今じゃボロボロだが。そこに君の父親がいる。」

うわー。嫌な展開だな。

だが安心しろ。ミーテ。

俺は心の中で、とある確証があった。俺のこの鍛え抜かれた嗅覚が告げている。多分助けが来ている。

俺はスチュワートに悟られないように後ろを一切振り返らなかった。

やがて前方に大きな影が見え始めた。

目の前まで来ると、それは巨大な円筒状の城だった。

いや、下の方が円筒状でその上に四角い箱がのっている様な構造だった。

嘗ては栄華を誇ったであろう城。だが今はすっかりススキ生え放題の状態だ。あちこち壁が壊れている。

「ここだ。入るぞ。」

木の割れた扉の隙間にスチュワートは入っていった。

俺達も体を捻らせて入る。

中は中央に階段があった。

左右に別れている。

下の円筒状の建物の中に入って俺は始めて気づいた。

これ、木造だ。しかもこの壁は板を並べたんじゃなくて、大きな1枚の湾曲した板を使っている。その為木目が繋がっている。

スチュワートは階段を登らず、階段の段差の下に向かった。

そしてパカッと開く。

まさかそんなところに扉があったとは!?

俺は慌ててミーテのマゼンダ色のスカートをかじった。

「へ!? トマト? 」

ビリッ

ちょっとちぎる。

唖然としているミーテを他所に俺は階段下の扉の側に布切れを置いて、その上に石ころを重石がわりに置いた。

ミーテは首をかしげたが、扉の中からのスチュワートの急かす声に、慌てて階段下の扉の中へと入る。

俺も走って中に入った。

後ろでバタンと扉が閉じた。

下る階段が螺旋状に地下へと続いている。

スチュワートの持つランプの灯りを頼りに俺達は慎重に下っていった。

暫く下ると、金色の扉が見えてきた。

とても豪華な扉だ。スチュワートの持つ僅かなランプの灯りでさえ、扉の金に反射してここら辺だけすごく明るい。扉には盛り上がったススキの草の模様が浮き上がっていた。

「ここに君の父親がいる。」

スチュワートは扉を両手で開けた。

ギィィィィィ!!

扉は大きく軋みながら開いた。


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