騙されたなら復讐してやろうじゃないか!!
「イスカ、ちょっと聞いても良い? 」
今日は月曜日。10月になったばかりだ。
一晩泣いてスッキリしたのかミーテは覚悟を決めたようだ。
因みに今は1時間目が終わった所。
「あ、ミーテ~。一昨日何時まで経ってもこっちの舞踏会に現れないから心配したよ? 一昨日どうしたの? 」
どうしたの? どうしたのって。イスカ、お前の頭がどうしたのって感じだよ!!
お前の書いた住所の所に行ったら酷い目にあったんだよ。
ミネルバもミーテを見つめる。
「ミーテ、あの日集合場所に中々来なかったけど、何かあったの? 」
「ミネルバ、集合場所はどこだった? 」
「確かエマリカ学園の東門前よね? 」
「もう、ミーテ。まさか集合場所間違えたの? 」
イスカの責めるような声に俺のイライラ度が増す。
ミーテは招待状をイスカとミネルバの前に広げた。
「全然違うのだけど。」
イスカとミネルバは招待状を見つめる。
「あれ? 私のと違う。」
ミネルバが首をかしげた。
すかさずイスカも呟く。
「これ私が送ったやつじゃないよ。」
「え、そうなの? 」
そんなわけないだろ。イスカの顔をよく見てみろよ。瞬きは多いし、声音は嘘っぽい驚き声だし。う~んとイスカが手を口元に持っていって考える振りをしている。口元に手を持っていくっていうのは、嘘をついたから隠したいってサインだろう。
思い付いたかのようにイスカが目を見開いた。
「まさか、誰かが私達の仲を引き裂こうとしているんじゃ。」
へー、イスカ、てめぇ、そう持っていくのかー。
「そうだよね。イスカがそんな事する筈ない。きっと誰かが仕掛けた罠だわ。」
ミーテはほっと胸を撫で下ろす。
おいおい! あっさり信じるなよ!!
「でもそれじゃあイスカの名前を語って偽造工作されたって事? 裁判所の方々に相談した方が良いと思う。」
ミネルバが不安そうに言った。
「それは駄目よ、ミネルバ。真犯人が逃げるかもしれない。」
なんせ犯人はイスカ本人だからな。そりゃ事を公にしたくはないだろうよ!
あーーーーーー!!
なんてイライラするやり取りなんだ。
「ワン! 」(なぁ、ミーテ!)
俺はミーテに向かって吠えた。
ミーテが突然吠えた俺に対して驚いて視線を此方に向けてくれた。
すかさず俺は、視界の右端の文字、ラッキードックに視線を合わせる。
ごめんな。ミーテ。
カチッ
視界に現れた数字が、恐らく秒毎に減っていく。
60000、
59999、
59998、
成る程、今回は6万からカウントが始まるのか。
だとしたら60000÷3600=16だから16時間くらいかな。うわぁ長い。
前は6000でその前は600だったから、10倍ずつ増えているってことか。
今、ミーテとなった俺の視界には、椅子に凭れてミネルバの机を支えとして座っているイスカと、普通に座っているミネルバが映っている。
おや?
体が、エリザベスやミハエル先生と入れ替わったときよりも軽いぞ。
思わずその場でジャンプをしてみた。
フワッと跳躍したミーテの体は2m程跳び、フワッと床に着地する。驚いた。殆ど着地の衝撃を感じない。
ミーテすげー! 見た目華奢なのに筋肉がしっかり付いているのか!
肉体は強いけど、心はまだ強くないんだよなぁ。夢遊病になったり、恐怖で動けなかったり、イスカの件だってもうちょっと言及すべきだし。
「み、ミーテ? 」
イスカの困惑している声が聞こえた。
おっと、回想している場合じゃないな。
ミーテと入れ替わった俺はイスカを見た。
「イスカ、あの日黒い馬車が女子寮の前に停まった。その馭者に俺、じゃなかった、私は訊いたんだ。誰が馬車を手配したのかって。そしたら、イスカ・リオテューダーだと言っていた。イスカに金を渡されて、ミネルバは体調不良だとミーテに、じゃなくて、私に嘘をつけと言われたんだとよ。」
すると、イスカの表情がサッと青くなった。
ほー。当てずっぽうで言ったけど、どうやら当たったみたいだな。
「へ!? え!? なに言って!? 」
「み、ミーテ。本当にミーテなの? 」
ミネルバの目は真ん丸に見開かれている。
おっと、やり過ぎた。ミーテらしくしなくては。
「今は怒っているから普段とは違う感じになっているけど、一応、私はミーテよ。」
「嘘よ! ミーテがそんな事する筈が。 」
ミーテはしないだろうな。だが、俺はやるぞ。俺の現世の頃は嘘が日常だったからな。
「イスカ、何故こんなことをした? 」
「決めつけないでよ!! 」
イスカが吠えた。
だが、その額に冷や汗が見てとれる。
ふと視線をあちこちから感じ始めた。イスカの突然の叫びに周囲の生徒が反応したのだろう。
気にしない方向で行こうか。
「昨日私が馬車で連れていかれたのはチューベローズ風仮面舞踏会の方だった。危ない目に合ったよ。」
「でもそれって私のせいじゃないじゃない! 」
「イスカの招待状の場所に行ったが為にそんな目に合ったんだ。明らかに間違えたの範疇は越えていると思う。」
「だから、その招待状は私のじゃないの!! 何者かがすり替えたのよ!! 」
「仮にすり替えられたとしても、じゃあ、馭者がミネルバは体調不良だと言った理由は何故だ? それは、ミネルバとミーテが友達だと知っている人物だからだ。」
「だ、だったらこのクラスとか、この学園の人なら知っている事じゃない。私だと限定される理由にはならないでしょ。」
「だけどね、イスカ。あの日仮面舞踏会にミネルバも行く事を知っていたのは、イスカ、お前だけだ。何故ならミネルバの部屋で食事をしながら話したことだからね。この教室で話したことじゃない。それでも納得しないなら、あの時の馭者を呼んで証言させようか? 7万円握らせたら協力してくれることを約束してくれたよ。」
嘘だけどな。いざってときはその馭者は俺のこの鼻で見つけてやるさ。
サアッとイスカの顔が青ざめた。
「は、はは。まさか、ミーテがそんな事するなんて。」
イスカはフラッと椅子から床にへたりこんだ。
ざわざわと、にわかに教室の入り口の方が騒がしくなった。
「話しは聞かせて貰いましたわ。」
高い声が教室に響く。
振り向くと、くるんくるんの黄色い巻き毛が近づいてきた。
「ベ、ベレニケ公爵令嬢様。」
ベレニケはいつもの如く3人の取り巻きを連れて現れた。俺達の側に来るとベレニケは手に持っていた青い扇をバッと広げた。
「今のお話し、本当ですの?」
「あ、あの、それは。」
イスカは口ごもる。
「はい、本当です。」
俺はすかさず答えた。
「イスカさん、あなたのお家は子爵家でしたわよね? 対してミーテさんのお家は伯爵家。ですのに、その様な行いをして許されるとお思い? それに、イタズラにしては度が過ぎていましてよ。貴族の一人として恥ずかしくはありませんの? 」
イスカが俯いてブルブルと震え始めた。
泣いているのか?
泣くぐらいなら、そもそもあんなこと止めとけば良かったんだ。
「フフ、フッ。」
イスカの口から漏れた声に俺はゾッとした。
こいつ、笑ってやがる。
イスカはガバッと顔を挙げた。
「その子が伯爵家ですって? あはははははははは!! ベレニケ様何を仰っているんですか? 」
さも可笑しそうにイスカは笑っていた。
「この子は伯爵家の人間じゃありませんよ。元々は別の国の出身で、元平民ですよ? なのに私よりも身分は上で、魔動物を持っていて。それに、ちょっと見映えが良いからってエドワード王子様に気に入られて。」
ぎゃあああああああ!! しまった!!
そういえば、エドワード王子達と別荘に行った時に、スチュワートがイスカにミーテの事を色々喋ってたんだったあああ!!