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え、賊ってスチュワートじゃないの?

次の日。


壇上に立った先生はにこやかに切り出した。

「皆様、夏休みが開けました。しかし、昨夜魔法を使用可能な不審者に入られました。

追い払うことができましたが捕まえることは叶いませんでした。皆様、暫く身の周りの警戒をお願いします。」

スチュワートが手を挙げた。

「先生、結界は先生や生徒しか通れない筈ですよね?

犯人は内部者の可能性が有るのでは? 」

お、おま、いけしゃあしゃあと!

「内部者とは決まっていません。予測で物事を判断してはいけません。攻撃も窃盗もされていませんので今は大丈夫でしょう。今後は警備をよりいっそう高めることになっています。

さぁ、再び引き締めて行きましょう。

前期では火、水、土、風を習得しましたので、後期では、木、風、毒消しや回復の順で習得してまいりましょう。」

何事もなかったかのように授業が開始された。


俺はミーテの座っている席の足下から周りを見渡した。

教室の前から四番目の隅の席が空いている。

確か、魔法の実習で爆発させたあの、ジャック君が座ってたような、、、。

休みかな?

「木の魔法には必ずこのナンヘの種が必要です。」

先生はアーモンド状の種を取り出した。

ベレニケが蔦の魔法使うときに取り出していた種だな。

「この種にルトメラカタツと唱えて魔力を流し込む。それで魔法が発動します。」

先生はそう言うと手に持った種を薬指にのせた。

「ルトメラカタツ!」

種から芽が出て一メートルほど蔦が伸びてきた。

「この木の魔法はもっぱら対象を捕縛するために使います。蔦の行き先は今までと同じくイメージするだけでその方向に行きますが、イメージするためにはナンヘについて詳しく知らなくてはいけません。」

先生は植木鉢に棒が刺さり、蔦が絡まったものを教卓の下から取り出した。これがナンヘだろう。

「ナンヘはエマリカ王国南部の森によく生えている蔦科の植物です。多年草であり、自家受粉を行います。

人間の魔力を受け入れて成長を促すことの出来る唯一の植物です。」

プチプチと先生はナンヘから種を採った。

皆の机に置いていく。

「先ずは私がもう一度ゆっくりと見せますので、よく見ていてください。」

先生は再びルトメラカタツと唱えた。

細い芽が種を割って、その小さな葉と葉の間から更に芽が出て、今度はゆっくり、ゆっくりと伸びてくる。

再び一メートルほどに達した。

「それでは皆さん。試しに魔力を流してみてく。」


ピカッと稲妻の様な光が窓の外で光った。


先生がバッと廊下に出て窓の方へと走る。

なんだ?

「今の光、雷かな? 」

「こんなに晴れてるのにね~。」

「先生、どうなさったのかしら?」

他の生徒達がヒソヒソと囁めきあう中、ミーテは訝しげに中庭に面した廊下の窓を見つめた。

「今のって、、、転送魔法の光? 」

転送魔法?

ああ、俺とミーテがこのエマリカ学園に寄越された時に使われていた魔法だったかな。

まだ問題がある魔法だったよな?

確か、転送魔法陣内の一ヶ所で混合ってのが起きるっていうやつで。

そのせいで俺は右目が緑になったし、魔法が使えるようになったけど。失明しなかったのは幸いだったし結界オーライ。


ミーテが立ち上がった。

「今は皆さん、動かない方が良いでしょう。先生の指示を待ちましょう。」

エドワード王子が婉曲に、ミーテに座るように促した。

大人しく座るミーテ。

先生が教室に急いで入ってきた。

「皆様、南館、防護結界専用のシェルターに向かいますので静かに着いて来て下さい!」

「先生何があったのですか? 」

「魔法を使う賊に、入られました!」

馬鹿な!?

俺はスチュワートを見上げた。

スチュワートいるじゃん。え、どういうこと?

賊が別にいるってこと?

そんな、、、。

昨日のは確かにスチュワートの匂いの筈。

とりあえず先生に続いて教室を出た。

先生が早足で廊下を伝って南館に向かう。


「よくも退学にしやがってええええ!! うわあ"あ"あ"あ"!!」

中庭から男の絶叫が響いた。

ミーテが俺をひょいっと抱え上げる。

お陰で窓からの中庭の景色を、犬の俺でも見ることができた。

中庭に昨日の様に黒いフード付きマントを目深く被った人が何事か叫びながら魔法で炎のビームをあちこちに出しまくっていた。

それを先生方が魔法で水の膜を張って防ぎつつ、ジリジリとフードの男に近づいていく。

突如、男の回りにゴォ!!っと炎の渦が巻いた。

「あははは! 凄いぞ。 あれほど出しにくかった魔法が、こんなに簡単に!!」

男の笑い声が聞こえる。

先生方はぱっと離れつつ、様子を伺う。

炎の渦が止んだ。

「先生達~、もっとかかってきてよ!! 僕こんな痛い目にあってまでやって来たんだよ~‼ 」

男がフードをとった。

「ねえ、あれ。ジャック・オーランじゃない? 」

一人の生徒が呟く。

ジャック・オーラン?

ああ、ジャック君の本名かな。

、、、はぅえ!? ジャック君!?

よく見ると、確かにジャック君だった。ただし、顔の左上が赤黒い。

何で赤黒いんだ? 怪我でもしているのか?

「転送魔法で来たから顔の一部が混合しているのか。」

スチュワートの声が聞こえた。

振り替えると、暗い表情でジャック君を眺めている。

俺は益々スチュワートが分からなくなってきた。

昨日のはこいつだった筈なのに、なんでそんな表情をするんだ?

「昨日の賊って、ジャック君だったのね。」

ミーテの呟きが頭上から降った。

「ワンワンワン! 」(いやいや、違うよ! )

昨日のは絶対にスチュワートだよ! ジャック君じゃないよ! 今日のはジャック君だけど!

必死に訴える俺に対して

「恐いよね。大丈夫。トマトには私がついているから。」

ミーテは俺の頭を安心させる様に撫でた。

ドゴォーーン!!!!

花火の様な爆音が響いた。

同時に

パリーーンッ

窓硝子が割れた音がした。

「キャーーー!!!」

生徒達が悲鳴を上げる。

窓硝子が割れて、そこからジャック君が突っ込んできた!!

ジャック君はおもむろに薬指を向ける。

その先には逃げ遅れて小鹿の様に震えている、緑がかった金髪巻き毛の少年が!

あ、ルイスの野郎か!?

ミーテが俺を下ろして走り出す。

ジャック君の口が開いた。

「リキゼカ。」

同時にミーテがパッとルイスの前に出た。

「ワン!」(ミーテ!?)

「ベカワイ!!!」

ミーテの薬指の前に巨大な岩の壁が現れた。

ジャック君の出した見えない風の刃が岩壁に当り、ガガガガッと削られる。

「ウロノズミ!!ルトメラカタツ!」

先生の声が響いた。

シュッと素早く鞭のようにしなり現れた蔦が、ガシッとジャック君を掴む。

そして水がジャック君の周りに出現し、あっという間に水の球体となって、ジャック君を包み込んだ。

これ、あの時トトに使われた魔法だ!

暫くすると、ジャック君は動かなくなった。

パシャと水の球は弾け、ジャック君がバタリと倒れる。

し、死んだのか?

先生が近より、再び蔓で締め上げたあと、ジャック君の両薬指に紫色の指輪を嵌めた。

なんだろう?

そのままジャック君は他の先生方と共にどこかに運ばれて行った。

「皆様、大丈夫ですか? 怪我のある人は? 」

ぐるっと見渡す。

幸いなことに誰も怪我は無いようだ。

「あ、あの、ありがとう、ございます。」

ルイスがミーテに頭を下げている。

ミーテも慌てて頭を下げた。

「ルイス様、お褒めに預り、光栄に存じます。」

慇懃無礼かと思ったけど、ルイスって公爵の息子だもんな。ミーテの家は伯爵家。

「あ、あの。その、その。」

ルイスは顔を赤らめた。

「お、お礼をさせて下さい! 」

「お言葉だけでも十分身に余ることでございます。」

あ、オブラートに断っている。

「皆様、一応シェルターの方へ。賊は一人とは限りません。」

先生の言葉にミーテはスタスタと歩き出した。

ルイスも続く。




ルイスの目はミーテの後ろ姿をずっと追っていた。

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