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エドワード王子視点、ミーテに対しての思い

エドワード王子視点


昔の母上を模した人形。

忘れない為に私はこれを飾っています。

王宮に置いておくことも考えましたが、父上と母上に見られることだけは避けねばなりません。

母上は随分と醜くなられた。

私を産んだ頃はあれほど。それこそこの人形の様に美しかったというのに。

父上の腐りきった審美眼に合わせようとなさるなんて愚かなことを。

国王、即ち父上は太った女性がお好きでした。

今二人いる側室の一人はパン屋の大柄な女性、もう一人はまん丸い伯爵令嬢。

私を産んだ後は王族としての義務は果たしたと言わんばかりに、父上が母上の所へ足を運ぶことは無くなりました。

私は必死で母上をお慰めしようと、美しい蝶や美しい絵、美しい宝石に美しい花等を運びました。

貰った時は嬉しそうにされるのですが、直ぐにまた暗い表情に戻ってしまわれる。一瞬の母上の笑みの為に私は奔走しました。

母上には父上の評価など、必要ない。母上は美しい。そして、私は美しいものが好きです。私は母上が大好きです。何度も何度もそう伝えましたが、無駄でした。

母上は気を病まれ、いつしか大量の食べ物を食べられたかと思えば、直ぐに吐き出す事を繰り返し、遂には倒れてしまわれた。

今は公務に支障をきたさない程度の最低限の外出以外は殆ど臥せっておられる。

トントントン

ウォーゲルが階段を降りてきました。

「王子、こうも毎晩毎晩屋上に出向かずとも。いっそ呼びつけてはどうですか? 」

「それは、、、。」

それは駄目です。ミーテはあの状態が一番美しい。

まるで月の女神の様な幻想的な美しさは、夜だからこそ。

それに、彼女は夢を見ているのでしょう。目が覚めれば戻ってくることは恐らくない。

最初に夜、彼女を見かけたのは、屋上の庭で捕まえさせた蝶々を、夜中まで標本にしていた時です。

漸く完成した透けるように白い蝶。

月の光に翳して見ようとカーテンを開けたとき。

別の建物の上に建っている彼女を見つけました。

風に吹かれて、今にも舞い上がってしまいそうな細い体で、最初は見間違いかと思い、慌てて屋上に上がりました。

屋上からよく見ると、何処か人間味の無い動きをしており、正気ではないと感じられました。

「ミーテ嬢?」

試しに呼んでみますと、クルッと此方を振り向いた彼女と目が合いました。

瞳は半開きでボーッと此方を眺めていたかと思ったら、トンッと跳んで此方の屋上に渡ってきました。

「ジョナサン!!」

それはもう嬉しそうに別の人の名前を呼んで私に飛び付いてきたのです。

一部始終を見ていたウォーゲルとミクラーが間に入ろうとしましたが、私はそれを止めました。

呆れ返る二人を余所に、私はミーテを抱き止めました。

すると、ミーテは脱力し、スー、スーと寝息をたてて眠りました。

その日からです。ミーテがこの屋上にやって来るようになったのは。

いつも私をジョナサンという人と重ねているようでした。

「ミーテ嬢。」

ある日何時もの様に呼んだのですが此方を振り向きません。そこで試しに「ミーテ。」と呼ぶと此方を振り向きました。

ミーテ嬢からミーテと呼ぶようにしたのはその日からです。

ギィーーッ

扉が開かれ、眠たそうな目を擦ってミクラーが戻って来たようです。

「あ~、眠い。」

「ミクラー! 近衛ともあろう者が、王子が起きている間に眠るとは。」

「ウォーゲル兄さん、こうも連続連夜だと流石に眠いよ。」

「すまないね、二人とも。でも別に起きてこなくても良いのだよ?

私が好きでやっていることだから。」

「いえ、そうは参りません。王子の護衛という名誉ある役割。立派にこなさなくては。」

「でもさ、ウォーゲル兄さん。幾らなんでも王子の趣味に張り付くのもどうかと思うよ。王子だってたまには自由に動きたいんじゃないかな? 」

「張り付くとはなんだ! 失礼な。王子が安全に趣味を楽しまれる様に常に目を光らせるべきだろう。近衛として当然の行いだ。」

「だけど毎回ミーテって子は来ているけど、別に危ないこととか無いじゃないか。」

「そういう油断がいつか危険を招いてしまうのだ! 第一彼女は誰がどう見てもおかしいだろう。恐らく夢遊病だとは思うが些かアグレッシブに過ぎる。もしや、王子暗殺を狙ってわざとあの様な振りをしているのやもしれん。または、気を向かせてあわよくば王子の側室の座を狙って。」

「それは無いんじゃない? 王子とベレニケ様とのお茶会に出向いた彼女はさ。王子に全然靡いている感じがしなかったよ。」

「ミクラー。以外と傷つきましたよ。今の言葉。」

「あ、王子。申し訳ございません!」

私は次の部屋へと向かいました。

「二人には言っておきましょうかね。」

ウォーゲルが素早く動いて次の部屋の扉を開けます。

次の部屋は幾つもの棚に、花々を閉じ込めた硝子のブロックを並べたもの。

母上に挙げた花だけでなく、珍しく美しい花を見つけてはこうして硝子に閉じ込めています。これで、いつでも見せに行くことが出来ます。

その部屋の赤いソファに私は腰を下ろしました。二人にもソファを進めて向かい合います。

「さて、私はミーテを私の第一側室にしたいと考えています。」

「さ、左様ですか? 」

「ウォーゲル、何故疑問形なのですか?」

「えっと、それは、、、。」

言葉に詰まるウォーゲル。

代わりにミクラーが口を開きました。

「確かにミーテは美しいですよ。王子が気に入るのも分かります。性格も謙虚で礼儀正しい。

でもちょっと、いやかなり精神的な問題が有るのでは? こうして夢遊病でウロウロするなんて、普通じゃありませんよ。朝は普通ですが。」

「私は彼女が夢遊病であることも含めて気に入っていますよ。第一側室用の式典での白いドレスも似合うでしょう。」

「でも宮殿で生きるにしては脆すぎます。精神が。あそこは相当タフでないと。」

「ですが、私は彼女が、、、欲しい。」

驚いたようにミクラーの目が見開かれました。ウォーゲルも同様です。

「珍しいですね。王子がここまで執心するなんて。」

そう言われて、私は始めて気づかされました。

自分がミーテに執心していることに。

「そうか。私はミーテの事が、、、好き、、、なのでしょうか?」

うーーんとミクラーが呻きました。

「いやー、どうなんでしょうねぇ。ミーテが美しいから好きなのか、ミーテを愛しているから好きなのか。王子の場合どちらなのでしょうか?」

「変な質問を王子にするんじゃない、ミクラー。」

「いや、構いませんよ。そうですね。私は、、、。」

どちらでしょう?

自分でもよくわりません。

答えが出せないまま沈黙した私にウォーゲルが遠慮がちに話しかけてきました。

「王子、あの、7月の別荘での休日に彼女を呼んで、丸二日共にしてみては? ただし、結婚前ですので彼女の友人と生徒会役員も呼びましょう。」

「お、珍しい。ウォーゲル兄さんから遊びの提案がでるなんて。」

「遊びじゃありません。王子の希望を叶えるためです。」

「そうですね。良い考えです。」

「では、招待状を手配しておきます。次いでに色々と仕掛けておきましょう。」

「何をですか?」

「単に別荘で過ごすだけでは心の距離は縮まりませんから、ちょっとしたアクシデントを仕掛けるべきかと。」

「あれ? 」

ふと、ミクラーがソファの側にパッと手を伸ばし、何かを掴む仕草をします。

ガシッ

「キャインッ。」

今、何か、犬の鳴き声が!?

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