レッツ俺だけお先に海水浴!!
ざざぁぁぁん、ざざぁぁぁん。
波の音が窓から入ってくる。外に出たいなぁ。
でも一応エドワード王子が来るまでミーテ達は大人しく部屋で待つようだ。
俺は暇なので丸窓の外の海を眺めていた。
俺の後ろでは3人がキャッキャキャッキャと話している。
、、、ちょっとくらい散歩してても良いよな?
俺は足音を忍ばせて扉に向かった。幸いイスカが入った後、扉を閉め忘れていたお陰で隙間が開いている。
視界右端の透明化の文字を見つめる、
カチッ
100、99、98
視界の数字が透明化のリミットを刻む。
体を点検する。
よし、ちゃんと透明だ。んじゃ、行くか。
扉の隙間を潜り抜けた。
階段を下り、トコトコと1階に向かうとがちゃりと音がして扉が開いた。
「変わりはないですか? セバステ。」
「はい、エドワード王子様。」
初老の執事はセバステと言うのか。
てか、エドワード王子来たぁぁぁ。
エドワード王子を先頭に生徒会のメンバーがベレニケ、ウォーゲル、ミクラー、スチュワートと続く。
俺は咄嗟にエドワード王子達が入ってきた扉から外に出た。
だって海水に触ってみたいじゃないか!!
透明だから彼らも気づかないようだ。
外はかんかん照りの空にモクモクとした雲が浮かんでいる。
玄関から庭へと走り、そのまま門の格子の隙間を潜り抜けた。
さて、どうやって崖の下の海へ行こうか。
辺りを見渡すと石で出来た階段が下まで続いていた。
ラッキー。
俺は石の階段に足を置いた。
が、、、
「ギャン!」(あっつい!)その熱さに飛び上がった。
慌てて草の上に逃げる。
そりゃそうか。太陽が照りつける石は当然熱いよな。
どうしたものか。
よく見ると、石の階段は全てが日光にさらされているわけではない。
所々日陰が差している。
俺は草村で助走をつけて日陰のところまで跳んだ。
そのままの速さで日陰の所にぴょんぴょんと着地していく。
波の音がどんどん大きく聞こえてくる。
石の階段を下まで下りると、目の前には砂浜が広がっていた。海はもうすぐだ。
タタタタタッと走り出して。
「キャイン!」(熱チャアアアア!)
と元の日陰に戻る。
砂浜は熱かった。
だが目の前にはもう日陰は無い。
、、、走るか。
俺は全速力で砂浜を駆け抜けた。
そして、ようやっと目の前の海に飛び込んだ‼
カチッ
丁度俺の透明化も切れた。
バッシャアーーーン。
砂浜で火傷しかけた足の裏は海水に浸ると鎮火した。
波の動きでうねる海の水が俺の体を浮かせつつ砂浜に戻そうとする。
前足と後ろ足を動かして犬かきのように泳ぐ。ようにというか、犬ではあるのだが。
懐かしいな。まだ水が苦手だった頃、マキマキ先輩に泳ぎをスパルタ指導してもらった。そういや、俺とミーテがエマリカに転送された後マキマキ先輩はどうなったのだろう。
ザバァーンと波が俺に被る。
「フンスッ!」
鼻に水入った。
慌てて海水の当たっているまだ熱さのましな方の砂浜に下り立つ。
くしゅん、くしゅんとくしゃみをした後にふと、足元の物が目に入った。
それは桃色の筋が入った貝殻で、砂に半分埋もれていた。
記念に持って帰りたいな。
俺は貝殻を掘り出した。直径15センチ程だろうか。それを口にくわえて海水でジャバジャバと洗い、砂を落とす。
さて、これを何処に置いておくか。
周りを見渡しても目印は俺が下りてきた石の階段位なので、俺は再び走って足の裏火傷寸前で階段の端に貝殻を置いた。この気温なら直ぐに乾くだろう。
再び海へと走り、飛び込む。
足をせっせと動かして波の力に負けないように泳いでいく。
足の裏をぬるりと何かがついて、ギョっとして見たら、ワカメだった。
暫く足のつかないとこで泳いでいたが、体力的に疲れたなぁと思い、方向転換をした。
あれ、意外にも砂浜から大分遠くなってる?
せっせ、せっせと足を動かし砂浜を目指す。
波は砂浜の方に向いているから早くつく筈と思っていたが、そうでもなかった。
なんか、浜辺より沖の方が潮の流れが違うような。
前に進む度にその2倍のスピードで左に流されていく。
あ、ちょっとヤバイかも。
体力が削られていく。
泳ぐ足がだんだん疲れて痺れてきた。持ち上げにくい。
すっかり浜辺が見えなくなってしまった。
空は雲がかかり少し暗くなり始めていた。
ここに着いたときはお昼位だったから今太陽は多分西か?
焦った俺はなぜか方角を確認しようとしていた。
太陽は雲に隠れてしまった為、どこかわからない。というか、例え太陽がどこかわかったところでこの世界で太陽が東から上がるという保証はないし、方角がわかったところであの別荘がどの方角かなんてわかる筈もない。
つまり、無駄な足掻きである。
見上げた視界に何か黒い物体が擦った。
パタパタパタと虫よりも重い羽音が聞こえてくる。
一匹の蝙蝠が俺の上をくるくると旋回していた。
蝙蝠と、意志疎通って出来るかな。
「ワン!」(すみません。溺れそうで助けて頂けませんか?)
蝙蝠はシーンとしている。
あ、無理かな。
俺の上で旋回していた蝙蝠はふと、動きを止め、俺に近づき、俺の頭の上にポフンと乗った。
意外と重っい!
沈みそうになり、犬かきを必死に頑張る俺をよそに蝙蝠は何か甲高い音を出した。何を言っているか俺には聞き取れなかったが、音を出していることは分かる。
すると、俺の周りの波の表面が海流とは別の動きをし始めた。まるで風が体の周りでくるくる回っている様に見える。
フワッと俺の体が浮いた。
そのまま風に吹かれながらふわふわと浮かび上がる。
もしかして、この蝙蝠は魔動物!?
やったー!ラッキー!これで助かる!
ふわふわと浮いた俺の体。
視界の下は大海原が広がっていた。
蝙蝠は直ぐ側の浜辺の洞窟の前まで魔法で俺を運んでくれた。
フワリと俺を洞窟の前に置いた後、蝙蝠は俺の頭から離れた。
「ワン!」(ありがとうございます!)
蝙蝠は洞窟に帰っていった。
さて、、、ここ、何処だ?
別荘の浜辺とは別の場所である。