エドワード王子の不気味な部屋
シーザーは周りを見渡した。
「ガウッ?」(取り残されたのか?)
「ワン。」(そのようです。)
「ガウッ。」(まぁ、そのうち奴も戻ってくるだろう。その時にまた連れていって貰え。)
そうですね、と答えようとして俺はハタッと気付いた。今なら、エドワード王子の部屋を見れるんじゃね?
最上階なんだし一番最高級な部屋なんだろ。一度は拝んでおきたい‼
「ワン!」(シーザーさん! エドワード王子の部屋を見てみたいのですが。)
「ガウッ?」(何故だ?)
「ワン!」(興味がありまして。)
シーザーは怪訝な表情をしてスタスタと歩きだした。俺も後ろに続く。
屋上から下りの階段をおりたところに半開きの扉がありオレンジ色の光が漏れていた。
シーザーと共に扉の隙間から中に入ると、部屋はいくつかの燭台の明かりで煌々と照されていた。豪奢なソファと硝子を金色の猫足で支えられたテーブル。重厚感のある赤と金色模様の絨毯。蜂蜜色の大きな棚。
そして、壁が、、、蝶々だらけだった。
動いていないから標本だろう。もの凄い数だ。壁一面びっしりと、だが、整然と並べられている。蝶々の羽は赤や緑、黄色等様々だが、青色が比較的多い。蝋燭の光を受けてキラキラと光っている。まるで宝石の様だ。
成るほど。エドワード王子は蝶々の標本を作るのが趣味なのかな?
「ガウッ。」(もう、戻ったらどうだ。)
まるでこれ以上行くなと言わんばかりにシーザーが渋い顔をして俺を見ている。
「ワン?」(まだ一部屋しか見ていないのですが?)
「ガウッ。」(気味が悪くはないのか? この部屋だけにしておけ。)
気味が悪い? そりゃあ、最初はビックリしたが、別に蝶々の標本マニアってだけだろう。
それともこの先には何か別の、、、。
ギィーーッ。扉が開かれる音がした。
あ、やべっ。エドワード王子戻ってきたのか。
カチッ
俺は咄嗟に視線を右上の透明化の文字に合わせてしまった。
90という文字が視界の右上に表示され、90,89,87と減っていく。
透明化は使う度に10秒ずつ増えているな。
俺の体を見るとちゃんと透明になっていた。
「ガウッ。」(それが貴様の能力か。)
シーザーは興味津々に俺がいる辺りを嗅いでいる。
「ガウッ。」(匂いは消えないのか。)
匂い消えていないのか。知らなかった。なかなか自分の匂いってわからないからなぁ。
「シーザー、何をしているのです? 」
階段からエドワード王子が降りてきた。
シーザーはプイッと王子に対して素っ気なく顔を背けた。
王子はそれ以上追求することなく俺達の前を通り過ぎる。
そして次の部屋の扉を開けた。
見たい、見たい!
そろり、そろりと足音を忍ばせて王子の後に続く。
シーザーは最早勝手にしろと言わんばかりに床に寝そべった。
次の部屋は青い空の美しい風景画の絵が何枚も壁に掛かっている。
床は真っ白な絨毯。
ふむ、豪華さは変わらないがさっきの部屋よりも普通だ。
目の前を歩く王子。
部屋の奥に縦長の硝子の箱が見えた。
王子が邪魔で中が見えなかったので俺は横に移動し、それを見て絶句した。
ひと?
硝子の箱には人が、それはもう美しい女性が入っていた。
まさか、人間の剥製じゃないだろうなぁ?
そう思って近付きよく見ると、艶々しすぎている。
陶器の様な固そうな素材で出来た人形だった。
あー、ビクッた。良かったぁ。
でもマジで人間そっくりだ。
見上げると、この女性の顔が誰かに似ている気がする。
あ、王子と瓜二つじゃん!!
髪は此方の女性のマネキンはプラチナブロンドだが。この神の造形究極美的なお顔は正しく王子とそっくり。
てか、部屋にマネキン。しかもファッションの為とかそんな感じじゃないよな。まるで、棺の様な形の硝子の箱に、更に硝子で作られた百合だか薔薇だかの花々がその人形の周りを飾っている。
ああ、これか。シーザーが言っていた君の悪いやつってのは。
うん、確かに。ちょっと、いや、結構怖いな!
何でこんなものを置いているんだ?
作ったのか、作らせたのか?
でも正直な感想を言うと、この人形、恐いけど、凄く美しい。