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ミーテは裁判所に連行される

中庭の隅っこでブルブルと震えているミーテ(トイプードル)。

やっと見つけた。ミーテはひどく怯えていた。

「み、ミーテ?」

なるべく優しい声で話しかけてみる。

「ワン?」(あ、あなたは誰?どうして私になっているの?)

「あー、えっとー。俺、トマトなんだ。」

俺は冷たい地面に、ゆっくりと正座した。

そして、ミーテの前で手をついて頭を下げる。いわゆる土下座である。

「ワン?」(トマト?あなたトマトなの?)

「そうです!トマトです! そして、ごめんなさい!!」

俺は頭を下げ続けた。

しーん。

暫しの沈黙が続いた。

ミーテの方からうんともすんとも聞こえなかったので恐る恐る顔を上げてみると、ポカーンと間抜けに口を開いたトイプードルの顔がそこにあった。

いきなりトマトだと言って混乱させてしまった様だ。

慌てて説明を付け加えた。

「あ、あのさ。その。いきなり魔法使って申し訳ありませんでした! 驚かしてしまって、怖がらせてしまってごめんなさい‼

俺はトイプードルのトマトです。その、魔法が使えるようになったのはこのエマリカ学園に飛ばされた後からで、透明化ってのはもうミーテの前で見せたよな。

こっちの入れ替わる魔法はラッキードックって言うらしいんだけど、俺は何度か使ったことがあって。でもミーテの前では今日始めて使ったんだ。」

あわあわで説明すると、ミーテはしばしばっと瞬きを繰り返した。

トイプードルになってもミーテは可愛いな~。いや、そもそもトイプードルという生き物事態が可愛いのか?

「ワン。」(えっとー、うん。分かった。)

分かって頂けたようだ。

「ワン。」(要は入れ替わったって事かな? )

「はい。」

「ワン?」(元には戻る? )

「はい。あ、視界の右端の数字見える? 」

「ワン。ワン。」(見える。トマトの視界ってこうなっているのね。えっと、今は50425、50424ってどんどん減っているけど。)

「俺の魔法は視界の文字を見つめ続ける事で発動するんだ。普段は視界の隅に蓄魔の残りのパーセンテージと1ラッキードック、2透明化ってかかれているんだけど、発動すると視界には発動の残り時間だけが現れる様になっているんだ。あと、5万ちょいなら14時間くらいかな。」

「ワン」(へえー。)

「そ、それでさ。」

俺は入れ替わった後の教室での出来事や、マーリン学長等との会話の内容をミーテに説明した。

ミーテはガックリと項垂れた。

「ごごごごごめん! 俺が入れ替わったりなんかしなければこんなことには。」

ミーテはゆっくりと首を横にふった。

「ワン。」(トマトのせいじゃないよ。それに、トマトが入れ替わらなかったら私、イスカにまた騙されていたかもしれない。でも、イスカがまさか、あんな事を思っていたなんて、私気づけなかったなぁ。それに、スチュワート様が私の秘密を知っていたなんて。)

「スチュワートに関しては、実は今までにも奇妙な行動が多かったんだ。」

スチュワートがイスカにミーテの情報をリークしたこと、ミーテが会った賊の正体がスチュワートだったことを話すとミーテは目を見開いた。

「ワン!? ワン。」(そんなに前から!? そういえば、スチュワート様と図書室で会ったときなんか、私に探りを入れてきた気がしたけど、気のせいじゃなかったのね。)

「どうしよう。そうだ。いっそ国外に逃げる? 」

「ワン。」(それは無理。このエマリカ王国の結界から出たら即魔王に捕まっちゃうよ! )

そういえば、そうだった。

「ワン。」(取り合えず、大人しく様子を見よう? それと、今日はもう寮に戻りましょう。)

「それもそうだな。」

俺とミーテは歩き出した。



その日俺とミーテは女子寮でひたすら語り合った。

お互いある意味、始めて意思疏通が出来る状況だったからだ。

「ワン!?」(じゃあ、トマトはルイス様に、お母さん犬ごと川に捨てられたの!?)

「そうそう。これが本当の三途の川って思ったな~。また死ぬかと思った。」

「ワン。」(また? )

「あ、間違えた。初の死ぬってやつになるかと思った。」

ただし、俺はまだ自分が転生者だという部分だけは話さなかった。話せずにいた。もと占い師兼詐欺師だとバレたくなかったからかもしれない。

「しかし、ミーテの俺への最初の一言が生臭いって。」

「ワン。」(あ、あれは! 生臭かったから安心したって意味よ! )

「いや、何でだよ。ハハハ。」

「ワン。」(で、それからは? )

「マキマキ先輩に色々習って。そういえば、ミーテ。実はマキマキ先輩って会話に英語が混じるんだよ。」

「ワン。」(え? 犬の言葉にそもそも日本語や英語があるの? )

「あるみたいだよ。それにしても、ミーテの名付けセンスってあんまし良くないよね。」

「ワン! 」(そんなこと無いよ! )

「いやいやいや、ちょっと適当すぎるでしょう。」

「ワン。」(そういえば、お父さんもジョナサンも、マキマキやトンキーにルンルンにピクルスに。皆生きてるかな。)

「生きてるよ!! 」

俺はなるべく力を込めて言った。

正直根拠は全く無かったが、だからこそなるべく会話を明るい方向に持って行きたかった。

「ミーテがこのエマリカ王国に来た時から俺も大変だったよ。特にミーテの夢遊病は怖かったなぁ~。」

「ワン?」(そういえば、私っていつから夢遊病だったの? )

「ヘッセン伯爵家に養子になって暫くしたらだったな。一回エリザベスの部屋のドアノブをがちゃがちゃしてたのはやばかったなぁ~。そういえば、俺がラッキードック始めて使ったのはその時だったっけ。」

「ワン!?」(え!? 私そんなことしてたの!?)


そんなたわいもない会話をして、俺達は眠りについた。




「ミーテ・ヘッセン。あなたを裁判所まで連行します。」

次の日、朝日が昇る一歩手前。

女子寮の前には幾人もの兵士達が集まり、ミーテの身柄を引き渡すように言った。

スチュワートの言ってた手続きって、裁判所に連れていく手続きって事か。

俺とミーテは既に入れ替わりは元に戻っている。

ミーテは軽く身支度を整え、必要最低限の荷物を持って馬車に乗った。

俺はミーテの足首にしがみつき、そのままミーテは歩いたため、ちょうど兵士達の視線を掻い潜ることが出来きた。そのままミーテと共に馬車へと乗り込む。

俺達は裁判所に連れていかれた。

てか、エマリカ王国の裁判所ってどんなところなんだろう?

俺が思っている普通のとは多分違うんだろうな。

ミーテはこれからどうなるんだろう。




ガラガラガラと小3~4時間ほど馬車に揺られた。

ミーテの足下からでも分かる。辺りが明るくなってきた様だ。

馬車は急にガタンッと止まった。

おっと!

俺はミーテの足首から外れてしまった。

兵士はミーテの足下から突然出てきた俺に少し驚いたようだが、「ここまで来たのならどうぞ連れていってください。」と言ってくれた。

んじゃ、お言葉に甘えて。

「それでは、下りてください。」

兵士に促されるままに馬車を下りる。

馬車を下りると、そこにはとんでもなく大きな黒い壁が左右に何処までものびていた。

中央には門とおぼしき重厚な青銅の扉がある。

壁の上には幾つかの見張り台が建てられており、兵士の一人が壁の上に向かって何か紙を掲げる。

ギィィィィィィィ!!!!

悲鳴の様な音をたてて門がゆっくりと開いた。

「中へ向かってください。」

兵士は静かに言い渡した。

黒い壁の中には幾つもの黒い建物がズラ~っと並んでいた。何処も扉は青銅で、壁は固そうな石でできている。

兵士の後ろについていくと、やがてある1つの、一際大きな建物に案内された。

「それでは、裁判まで暫く此方の建物の地下牢に入って頂きます。あなた様は貴族であり被告人であり、まだ罪人ではありません。ですが容疑者ですので牢には入って頂きます。宜しいですね? 」

「はい。」

ミーテはこくりと頷いた。

入った途端建物の中はひんやりとしていて、寒い。これまた黒い壁と天井で造られていた。

天井近くの窓から明かりが注している。

窓が随分高い場所に設置されているな。逃げられないようにしているみたいだ。

建物のあちらこちらに鎧を着た兵士が立っている。

次に、俺達は地下に下りる階段を長いこと歩かされた。

地下には何処までも続く区切られた牢屋の列が並んでいた。

ぶるりっと俺の体は震える。地下は更に冷えるのだ。

ある1つの牢屋に入るように言われる。

入ったらガチャンっと扉が閉じられた。

牢屋の中を見渡すと、清潔そうなベッドとお手洗いがあった。お手洗いの上にはカーテンが引けるようになっている。更にテーブルにはホカホカの昼食と思われる湯気の立ち込めるシチューが置かれている。

おや、以外と待遇は良いらしい。

ただし、俺の分は無しか。

コトッ。

牢屋の入り口から音がした。

振り向くと兵士が鶏肉を置いている。

もしかして、俺に?

俺はありがたく鶏肉を頂いた。骨付きだ。ラッキー。

牢屋の格子の間から兵士の手が伸びる。

ポフッ

俺の頭を撫でた。

まぁ、鶏肉くれたし撫でることを許してやろう。

ミーテは俺が鶏肉を食べているのを見て安心した目付きになった。


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