魔法の実習訓練
今、俺達はエマリカ学園西側の建物の屋上にいる。
屋上は芝生の広がる広場だった。屋上には金色の鐘が置かれている。
春風が心地よい。
空はレースの様な雲が青い空を覆っている。
今日は魔法の実習訓練を行うそうだ。
「魔法を発動する方法は大まかに分けて2種類。
1つ目は薬指から発動するもの。
薬指から発動するものとして、火、木、土、水、風、毒消し、回復があります。
2つ目は魔道具を使用して発動させるもの。
詳しくは午後の授業で行います。
では、今日は火を指先に灯すところから始めましょう。火が灯るイメージをして『セモトヨリカア』と唱えてください。」
先生の指示通りに皆、「セモトヨリカア。」
と唱え始めた。
誰が先に火を灯せるかな?
ポッと火を灯したのはエドワード王子。
早っ。1秒も経っていないぞ。
次はベレニケ、その次はカーキ色の髪、、、誰だっけ?
あ、生徒会書記のウォーゲルだったかな?
ウォーゲルの弟のミクラーが次に火を灯す。
生徒会って優秀だな。
あれ? ミステリアス秀才副会長のスチュワートは?
まだ灯せていない。
さては、演技しているな?
そう言えばミーテも確か既に魔法が使えるんじゃなかったのか?
ミーテを見上げると、薬指に集中しつつも周りをそっとうかがっている。
ミーテも演技しているのか。
目立ちたくないもんな。
全体人数の半分くらいが灯せたところで、ミーテとスチュワートはほぼ同時に火を灯した。
決して合わせるつもりはなかったのだろうが思惑が一緒だったのだろう。
全体が火を灯し終わったところで先生は次の指示を出した。
「次は『スバトオノホ』と唱えて火を空に飛ばしてください。なるべく高く。エマリカ学園の周囲の結界は魔法をぶち当てても壊れないので思う存分飛ばしてください。」
「スバトオノホ!」
エドワード王子の薬指から炎のビームが飛び出した。
ドンッ!
そして、遥か上空の見えない壁にぶつかり、離散した。
おおお! なんかかっけー!
俺もあんな魔法が使えたらなぁ。
他の生徒もやってはいるが、エドワード王子程高くは上がらない。
「ぐっ。難しい。」
脂汗を流しながら1人の生徒が必死にビームを出そうとしている。
そういや、こいつ一回もビームを成功していないな。
がんばれー。
ふと、その生徒の薬指の火の玉がフッと小さく縮んだ。
「あ、あれ? なんで?」
どうやら力を込めても火の玉が大きくならないようだ。
それどころかどんどん縮んで行く。
すると先生が血相を変えた。
「ジャック君! 今すぐ力を抜きなさい!」
「へ? え?」
だがジャック君は動揺して先生の指示を理解できていない。
その時、
パアアアンッ
その火の玉が爆発した。
「きゃああああ!」
四方に火が飛び散る。
生徒達はパニックに陥った。
「うわああああ!」
飛び散る火に制服を燃やされ、ジャック君含め数人の生徒達が火だるまと化した。
「熱っ!」
ミーテの声がした。
なんと、火がミーテの髪を燃やしている!
先生は屋上に設置してある鐘を鳴らした。
リーンゴーン、リーンゴーン。
すると、窓や扉から他の先生達が出て来て「クムモオウヨシウヨジ。」と唱え、スーーッと空中を飛んでこちらにやって来た。
その中にはミハエル先生もいる。
先生方は屋上に着くと呪文を唱えて薬指から水を出し、火を鎮火した。そして、火傷を負った生徒達を次々と担架に乗せて、保健室へと運んでいく。ミーテが担架に乗せられる際、俺も担架に飛び乗った。
先生方は余りにも淡々としていた。
まるで、よくある事の様に。
あの同意書は本当に危険だから、書かせていたのか。