危機二発目
それは人だった。北門の内側を移動してエマリカ学園の中へと向かっている。
あれは、、、遠くて見えない。
近づいたが、既に走り去っていった。
でもこの匂いは、、、スチュワート?
間違いない。図書館でその匂いは覚えた、あの副会長のスチュワートだ!
なんでこんな夜中に学園の中に?
まさか、忘れ物か?
でも門閉まってるよな。あ、魔法で浮いて中に入ったのか。やっぱり生徒だと学園の結界はスムーズに行き来できるんだな。
スチュワートの匂いが遠ざかっていく。
今宵の満月は既に傾いていた。
取り合えずエマリカ学園の塀を辿っていく。
多分北門から左に向かえば東門だろう。
トコトコと歩いていくと、夜風にのって別の匂いがした。こっちはスチュワートじゃないなぁ。あと、ガス灯の様な匂いがする。
振り替えると、灯りが見えた。
俺は取り合えず近くの煉瓦の建物と建物の隙間に隠れた。
灯りが近づいてくる。
それはランプを持ち鎧に身を包んだ二人の男だった。
「この時期巡回に当たってラッキーだったな。もし冬だったら寒いのなんの。」
「雪もふりますもんね。」
「去年冬にあたったときはこの持っているランプで暖をとったもんだ。手はそれで良いんだが、足がなぁ。」
「雪で濡れますもんね。」
「そうそう。それで足の感覚がだんだん無くなってきて。」
巡回ってことは警備ってこと? 警察じゃなくて兵隊がやっているのか。
「火の魔法とか使えたら良いですよね。」
「そいつはお貴族様の特権ってやつさ。そもそも貴族が夜中の巡回をやるってことも無いけどな。」
「いいなぁ、魔法を使えるってだけで貴族になれるなんて。」
「まぁ、でも逆に貴族の子でも魔法が使えなきゃ爵位は継げないからな。そこんとこ結構厳しいだろ。」
「そうなんすか?」
「お前知らなかったのかよ。まぁ新人だから仕方がないか。貴族の中で滅多に居ないが希に魔法を使えないのが生まれることがあるらしいぞ。言っとくけど俺達の兵隊長、元々子爵の出なんだ。」
「え!? あの兵隊長が? 」
「そうそう。意外だろ?」
「めちゃめちゃ気さくだし、てっきり俺達と同じ平民出身なのかと。」
「魔法が使えないから爵位は継げなかったんだと。それでも兵隊長になれたのはやっぱスゲーよ。」
「へー。先輩お詳しいんですね。」
「いや、俺実はあいつと同期で。」
二人の兵士は俺の前を通りすぎていった。
ああいう見回りがあるから、もしかして思ったよりも治安が良いのかもしれない。
見回りが向こうに行った後、俺は路地から出ようとした。
ヒュンッと風を切る音が聞こえた。
首輪が後ろ上方へグッと持ち上がる。
何か俺の首輪に引っ掛かったのだろうか?
後ろを振り替えると糸のような物が見えた。それと、首輪に釣り針の様なものが引っ掛かりそれが建物の屋根の上まで続いている。
グイッと一気に糸が引っ張り上げられた!
お、俺は魚か!?
「ワグェッ。」(く、苦じい!)
俺の体は首輪ごと上に引っ張られ、首吊りみたいになっている。
後ろ足が石畳から遠ざかっていく。
息ができない。
苦しい。マジで苦しい!
誰か、助け、、、。
視界が暗くなっていく。
俺は酸欠で意識を失った。
一匹の子犬を釣り上げた男はニヤリと笑って後ろの別の男にそれを見せた。
「やっぱりこいつは魔動物ですぜ。この首輪のルビーも本物だ。」
「でかした。まさか、魔動物がちょろちょろと歩いているとは夢にも思わなかったが。こいつを闇マーケットで売れば一生遊んで暮らせるだろうよ。」
「ウハッー。チマチマ財布スル生活ともおさらばか。」
満月は沈みかけていた。
ふっと風が射した。
ドンッ
白い風が男の一人を弾き飛ばした。
子犬を持っている男は驚いて素早く後退る。
白い風に見えたものは一人の可憐な少女だった。白いネグリジェ。色白で健康的な体つきに白い髪が靡く。
「な、なんだ。 女か?」
彼女は目にも止まらぬ速さで回し蹴りを繰り出してきた。