妖精のごとき夢遊病のミーテが向かう先は?
この学園に入学してから既に1ヶ月が経過していた。
学園では火、土、水の実習訓練が終わったところだ。
ミーテはミネルバやイスカと仲良くやっている。
エドワードやスチュワートとも当たり障り無さそうだ。
学園生活は順調。
だが、ミーテをまた夢遊病が苛んでいる。
ミーテは気づいていないようだ。
夢遊病事態はヘッセン伯爵家にいた頃からずっと続いていた。
この学園に来た時は、ましにはなったが、たまに部屋を徘徊していた。
部屋だけならましだった。
だが、今朝俺は気付いてしまった。
珍しく俺の方が先に目が覚めたので、ソファを下りミーテのベッドの方を覗きに行った。すると、ベッドの天蓋も掛けずに、ミーテはうつ伏せにベットの布団の上に倒れていた。
何故布団を被っていないのかと疑問に思ったが、ミーテの足の裏を見た時、分かってしまった。僅かに土が付いている。つまり、外に出ていたという事だ。
廊下とこの部屋の間のドアは錠前で閉めているから出られるわけがない。
だとしたら、この部屋から出るの唯一の手段は窓だ。
人一人潜り抜けられるほどの大きさの窓がベッドの側に有る。因みに、ここは4階だがミーテなら跳べるし着地も可能だろう。
ミーテは欠伸をして起きるとカーペットに足を下ろした。
今まで気が付かなかったのは、ミーテはいつも布団の中で仰向けに眠っていたからだ。
今日のように倒れ込んだ様に寝てはいなかった。
面倒だが、今夜は寝ずの番になりそうだ。
深夜。満月が出ている。
ベットで寝ていたミーテの体がまるで一本の棒のようになり、足を軸にしてパッと起き上がった。糸で頭を引っ張ったんじゃないかと思うような人間離れした起き方に、俺はゾッとした。
布団がドサッと落ちる。
ミーテの目は半開き状態だ。
うわぁ。始まったよ。
ミーテはストンとベットから床に降りた。そして、すたすたと窓に向かう。
俺は走って、ミーテの足首に全身で巻き付いた。
窓から出られては最早俺には追うことは出来ない。
今ここで食い止めるしかない!
俺の重みでミーテの足は、、、止まらなかった。
俺の体重を物ともせずに歩きだす。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
ポンと俺ごと窓枠にミーテの足が掛けられた。
そして、窓の外に跳んだ。
うわあああああああああ!恐い恐い恐い恐い!
いわば上下する遊園地のアトラクション(ベルト無し自力でしがみつくバージョン)だ。
ドンッとミーテの足が近くの木の枝に着地する。
し、死ぬかと思った。
「今日は体が少し重い。」
ミーテがボソッと呟く。
俺の重みのせいだな。だけど、それでよく跳べたな。
更にミーテは跳躍する。
まるで、忍者の様だ。
ミーテの容姿的には妖精ってとこかな?
白銀の髪と白いネグリジェが月光に照らされ、この世のものとは思えない美しさだ。 端から見ていたらな。
足にしがみついている俺にとっちゃ早く止まってほしい恐怖のアトラクションだ。
枝からより高い枝へ、そして建物の上へと飛んだ。その際踏み台にした枝がミシッと鳴る。
どんだけ強く跳んでいるのだろう。脚力強いなぁ。
いつのまにか誰かのお宅の屋根の上に降り立った。
女子寮から大分遠ざかってしまったな。ヤバイぞ。非常にヤバイ。
だがそれよりも上下の激しい動きで乗り物酔いみたいなものが俺を襲い始めている。
ヤバイ。吐きそう。
涼しい風が吹いた。
そう言えば、マーリン学長が学園にも結界をはっていた筈だよな。生徒だったら通れるってことかな?
ミーテはヒョイヒョイと屋根を飛んでいく。
どこ行ってんだろう?
やがて、目の前に女子寮とよく似た建物が見えてきた。
近づくと、それは、、、