ミーテ視点 魔王の縁と私の夢
ミーテ視点
びびった。マジでびびった
。心臓が飛び出るかと思ったわ。
まさか、スチュワートとエドワード様が現れるなんて。
何とか怒らせず、かといって好意を抱かれもせず、普通に会話を終われたかな。
彼らが去った後、再び私は手元に視線を戻した。
ヒガリ王国
凡そ20年前に滅びた王国。
小国ながらも剣技が強く、独立を保っていたが、魔法の発展により衰退していった。魔法発動が可能な者はエマリカやシロリアに比べて民族的に非常に低かった。
低い山に囲まれていた。
平らな土地も多く水源も多いため農業は稲作が中心。
鉱物は金、銀、鉄、宝石等がよく採れる。
民族衣装は袖の長いフリル状の灰色の服。
ヒガリの王の紋章はススキ。
ヒガリ王国 最後の王は縁 扇椛 王妃は縁 撫子
、、、縁一族。
どうにも気になる。
確か私の母の名前は縁 桜だった。そして、母は魔王の妹。
単なる偶然の一致とは思えない。
ヒガリ王国については幾ら調べてもこれぐらいしか載っていなかった。
小さい頃にイスス共和国で読んだ歴史の本には、ヒガリ王国はエマリカとシロリアに同盟を破られて滅んだとなっている。
多分、イススのが正しい気がする。
だとしたら、そもそも何故エマリカとシロリアは同盟を破ったのか?
ふと歴史の授業で先生が言っていたことを思い出した。
20年前、ヒガリ王国がシロリア王国と共に共同で統治されることになりました。
19年前、魔道具の開発が盛んになりました。中でもエマリカ王立研究所は魔道具開発に力を入れ、次々と新しい魔道具の理論が確立されていきました。
16年前突如吸魔鬼が現れました。
魔王と名乗る闇の魔法使いの仕業だと判明後現国王は魔王を討伐しました。
、、、もしかして、魔王はヒガリの王族の一人ではないだろうか?
もしも魔王がヒガリの生き残りなら、魔王が吸魔鬼を作って私の母に魔力を貯めさせていたのは、エマリカやシロリアに復讐する為?
それともう1つ。
どうして急に魔道具の開発が盛んになったのだろう?
確かそれまで力をいれていなかった筈。
ヒガリを手に入れて鉱物が手に入ったからだろうか、それとも別の何かが?
あ、そう言えば。
何でスチュワートはヒガリ王国についての解釈が、国ごとに違う事で私が悩んでいると分かったのだろう?
まさか、私がエマリカ出身ではないと分かったのか?
私はスチュワートの言葉を思い出した。
「そこの解釈は国によって異なるのは仕方がないだろう。当然エマリカもシロリアも自分達が悪いなんて書きやしないだろうがな。」
、、、もしかして。
鎌をかけられていたんじゃないだろうか!?
確かそれに対して私は、、、。
「やはり、国によって違うのですか? 因みにシロリアでは?」
って答えちゃった。
あああああ‼!
やはりって言っちゃった!
これじゃあ、別の国の本を読んだことがあると認める事になるんじゃあ。
ここで、え、違うんですか!? って言っとけば良かったんだ。
ああ、どうしよう。
でもでも別に、私が他の国の本も取り寄せて読んだことがあるって解釈すれば私がイスス出身だってばれないんじゃないだろうか。
そうだ、そうしよう。言語も一緒だし。
もしも色々詮索されたらお取り寄せしたって返そう!
私は本を元の場所に戻して図書室を後にした。
寮に着くとメイドが希望通りの軽めの夕食を置いてくれていた。
今日の夕食は鶏肉の野菜煮込み。
まだ湯気の立つそれを食べつつ、足元で魔動物用の餌を頬張るトマトを眺めつつ夕食を終えた。
お風呂で体を洗い、白いネグリジェに着替える。
さて、寝るか。
天蓋付きベットに入る。因みにここでも、トマトが出ないように錠前をドアに掛けている。
部屋の大きな窓からは満月が見えた。
ベットの側の鍵付きの箱に手を伸ばす。
カチャリと開けるてジョナサンの腕時計を取り出した。
あれから随分と経ってしまったがジョナサンは元気だろうか。
私は恐らく行方不明扱いだろう。
ふと、暗い不安が過る。
もしかして、もう私の事を忘れてしまったんじゃないだろうか。
いや、そんな筈ない。
慌てて暗い考えを振り払うように、私は首を横に振った。
ジョナサンに限ってそんな事はあり得ない。
ああ、あの山の暮らしに戻れたらなぁ。
私は横になって目を閉じた。
目を開けるとそこは草原が広がっていた。
多分、、、夢かな。
だって私はエマリカにいるんだもの。
遠くでジョナサンが手を振っている。
私は立ち上がり歩きだした。
歩いていると、周りの景色が歪み、山で暮らしていた我が家の中になった。
私は家の2階の窓の前に立っていた。
窓の外には森が広がっている。
懐かしい。ここで木の実とかトリュフとか採ったなぁ。
後ろを向くと草原が見える。
再び前を向くと家の2階の窓の前。
ジョナサンの姿は見当たらない。
確かこの森を越えて飛ぶとジョナサンの住む町に出る筈。
私は2階の窓枠に足を掛けて、ぴょーんと飛んで、近くの木の枝に飛び乗った。
不思議だ。体がすっっごく軽い。
これなら、何処までも飛んでいけるかもしれない。
「待っててね。ジョナサン。今行くから。」
夢だと知っていても、私は追いかけざる負えなかった。