癒し系美少年からの始まりの手紙
女子寮の階ごとの身分。
6階 王族や公爵家
5階 候爵家
4階 伯爵家
3階 子爵家
2階 男爵家
1階 玄関メイドや執事
壁の修理等で3日間授業は停止とされ生徒達は寮で待機することとなった。
普通各生徒の実家に帰らせるべきじゃないかとも思うが、帰る途中で更に賊が現れるケースも考えられるため、寮の結界を生徒や先生すら通れない程に強めて待機してもらう、とのことだった。
寮に帰る前に、マーリン学長からこっそりミーテが聞き出していたが、ジャック君は夏休み前に退学届けを提出していたそうだ。
エマリカ学園を中退することは魔法兵になることを拒否する、即ち魔法兵強化法に反することなので、罰則としてジャック君はナンへの実を大量に食べさせられたらしい。
何故そこでナンへの実が出てくるのかというと、ナンへの実を大量に摂取すると魔法の才能が無くなり、魔法が使えなくなるとのことだった。
自ら退学届け出していたのに何故学園を襲ったのか?
何故ジャック君は魔法が使えたのか?
ジャック君の体内の魔力波形をミハエル先生が計った結界、吸魔鬼化した人間に特長的にみられるGUS波形が見られたそうだ。
つまり、ジャック君は何者かによって吸魔鬼に変えられていたのだ!
女子寮の4階。
ミネルバの部屋で3人プラス俺で昼食を食べている。
ミネルバが少し憔悴した顔で芽キャベツとベーコンのクリームパスタの芽キャベツを転がしている。
「まさか賊の正体がジャック・オーランだったなんて。」
「せっかく私の体調が治ったのに。今度はミネルバが体調悪そうな感じになってるよ。元気だして?」
体調の回復したイスカがトマトとナスのペペロンチーノをくるくるとフォークに巻き付けた。
「私が休んでいる間にそんな凄い事があったんだ。あの子そんな事するほど気強かったっけ? ねぇ、ミーテどう思う?」
「どうだろう。私もジャック君がこんなことをするようには思えないけど、、、。」
マーリン学長からジャック君が吸魔鬼になっていたことは秘密にするようには言われているミーテは、歯切れ悪く答えた。ベーコンとトマトのジェノベーゼパスタを、メイドに持ってこさせたスプーンの上でフォークを使ってくるくると巻く。
「ねぇ、ミーテ。その、、、スプーンで使うと巻きやすいの? 」
「あ! あ~うん。まあね。あまり上品ではないけど。」
え、公式ルールじゃないのか?
パスタってフォークとスプーンで食べるものだろ? 違うのかな?
あ、そうか。この世界では庶民の食べ方って意味かな?
だとしたらミーテだけ知ってるのも納得だ。
「へ~。私もやってみよう。ミネルバもやる?」
「ええ、やってみようかな。」
イスカは扉の側で待機していたメイドにスプーンを2本持ってこさせるように言った。
イスカ、普通だな。
シーザーからイスカもエドワード王子のことが好きだって聞いたから、ミーテが元平民だと知って嫉妬しないか心配していたが、特に変わったことも無いし、いつも通りだ。良かったー。
イスカもスプーンを使ってくるくると巻きだした。
「あ、そうそう。二人に言おうと思ってたんだけど、再来週、私の別邸で仮面舞踏会をするんだけど、その、良かったら二人とも来ない? そんなに豪華じゃないランタナ風仮面舞踏会なんだけど、、、。」
ミーテが目を輝かせた。
「行く! 是非とも行かせて! 」
「私も~。」
ミネルバも乗り出す。
「じゃあ、後で招待状送るわね。」
え~、仮面舞踏会?
余り良い思い出無いんだが。
音は煩いし、俺やること殆ど無くて暇だし。
そうだ! 駄々こねて部屋に籠城しよう!
ミーテだけ行かすか。再びあれはめんどくさいし、うんざりだ。
ミネルバの部屋から出て、イスカとは階段のところで別れた後、ミーテの部屋に向かった。
「ミーテ様。御手紙が2通届いております。」
廊下を歩いている途中で、手紙を持ったメイドに出くわした。
「ありがとうございます。」
ミーテは手紙を受けとり、自室の扉を開いた。
棚の中からペーパーナイフを取りだし、ソファに座る。
俺もソファに飛び乗った。
ミーテはシュッと封筒を切って、中身を取り出す。
一通目はイスカからの招待状だった。
リオテューダー子爵の別邸で仮面舞踏会が行われ、是非とも参加してほしいと書かれていた。
イスカって、子爵家の令嬢なのか。初めて知ったよ。
再来週の土曜日、馬車で迎えを寄越してくれるらしい。
「御父様に仮面とか、ドレスとか送ってもらわなきゃ。」
ミーテは2通目を取り出した。
みるみる内にミーテの顔が青くなっていく。
どうした、ミーテ?
「ルイス・ニューキャッスル!? なんで!? 」
手紙にはこう書かれていた。
麗しの君 ミーテ・ヘッセン伯爵令嬢へ
僕はミーテ嬢、貴女が好きです! 本当に人生においての初恋です‼
僕は貴女に助けられた時から、胸の高まりが止まりません。貴女を思うと心が苦しく、死んでしまいそうです。貴女のあの力強い姿に心から惚れてしまいました。貴女の美しいおぐしや、伸びやかな手足、百合のごとく麗しく、物静な顏。されど、弱くはなく敵に立ち向かうその凛とした行動のなんと美しいことか。
(中略)
貴女はまるで古の月の女神のようです。
今絵師に僕の証言と共に似顔絵を作らせているところです。この思いを黙っておくにはあまりにも辛く、こうして手紙をしたためました。どのような言葉でも構いませんので、御返事を下さい。
僕の心は恋に慣れておらず、始めて知ったこの恋心が嬉しく、そして辛いのです。
もし、御返事が無いと、自ら命をたってしまうかもしれません。
ニューキャッスル公爵家次男 ルイス・ニューキャッスルより
手紙は五頁にも及んだ。
長っ!!
そして、怖っ!!!!!!!
絵師に描かしてる!? ミーテを!?
怖い!
返事がないと死ぬってなんだよ! てめぇはヤンデレか!?
ミーテは真顔で立ち上がり、便箋と万年筆を引き出しから取り出した。
先ずはルイスに宛てて手紙を書く。
ルイス・ニューキャッスル公爵御子息様へ
私は他に好いている殿方がおります。
ルイス様の想いには答えることはできません。
申し訳御座いません。
ミーテ・ヘッセン伯爵令嬢より
シンプルだけど、余計な言葉書いても曲解されそうだし。
ミーテは次にヘッセン家に、ランタナ風仮面舞踏会用のドレスとマスクを頼む手紙をしたためた。
2枚の手紙をそれぞれ封筒に入れて、封蝋を垂らし、判子を押したらサッと立ち上がる。
扉を開けた。
メイドに手紙を渡すように頼みに行くようだ。
寮の結界、メイドは通れるのかな?
部屋を出て、一階まで階段で下りると Maidroom と書かれたプレートがある木の扉に向かった。
2回ミーテがノックすると、ガチャリと扉が開かれた。
「何でございましょうか?」
出てきたメイドに手紙を渡す。
「これを届けて貰っても良いですか? 」
メイドは怪訝な顔をした。
「かしこまりました。あの、、、御自ら御足労頂かなくとも、呼鈴を鳴らしていただけたら向かいますが。」
「足を動かしたくって。つい。」
メイドは首を傾け、不思議そうな顔をした。
「 、、、左様ですか。では承りました。」
メイドは手紙を更に大きめの緑の紙に包み、女子寮の玄関に向かう。
扉越しにガラスの膜の様なものが見えた。恐らく結界だ。
その結界に手紙の入った包みを当てる。
包みはゆっくりと結界を通り、外の衛兵が出てきたその端を掴んだ。
メイドは扉を閉めて戻ってきた。
「あの、今の手紙を包んだ紙は何ですか? 」
「私共もよくわかりませんが、中身を認証して素材が紙で、安全な物体なら通す代物だと聞いております。」
そうなんだ。
ミーテはお礼をいって部屋に戻る階段をかけ上がった。
俺も走って続く。
2階辺りで俺とミーテは自然にかけ上がるスピードの競走をし始めた。
ミーテの方が幾分か早い。
犬より早いってどんだけ。流石2足歩行の羚羊だ。
ミーテが前に出る。その後ろを必死で追いかけるが追い付けない。
4階に先に着いたのは勿論ミーテ。
だが全速力を出したためかゼーハーゼーハー息が上がっている。
「ワン! 」(何で競走するんだ。)
「ふふ、いい運動になったね。トマト。」
まぁ、そうだな。
青かった顔が走ったお陰で健康的に上気した顔になっている。
ミーテが嬉しそうな顔をしていたから、ならそれで良いやと思った。